京セラ誕生から稲盛和夫と共に歩んで——伊藤謙介氏が語った経営者の「最大の仕事」

創業者・稲盛和夫氏のもと、一代で1兆円企業となった京セラ。そんな同社が呱々の声をあげるその前夜から、稲盛氏を支え続けてきたのが社長・会長を歴任した伊藤謙介氏です。まさに不可能を可能にしてきた創業者、組織と共に歩んできた体験を踏まえ、経営者にとって一番大事な仕事とは何かを伺いました。

水面下の充実こそが経営の要諦

――創業期から稲盛名誉会長とともに仕事をしてこられたご体験を踏まえ、経営で大切なことは何だとお考えでしょうか。

〈伊藤〉
会社は、表向きの業績数値だけでは測れない風土、文化、また理念というものが大事です。私はそれを踏まえて常々「ノンタイタニック経営」ということを話しています。

――ノンタイタニック経営とは。

〈伊藤〉
タイタニックというのは映画でも有名な豪華客船で、100年くらい前、航海中に氷山にぶつかり2,000名近くもの乗員乗客が亡くなる大惨事となりました。私はこの事件を経営の教訓にするべく、次のように自己流に解釈しています。

氷山というのは八割方水面下に沈んでいるものです。タイタニックの船長は、不意に海上に現れた突起を見て慌てて舵を切りました。何とか蹴散らして進もうとしたのですが、船は真っ二つに大破して沈没しました。あのタイタニックでもびくともしないほど巨大な氷山が水面下に潜んでいたわけです。

同様に経営においても、多くの人は水面上の突起、つまり目に見えるものしか見ていないのです。

会社も表向きの業績数字だけではなく、水面下に哲学や理念、情熱、思い、夢といったものがあります。その見えない部分を充実させてこそ水面上の突起の部分も充実してくる。それを私はノンタイタニック経営と呼んでいるのです。

――見えない部分こそが大事だと。

〈伊藤〉
はい。京セラが本社を構える京都には素晴らしい企業がたくさんありますが、いずれも創業者や、その哲学や理念をしっかり継承した2代目、3代目が頑張っておられます。いい企業というのは、創業者の哲学や理念が社員の中でしっかりと生きているのです。

当社も稲盛の哲学や理念をまとめた京セラフィロソフィを全社に浸透させることで大きな成長を遂げてきたのです。

――稲盛名誉会長が日本航空を一年で黒字転換させたところにも、フィロソフィの力が見出されます。

〈伊藤〉
私は日本航空についてはよく分かりませんが、ダメな会社というのは結局幹部がダメなのです。社員は一所懸命働いていても、幹部がだらけていたらそれが全体に伝わって、組織全体が弛緩(しかん)してしまうものです。

全従業員の意識の集約したものが会社であり、会社の社格は、創業の哲学をもとにどういう人格の社員をつくり上げているか、つまり人格×社員の総数で表されると私は考えます。

ですから経営者は、立派な幹部、立派な社員をつくり上げていくことが最大の仕事であり、そこに企業内教育の重要性があるのです。


(本記事は月刊『致知』2011年11月号 特集「人生は心一つの置きどころ」より一部を抜粋・編集したものです)

◉『致知』2022年12月号は、稲盛和夫氏と縁の深かった各界の士による総特集。それぞれの心に深く刻まれた氏の教え、これから来る新たな時代への思いを語っていただきました。
伊藤謙介氏にも再び登場いただき、稲盛氏が京セラの後に創業したKDDIの同じく創業メンバーである小野寺 正氏と、リーダーのあり方について白熱の談義を交わしていただいています。

【特集「追悼 稲盛和夫」を発刊しました】

去る8月24日、稲盛和夫・京セラ名誉会長が逝去されました。35年前、1987年の初登場以来、折に触れて様々な方との対談やインタビューにご登場いただくのみならず、たくさんの書籍の刊行、数々のご講演を賜るなど、ご恩は数知れません。
生前のご厚誼を深謝し、月刊『致知』12月号では「追悼 稲盛和夫」と題して特集を組みました。豪華ラインナップは以下特設ページよりご覧ください。
◇伊藤謙介(いとう・けんすけ)
昭和12年岡山県生まれ。高校卒業後、松風工業入社。34年京都セラミック(現・京セラ)創業に参画。50年取締役。常務、専務、副社長を経て、平成元年社長に就任。11年会長。17年相談役。著書に『心に吹く風』『リーダーの魂』(いずれも文源庫)がある。

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