2021年04月27日
創業者・稲盛和夫氏のもと、一代で一兆円企業となった京セラ。そんな同社が呱々の声をあげるその前夜から、稲盛氏を支え続けてきたのが社長、会長を歴任した伊藤謙介氏です。まさに不可能を可能にしてきた創業者、組織と共に歩んできた体験を踏まえ、経営者にとって一番大事な仕事とは何かを伺いました。
【好評御礼】
『致知』2021年4月号 特集「稲盛和夫に学ぶ人間学」は、おかげさまで大反響、多くの感動の声をお寄せいただきました。皆様に心より御礼申し上げます。
稲盛和夫氏による秘蔵講話ほか、永守重信氏(日本電産会長)、野中郁次郎氏(一橋大学名誉教授)、山中伸弥氏(京都大学iPS細胞研究財団理事長)、長渕剛氏(シンガー・ソングライター)らが競演する永久保存版。この号は致知電子版でお読みいただけます!
水面下の充実こそが経営の要諦
――創業期から稲盛名誉会長とともに仕事をしてこられたご体験を踏まえ、経営で大切なことは何だとお考えでしょうか。
〈伊藤〉
会社は、表向きの業績数値だけでは測れない風土、文化、また理念というものが大事です。私はそれを踏まえて常々「ノンタイタニック経営」ということを話しています。
――ノンタイタニック経営とは。
〈伊藤〉
タイタニックというのは映画でも有名な豪華客船で、100年くらい前、航海中に氷山にぶつかり2,000名近くもの乗員乗客が亡くなる大惨事となりました。私はこの事件を経営の教訓にするべく、次のように自己流に解釈しています。
氷山というのは八割方水面下に沈んでいるものです。タイタニックの船長は、不意に海上に現れた突起を見て慌てて舵を切りました。何とか蹴散らして進もうとしたのですが、船は真っ二つに大破して沈没しました。あのタイタニックでもびくともしないほど巨大な氷山が水面下に潜んでいたわけです。
同様に経営においても、多くの人は水面上の突起、つまり目に見えるものしか見ていないのです。
会社も表向きの業績数字だけではなく、水面下に哲学や理念、情熱、思い、夢といったものがあります。その見えない部分を充実させてこそ水面上の突起の部分も充実してくる。それを私はノンタイタニック経営と呼んでいるのです。
――見えない部分こそが大事だと。
〈伊藤〉
はい。京セラが本社を構える京都には素晴らしい企業がたくさんありますが、いずれも創業者や、その哲学や理念をしっかり継承した2代目、3代目が頑張っておられます。いい企業というのは、創業者の哲学や理念が社員の中でしっかりと生きているのです。
当社も稲盛の哲学や理念をまとめた京セラフィロソフィを全社に浸透させることで大きな成長を遂げてきたのです。
――稲盛名誉会長が日本航空を一年で黒字転換させたところにも、フィロソフィの力が見出されます。
〈伊藤〉
私は日本航空についてはよく分かりませんが、ダメな会社というのは結局幹部がダメなのです。社員は一所懸命働いていても、幹部がだらけていたらそれが全体に伝わって、組織全体が弛緩(しかん)してしまうものです。
全従業員の意識の集約したものが会社であり、会社の社格は、創業の哲学をもとにどういう人格の社員をつくり上げているか、つまり人格×社員の総数で表されると私は考えます。
ですから経営者は、立派な幹部、立派な社員をつくり上げていくことが最大の仕事であり、そこに企業内教育の重要性があるのです。