国を侵略されたウクライナ人からの警告

かつてソ連の領土に組み込まれながら、その崩壊後に民主主義を取り戻したウクライナ。2013年から14年にかけ、親ロ派政権の成立に反発する学生デモが国中を巻き込む危機に発展し、ロシアによる国土侵攻を招きました。当時18歳だったアンドリー・ナザレンコさんは、国家が容易に侵略される経験を踏まえ、日本を愛するウクライナ人として、現在の日本社会に痛烈なメッセージを送っています。

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ロシアに侵略された祖国ウクライナ

〈ナザレンコ〉
私が政治に関心を持つようになったのは2013年、18歳の時でした。きっかけは、ウクライナで親ロシア派の政権が成立しようとしたことです。

かつてウクライナは独裁国家・ソ連の領土に組み込まれていましたが、ソ連崩壊後に民主主義を取り戻した数少ない国の一つです。17世紀に前身となるコサック国家が成立した時にも憲法があり、最高権力者が投票によって選ばれていたという歴史もあります。

ところが、親露派がロシアの圧力に屈して国の方針を不本意な形で転換したことに国民の反発が起こりました。首都キエフで起こった小さな学生デモを警察が武力で鎮圧したことで国民の危機感や怒りは爆発し、反対デモは一気に百万人規模に拡大したのです。

私もこのデモに参加し、首都の広場で十日間抗議運動を行いました。ところが、大統領はここまで高まった国民の声に一切耳を傾けず、警察に命じて実弾を撃ち、百人もの尊い命が失われました。

それでも反対運動をやめない私たちを、大統領は軍隊を送って鎮圧しようとしましたが、軍隊がこれを拒否して中立宣言を出したためロシアへ逃亡。これに3分の1の国会議員が追随したため、国政を担う者が不在となってしまいました。

無政府状態になったウクライナに侵攻してきたのがロシアでした。ウクライナとの国境を定めた友好条約があったにも拘らず、ウクライナの領土であるクリミア半島とウクライナ東部を不法占拠したのです。

私の故郷・ハリコフ市も親露派武装勢力によって占領され、私の通っていた学校の近くは銃撃戦により死者が出ました。通い慣れた道が血に染まったことは大変ショックで、自分の大切な故郷がいとも簡単に占領されてしまう現実の恐ろしさを思い知らされました。

幸いにして、私たち市民が立ち上がり、お金を出し合って軍隊を支援し、占領者を追い出すことができました。故郷がウクライナの領土として確定し、無事に平和を取り戻したのを見届けて、私は日本へ来たのです。

国の防衛を他国に委ねる危険性

侵略という恐ろしい体験をしてきた私は、日本の方が次のような発言をするのを聞いて非常に驚きました。

「軍隊をなくして隣国の脅威にならなければ攻められない」「どんな争いも、平和を訴え、話し合いさえすれば解決できる」「集団的自衛権を認めたら、他国の争いに巻き込まれるから危険だ」

こうした主張をする方々には、ぜひウクライナの辿った道を学んでいただきたいと私は思います。

ウクライナは核兵器を放棄し、100万人の軍隊を5分の1の20万人に縮小し、大国の対立に巻き込まれないよう軍事同盟にも一切加盟しませんでした。

さらに、兵器をロシアに譲る代わりにブダペスト協定書という国際条約を結び、ロシア、アメリカ、イギリス、フランスがウクライナを守るという約束を交わしました。ところが、その当事者であるロシアによって侵略されたのです。

他国との条約がいかに当てにならないものであるか、そして国の防衛を他国に委ねることがいかに危険であるか。ウクライナの失敗が、このことをハッキリと物語っています。

条約が破られたら国際社会が何とかしてくれる、と期待している日本の方は多いようです。しかし、ウクライナが侵略を受けた時に、一緒に戦い、守ってくれる国は一切ありませんでした。当時のアメリカはオバマ政権でしたが、ロシアの侵略を口先で批判するばかりで、具体的な行動は何も起こしませんでした。

ウクライナばかりではありません。チベットもウイグルも香港も、侵略や弾圧によって人々の自由が理不尽に奪われていることに対して、国連は批判こそしますが、行動は起こしません。

尖閣諸島はアメリカが守ってくれるから大丈夫、というのも危険な考え方です。アメリカが追求しているのはあくまでも自国の国益であり、いくら同盟国の領土であっても、自国の国益に合致しない限り行動を起こすことはありません。

以前出会ったある日本の方は、自分の息子が戦争で亡くなるのは嫌だから、アメリカ人が戦えばいいとおっしゃっていました。しかし、戦いもしない日本人の代わりに、アメリカ人が血を流して戦わなければならない道理がどこにあるのでしょうか。

米兵にも家族があり、故郷があります。他国のために死にたいと思っている人など一人もいません。日本を守る主役はあくまでも日本人であり、アメリカはその支援をする立場であることを忘れてはなりません。


(本記事は月刊『致知』2021年5月号 連載「意見・判断」より一部を抜粋・編集したものです)


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◇アンドリー・ナザレンコ(Andrii Igorovich Nazarenko)
1995年ウクライナ東部のハリコフ市生まれ。ハリコフ・ラヂオ・エンジニアリング高等専門学校で準学士学位取得。2013年11月~2014年2月、新欧米側学生集団による国民運動に参加。その後、ウクライナ軍をサポートするボランティア活動にも参加し、2014年8月に来日。日本の大学を卒業し、日本企業勤務の傍ら言論活動を展開。著書に『自由を守る戦い 日本よ、ウクライナの轍を踏むな!』(明成社)がある。

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