人間力を高める「新春特別シンポジウム」〈後編〉 福地茂雄×鈴木秀子×横田南嶺

令和3年1月23日(土)に行われた「『致知』新春オンライン講演会」。900人を超える愛読者の方々にご参加いただき、感動に包まれる中、盛況裡に終了しました。その新春オンライン講演会の第三講では、弊誌連載でもお馴染み、アサヒビール社友・福地茂雄先生、文学博士・鈴木秀子先生、鎌倉円覚寺管長・横田南嶺先生による特別シンポジウムを開催。『致知』の魅力に始まり、このコロナ禍を生き抜くための心構え、よりよい人生を送る秘訣までを語り合っていただきました。そのシンポジウムの内容を2回にわたってご紹介します。
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自分ができることに取り組んでいく

――続いて福地先生、このコロナ禍、困難に向き合う心構えをお話しいただけますでしょうか。

 (福地)
『致知』2020年12月号特集「苦難にまさる教師なし」にご登場のノーベル賞を受賞した大村智先生が、「このウィズ・コロナの時代に私たちはどういうことを心掛けていけばよいのでしょうか」という質問に対して、次のようにお答えになっています。

「特別に難しいことではありません。生活リズムを整える、きちんと食事を摂って体力をつける、手を洗う、マスクをするといった当たり前のことを油断なくきちんとやることが大事でしょうね。北里先生も感染病の予防に関して『油断をするな』とおっしゃっています。健康には習慣が大事ですが、私自身は以上のことに加えて生理食塩水に近い濃度の薄い食塩水で鼻を洗うことを、朝夕習慣化しているんです」

他にもいろいろと書いていらっしゃいますけれども、私はもうこれに尽きると思うんです。

しかし、我われには今回の新型コロナウイルスに対して、慢心、驕りがあったのではないでしょうか。私に限っても、おそらく自分は人にうつさない、人からもうつされないだろう、という驕りがあったように思います。ですから、常にマスクをつける、ソーシャルディスタンスを保つ、こまめに手洗い、指先洗いを実行する。外出から帰宅後、就寝前には必ずうがいをするといった当たり前のことを当たり前に実行することが、いま改めて求められているのだと思います。

そして、最近「ニューノーマル」という言葉が出てきていますが、これはビジネスの世界でも、日常生活の世界でも、芸術の世界でもよく使われる言葉です。コロナ禍のニューノーマルの代表的なものといえば、やはり、テレワークだと思うんです。人との出会いや人間関係を大事にする日本人からすれば、テレワークは馴染みのないことなんですけれども、やはり、変化に即した生き方をしていくことも困難を乗り越えるためには大事だと思います。

それに関してもう一つ、いま持続可能な開発目標、SDGsの大切さがよく言われておりますね。私も関連団体の役員をしているのですが、これを企業や団体がする仕事だと思わず、自分ができることとして取り組んでいく。例えば、食べ物を残さず大切にする、水を使い過ぎず大切にする。海洋汚染に繋がるビニールをなるべく使わないで生活をする。「隗(かい)より始めよ」という言葉がありますけれども、そういうところから心掛けていきたいと思ってます。

あなたは神の慈しみで常に満たされている

――では次の質問ですが、令和3年という新しい年を迎えるにあたって、ぜひ視聴者の皆様に「言葉のお年玉」をプレゼントしていただければと思っております。いかがでしょうか。

(横田)
私はご覧の通り禅だけをやってきた人間でございますから、その禅の教えを端的に伝えるためにはどんな言葉がいいかなと考えますと、やはり「花を見てほほえむ」ですね。お釈迦様がお花を示すと、ある弟子がニッコリほほえんだ。これが禅の起こりなんでございます。

いまのような時代の中で、私もお寺を預かっておりますと、だんだんだんだん、こう下を向いてしまう。顔がこわばってしまうことが、気がつくと多いんですね。やっぱりこれではいけない、花を見てほほえむ。花がなければ、空を見てほほえむ。風を感じてほほえむ。あるいは息を吸ってほほえむ。そういうふうにして、少しでもほほえむ機会を増やしていくことで、自然と心も明るくなっていくのではないかなと。こんな時だからこそ、ほほえむことを大事にしていただいたいと思っております。

(福地)
昨年末、清水寺の貫主が書かれた今年の漢字は「密」です。密には色んな意味がありますけれども、私どもがいま使っている密は、過密の密ですね。つまりソーシャルディスタンスを保つという意味の密。私からの言葉のお年玉はその「密」なのですが、密は密でも、「親密の密」です。

新型コロナウイルスによって、人と人との関係が本当に疎遠になっています。ですから、このコロナ禍が去った暁には、また皆で親密になりたいと願っています。人と人との関係は、やはり親密。特に日本人は親密ということを大切にしますからね。

(鈴木)
私は、『聖書』の中から言葉を選びました。それは、「あなたは神の慈しみで常に満たされている」という言葉です。

私たちは、上手くいかなかったり失敗したりすると、何でこんな馬鹿なことをしたんだろうとか、自分を責めたり、人のせいにしたりしますけれど、そういうことを超えて、どんなに自分がだめだったとしても、神様はあなたを一人の人間として、一瞬一瞬命を与え、大切な人として扱っている、そう見ていらっしゃる。そして、神様は親が子を思う何億倍もの慈しみの心であなたを包んで、神の目に尊い存在としていつもあなたを存在させていてくださる。

