選手の前に立つ私が絶対にしてはいけないこと 井村雅代コーチが語ったリーダーの〝心術〟

自身が日本代表を率いて連続10大会目となる今回の東京五輪で、選手ともども力闘を見せ、勇退を表明した井村雅代ヘッドコーチ。2012年のロンドン五輪でメダルを獲得できず、自信を喪失していた選手たちの心を奮い立たせ、2016年のリオ五輪では復活のメダルをもたらしました。指導者として日本中に感動を与え続けられたその功績を讃え、大変に厳しい試練に立たされていたというリオ大会での知られざるエピソードをご紹介します。試練をどう受け止め、人を育てるか。感動と示唆を与えられるお話です。

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この環境の中から金メダルは生まれる

~2017年9月開催「『致知』愛読者の集いin京都 」特別講演より~
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〈井村〉
9回目のリオオリンピックでは、試合に臨む前から厳しい試練に立たされました。選手村の環境がこれまでで最悪だったのです。

トイレは詰まる、シャワーは途中から水になる、パンは粉のようにパサパサ、レタスは茶色、バナナは真っ黒。いまの豊かで清潔な日本で育った選手たちにはかなりのストレスだったと思います。

最も酷かったのが試合用のプールでした。プールに藻が発生して水がどんどん緑色になっていったことは、ニュースでご存じの方も多いと思います。それだけならまだ対処できるのですが、水に潜った選手たちから

「先生、藻だけじゃないんです。小さな泡だらけで水の中が全然見えないんです」

と言われて、バクテリアが発生していることが分かりました。その水を飲んだら病気になりますから、これはさすがにダメですよね。

それが分かったのが前日の夕方でした。近くにある別のプールの水を急遽ポンプで汲み出して移すことになりましたが、試合当日の朝になっても、水深3メートルのプールにまだ2メートルしか水が入っていない。

私は、これではとても間に合わないと思い、他国のコーチたちと一緒に「試合前に一回でもいいから選手たちに練習をさせたいので、給水を急いでほしい」と組織委員会に訴えに行き、何とか事なきを得たのでした。

とにかく最悪の条件の中で臨んだオリンピックでしたが、そんな時、選手の前に立つ私が絶対にしてはいけないことは、愚痴を言うことです。

「こんなオリンピックってないよ」と言ったら、皆も愚痴を言い始めます。

まずは、これがリオオリンピックなんだと認めること。

そして私は選手たちに「この環境の中から金メダルは生まれるのよ」と言いました。
条件はどこも一緒なんだと。

そこに至るまでに徹底的に仕上げてきた国は、何が起こってもやっぱり崩れないんです。崩れない国の第一番はロシアでした。

二番目に崩れなかったのは、たぶん日本だったと私は思います。


(本記事は月刊『致知』2018年1月号 特集「仕事と人生」より一部を抜粋・編集したものです)


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◇井村雅代(いむら・まさよ)
大阪府生まれ。中学時代よりシンクロナイズドスイミングを始める。選手時代は日本選手権で2度優勝し、ミュンヘン五輪の公開演技に出場。天理大学卒業後、大阪市内で教諭を務める傍ら、シンクロの指導にも従事。昭和53年日本代表コーチに就任。平成18年より中国、イギリスの指導を経て、26年日本代表ヘッドコーチに復帰。リオ五輪ではデュエット、団体とも銅メダルを獲得。五輪でのメダル獲得数は通算13個となる。著書に『あなたが変わるまで、わたしはあきらめない』(光文社知恵の森文庫)『井村雅代コーチの結果を出す力』(PHP研究所)など。

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