真のキャリアアップとは何か。『営業の魔法』著者・中村信仁さんが説く働き方

アイスブレイク社長・中村信仁さん。高校卒業と同時に日本ブリタニカへ入社し、営業マンとして1年目から世界トップ10に入る成績を叩き出し、日本記録を樹立した方です。高校の恩師の言葉を筆頭に、目の前の仕事を徹底してやり切ることで自身を次なるステージへ押し上げてきた中村さんが、真のキャリアアップとは何かを語ります。

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働く原点は何か

〈中村〉
いま世の中では「ブラック企業」という言葉が飛び交っている。残業や休日出勤をさせて給料を払わない、これをそう呼ぶことに異論はない。

しかし、仕事が厳しくて辛いとか、叱責を浴びたからという理由でブラックだと叫ぶ。これはおかしな話である。厳しい会社とブラックの区別がつかなくなっているのではないかと思う。

公平と平等の区別についてもまた然りである。

例えば、1歳の子供と15歳の若者と80歳の老人がいた場合に、一個ずつパンを与えるのは平等だ。これを各々の適量に応じて公平に分けると、子供と老人は半分ずつ、若者は2個、という具合になる。

近年、日本には平等を重んじる風潮があるように感じるが、特に若い人たちには平等や横並びを求めるのではなく、公平な生き方をしてほしい。そして、厳しい会社を選んでほしい。これは私自身の体験を通じての実感である。

1984年、私は高校卒業と同時に、日本ブリタニカというフルコミッション(完全歩合制)の外資系英語教材販売会社に入社した。家が貧しかったため、大学に行くという選択肢はなかったのだが、なぜ数ある会社の中から日本ブリタニカを選んだのか。そのきっかけは、高校3年次の担任の先生にいただいたある言葉だった。

「友達がほとんど大学に進学する中で、おまえは4年後、絶対学歴でコンプレックスを感じる。だから、学歴のコンプレックスに負けない4年間を過ごしなさい。そのためには、とにかく地獄のように一番厳しい会社に入るんだ」

  〔略〕

先生と一緒に企業情報誌を捲り、偶然目に留まったのが日本ブリタニカだった。

売れにくい中でも売る工夫

入社1年目の営業手帳を見返してみると、365日のうち、360日働いている。休んだのはアポイントが取れなかった年末年始の5日間だけ。2年目も355日働いている。私は最初の2年間で営業の基礎を徹底的に学んだように思う。

自宅から会社まではバスに乗って約1時間半。私はバスの座席を自分の書斎だと思い、ひたすらに本を読んでいた。田舎ゆえにバスの本数が少なく、始業時間は10時だったが、その2時間前に着くバスに乗るしかない。

朝6時に起床、6時半過ぎのバスに乗り、8時前には会社に着く。こうして2年間、私は毎日誰よりも早く会社に行っていた。私にとってこの朝の2時間は、まさに夢時間であった。

皆が出社するまで、まず社内の掃除をし、お湯を沸かしてお茶の用意をしておく。その後、一日の仕事の準備やプレゼンのイメージトレーニングをする。一方、他の社員は10時前に出社すると、昼過ぎまでダラダラと過ごし、昼食に行ったりプレゼンに出掛けていく。テレアポ業務であるため、仕事のエンジンが掛かるのはお客様の繋がりやすい夕方くらいからだった。

私はそういう無駄な時間を過ごすことが嫌だったので、電話が繋がりにくい昼間は百貨店へと出掛けた。最上階からすべての売り場を回り、スタッフの名前をメモしてくる。すぐにオフィスへ戻って、「○○売り場の○○さんをお願いします」と百貨店に電話を掛ける。そうやってアポイントを取りつけていった。

他の社員が「どうせ昼間に家に電話掛けても出ないし」と投げやりになっているところ、そういう状況の中でどうやったら売れるだろうかと、朝から晩まで必死に考え続けたのだ。

その結果、入社3か月で全国3位に入り、初年度から世界トップテンに名を連ねることができた。また、2年目には紹介をもらう独自の営業手法を編み出したことで、1週間に3つの契約を上げる状態が21週続き、日本記録を樹立したのである。

売りにくい中で必死にイエスを取り続けた札幌の2年間がどれほど私を大きく成長させてくれたか、その恩恵は計り知れない。やはり厳しい環境が人を育て上げるのだと実感する。

仕事が迎えに来る生き方

ここ数年、転職サイトの広告を目にする機会が格段に多くなった。キャリアアップという言葉に象徴されるように、高給を求めて転職を繰り返すことが流行りのような感がある。

いい条件があったらそこに行く。もっといい条件があったらまた移る。そうなると結局、その人のモチベーションは給料をはじめとする条件だけになってしまう。それが本当にキャリアアップといえるのだろうか。

我われ日本人は獲物を狙う狩猟民族ではなく、農耕民族である。ゆえに、自分から条件のよい仕事を狙って移っていくよりも、次の仕事が迎えに来ることが望ましいように思う。

目の前にある仕事から逃げることなく、とにかく全部完結させる。そうすると、次の仕事が迎えに来る、仕事がその人を選んでくれるのである。これこそが真のキャリアアップだろう。


(本記事は月刊『致知』2015年11月号 連載「二十代をどう生きるか」より一部を抜粋・編集したものです

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◇中村信仁(なかむら・しんじ)
昭和41年北海道生まれ。59年高校卒業後、日本ブリタニカに入社し初年度から営業成績世界トップテンに名を連ねる。63年に独立。現在は企業の新卒採用や営業の支援事業の傍ら、「永業塾」を主宰し、後進の育成に携わる。著書に『営業の意味』(エイチエス)など多数。

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