本田宗一郎、松下幸之助、盛田昭夫……「魅力ある」経営者に共通したもの(城山三郎)

明治、大正、昭和……。近代日本の発展に貢献した名立たる創業経営者たちに、資料や取材を通じ、直接に深い交流を持っていた作家の城山三郎さん(故人)。生前、城山さんにはそうした出逢いの数々を振り返りながら、魅力ある経営者とはどのような人間だったのか、実際のエピソードを語っていただきました。

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根本に「魔」を抱く

〈城山〉
いろいろなアイデアを抱く人はたくさんいます。だが、それを創業に持っていき、軌道に乗せられるかどうかの境目はここなんですね。多くはここを乗り越えられず、アイデアは単なるアイデアで終わってしまう。

――その境目を乗り越えさせるものはなんですか。

〈城山〉
渋沢栄一の言う「魔」でしょうね。

――「魔」、ですか。

〈城山〉
情熱と言ってもいいし狂気と言ってもいい。何かをやるなら「魔」と言われるくらいにやれ、「魔」と言われるくらいに繰り返せ、ということです。

渋沢は埼玉の農家から出てきて一橋家に仕える。侍になりたいんですね。ところが、割り当てられたのは勝手番。これでは上の人と話し、認めてもらうチャンスがない。だが、上の人が毎朝乗馬の訓練をする。この時なら話すチャンスがあるということで、渋沢は馬と一緒に走って自分の思いや考えを上の人に話す。毎朝それをやる。すると、あいつは見どころがあるということで、そこから彼の人生は開けていく。

――まさに「魔」ですね。

〈城山〉
渋沢は三つの魔を持っていた。吸収魔、建白魔、結合魔です。

学んだもの、見聞したものをどんどん吸収し、身につけてやまない。物事を立案し、企画し、それを建白してやまない。人材を発掘し、人を結びつけてやまない。

普通にやるんじゃない。大いにやるのでもない。とことん徹底して、事が成るまでやめない。そういう「魔」としか言いようのない情熱、狂気。根本にそれがあるかないかが、創業者たり得るか否かの分水嶺でしょう。

魅力ある経営者たちに共通したもの

――本田宗一郎さんも息子さんを後継者にしませんでしたね。

〈城山〉
創業者で一人だけ挙げろと言われたら、私は本田さんを推したいと思っているほどです。あの人はまさに社業に自分のすべてを賭け、会社を大きくすることに集中し、「魔」を実践した人です。

本田さんが社名をホンダとしたのを後々まで悔いていたというのは有名な話だが、人間はそこまで徹すると自分がはっきりと見え、謙虚になれるんでしょうね。自分は技術の社長で、本当の社長は専務の藤沢武夫さんだとは本田さんがよく言っていたことだが、それも口先だけで言うのではない。心底から本当にそう思っていたんです。

人間、謙虚だと自分に足りないものがよく見えるから、それを持っている人とパートナーを組むことができるんですね。それが成功につながる。

――ソニーの井深大さんと盛田昭夫さんもそうですね。

〈城山〉
井深さんが技術畑で盛田さんが営業畑。初代、二代目と受け継いで、あれも絶妙のコンビですね。お二人とも謙虚さを備えていた。

そう言えば、成功した創業者というのは社員を大事にしますね。自分に足りないものが見えるから、社員を育てようとするのでしょう。

井深さんはカメラが趣味で、何を撮るかと言えば、その頃井深さんは会社の近くのマンションに住んでいて、よく社員がやってくる。その社員の素顔をもっぱら撮るんです。すると、社員が澄まし顔になって、ありのままの素顔が撮れない。それでカメラに工夫をして、レンズを向けたのとは違う社員が写るようにして、素顔を撮った。

――社員の素顔を撮影して、どうするんですか。

〈城山〉
引き伸ばして眺めるんだそうです。変な趣味と言えば変な趣味だが(笑)、単なる趣味ではないでしょう。この社員はこういうことを言っていた。この社員はこんなことを考えている。

そういうことを頭に刻み付けて、では、どういう仕事を与えれば伸びるか、どの仕事を任せることができるか、それをいつも考えていたんですね。

――それはすごいことですね。

〈城山〉
松下幸之助さんもそうです。

「自分が病身だったから、会社を大きくすることができた」とは、幸之助さんがよく言っておられたことです。病身だから思うように動けない。社員に任せるしかない。だから、この社員と見極めて仕事を任せたら、すべてを任せてしまう。そして、結果の責任は自分が取る。その潔さこそが松下電器の原動力となったものです。

――なかなか難しいことです。

〈城山〉
創業者というのは自信があるから、どうしても「俺が俺が」になりがちです。よく会社が不祥事を起こして、「社員にある程度任せていたが、自分がきちんと見ることができなくてこういうことになってしまった」などと弁明している経営者がいるでしょう。みっともない話です。

社員に仕事を任せるにしても、中途半端な任せ方しかしない。経営者がちょこちょこ口出しする。従って、社員もいいかげんになってしまう。中途半端な任せ方だから、結果についてはすべて経営者が責任を負うという潔さも出てこない。逆に言えば、社員にすべてを任せるような育て方をしていない、きちんとした社員教育をしていない、ということでしょう。

すべてをここに賭けるという潔さがないから、そういうことになるんです。社員教育で「魔」になれないんです。


(本記事は『致知』2005年2月号 特集「創業の精神」より一部を抜粋・編集したものです)


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◇城山三郎(しろやま・さぶろう)
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作家。名古屋生まれ。海軍特別幹部練習生として終戦を迎えた。一橋大学卒業後、愛知学芸大学に奉職、景気論等を担当。1957年、『輸出』により文学界新人賞、1959年『総会屋錦城』で直木賞を受け、経済小説の開拓者となる。吉川英治文学賞、毎日出版文化賞受賞の『落日燃ゆ』の他、『男子の本懐』『黄金の日日』『役員室午後三時』『毎日が日曜日』『官僚たちの夏』『もう、きみには頼まない』『硫黄島に死す』『指揮官たちの特攻―幸福は花びらのごとく―』等、多彩な作品群は幅広い読者を持つ。1996年、菊池寛賞を、2002年、朝日賞を受賞。2007年逝去。

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