この言葉を思う時に、自分が馬鹿なことをしようが、神様はそういう自分を見ていてくださるんだな、と信ずることができるようになります。頭で考えて分かるのは理解ですけれども、理解できないことを信ずるのが信仰なんですね。神様は常に自分と共にいて、自分をいつもあたたかい思いで、包んでいてくださる。目には見えない存在にいつも自分は守られている。そう信ずることが、自分を前進させていく大きな一歩になると私は考えています。

立ち上がるぞ! という気迫を失ってはならない

──素晴らしいお話をありがとうございます。あっという間にお時間が迫ってまいりました。最後に先生方の今年一年の抱負、信条をお聞かせください。

(福地)
私の山小屋に、ある先生が読まれた次の和歌がかけてあります。

「岩もあり 木の根もあれど さらさらと たださらさらと 水の流るる」

もうすぐ88歳を迎える私にとって、これはまさに私の生き様を示唆しているような和歌だと思うんです。

もう一つ、物理学者の佐治晴夫先生が『十四歳のための時間論』という本を出されています。その中に、「あなたのこれからが、あなたのこれまでを決める」とあります。若い人はこれからの人生のほうが長いですから、大いに苦労・失敗を重ねて、失敗を成功に導いていけばいいんですが、先の短い私にとっては、もう失敗は許されない。小さな失敗でも、これまでの私の小さな成功を台無しにしてしまう。

ということで、この2つの言葉はすでに信条になっていますけど、これからも大切にしていきたいと思います。

(鈴木)
先ほど、横田先生が「花を見てほほえむ」というお話をなさってとても感動しました。私はこの大自然に満ちた、神様の栄光といいますか、すべてのものが素晴らしいということに対して、よりいっそう賛美を深め、感謝の心を深めていきたいと思います。また、福地先生が習慣の大切さをおっしゃられましたけど、日常の些細なことにも心を込めて、賛美と感謝を深めながら、これからも生きていきたい、そう願っています。

(横田)
今年の信条、抱負とか課題と言ってもいいと思いますけれども、それはやはり禅でいう腰を立てる、「立腰」ですね。『致知』ともご縁の深い森信三先生も「立腰」の大切さを説いておられますが、私はこれを長いこと姿勢、形のことだと考えていました。しかし、この腰を立てるというのは、単に身体的なことだけではないと、この頃ようやく思いまして……。

人間は立ち上がろうとする時に、腰が立つんですね。倒れて起き上がろうとする時に、腰が立つんですね。つまり、常に立ち上がるぞと、起き上がるぞっていう気持ちが、腰を立てる、つまり「立腰」なんです。

ですから、この「立腰」を24時間、四六時中、保っていくっていうのがいまの私の課題ですね。どうしても、体を整えることばかり考えてしまいますけれど、立ち上がるぞ! っていう心の気力というのかな、気迫というものを、この困難な時に常に失いたくないなと思うんです。

『致知』の読者の皆さんはご存じだと思いますが、京都大学の総長を務められた平澤興先生も「ニコニコ顔の命がけ」とおっしゃっています。では、この「命がけ」とは何だろうかと考えると、やはり昔の侍、武士っていうのは命がけですね。武士はいつ何時でも、パッと立ち上がって戦える。その気構えが腰を立てた姿勢になっていたんだろうなと。

ですから、どんな時でも「よし、ここで起き上がるぞ!」「もう一回立ち上がるぞ!」という立腰を自分がしっかり実践をして、若い人たちにも伝えていきたいと思います。


(本記事は令和3年1月23日開催「『致知』新春オンライン講演会」より一部を抜粋・編集したものです)


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◇福地茂雄(ふくち・しげお) 
昭和9年福岡県生まれ。32年長崎大学経済学部卒業後、アサヒビール入社。京都支店長、営業部長、取締役大阪支店長、常務、専務、副社長を経て平成11年社長に就任。14年会長。18年相談役。20年第19代日本放送協会会長(23年まで)。『致知』にて「巻頭の言葉」を連載中。

◇鈴木秀子(すずき・ひでこ)
東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。聖心女子大学教授を経て、現在国際文学療法学会会長、聖心会会員。日本で初めてエニアグラムを紹介し、各地でワークショップなどを行う。著書に『自分の花を精いっぱい咲かせる生き方』(致知出版社)などがある。『致知』にて「人生を照らす言葉」を連載中。

◇横田南嶺(よこた・なんれい)
昭和39年和歌山県生まれ。62年筑波大学卒業。在学中に出家得度し、卒業と同時に京都建仁寺僧堂で修行。平成3年円覚寺僧堂で修行。11年円覚寺僧堂師家。22年臨済宗円覚寺派管長に就任。著書多数。最新刊に『十牛図に学ぶ』(致知出版社)がある。『致知』にて「禅語に学ぶ」を連載中。

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