2021年01月13日
安保法案の論議、森友・加計問題……挙げれば切りがないほど、メディアの報道姿勢はあまりに偏っている――。文藝評論家の小川榮太郎さんは、そのように偏向したメディアの実態と、 そこに向き合う私たちの姿勢について警鐘を鳴らされています。(内容は2017年12月当時のものです)
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報道の9割を占める政権否定
〈小川〉
2時間33分46秒に対して、6分1秒と2分35秒。
何の時間を比較したものか、お分かりだろうか。
国家戦略特区での獣医学部新設に学校法人加計学園が選ばれた際、安倍総理や官邸の働きかけがあったか否か、いわゆる加計問題を巡り、(2017年)7月10日に行われた国会の閉会中審査について、すべてのテレビ局で報道に費やされた合計時間の比較である。
2時間33分46秒が、安倍総理や官邸から何らかの働きかけがあったと主張する前川喜平前文部科学省事務次官の発言を放送した時間。
これに対して、そのようなことはなかったとする加戸守行前愛媛県知事と原英史国家戦略特区ワーキンググループ委員の発言は、それぞれ6分1秒と2分35秒しか報道されなかった。あまりにも偏った時間配分ではないだろうか。
〔中略〕
ここまで偏った報道を連日のように繰り返せば、ひょっとして安倍総理は何か悪いことをやったのではないか、という疑念が国民の間に広がっていくのは当然である。
「報道しない自由」を盾に、事実の一方を隠蔽して政権否定を繰り返すテレビ。これは日本憲政史上最低最悪のメディアジャックであり、日本の自由社会の深刻な危機だと私は断じたい。
私が、テレビの報道の実態に強い疑念を抱き、社会問題として取り上げたいと考えたのは、安保法案の時である。この時もテレビでは、法案の内容を十分吟味することもなく、「戦争法案」という否定的なレッテルを貼って反対を煽る報道ばかりを繰り返した。
私は実態を正確に把握するため、私が代表を務める日本平和学研究所で、全テレビ局を対象に法案に否定的な報道の時間と、肯定的な報道の時間を秒単位で計測してみた。結果は驚くべきものだった。全局を通じてほぼ9対1の割合で否定的な報道が占めていたのだ。ここまでくればもはや報道ではなく、安保法案潰しのプロパガンダといっても過言ではない。
ところが、こうした時間の偏りを指摘しても、大半のテレビ関係者やジャーナリストは何の痛痒も感じない。自分たちは権力批判のために存在するのだから、反対意見のほうを強く打ち出すのは当然だという理屈である。
テレビ局は放送法四条を遵守せよ
私はこの考え方に強い違和感を覚える。いまの安倍政権は、我われが自らの判断で選んだ国民の代表者だ。しかも、戦後日本で稀に見る高い支持率からも明らかなように、国民が強く信任している政権である。
これに対し、国民の代弁者でも何でもないテレビ局が、貴重な公共財である電波を独占的に使用し、極端に偏った報道を勝手に繰り返して大きな打撃を与えている。これは国民の委任なき、反政府破壊活動と呼ぶべきではないか。
ちなみにこの電波の使用料だが、NTTドコモが年間254億円を払っているのに対し、同じ年にNHKは18億円、他の民放各局はそれぞれ4億円前後しか払っていない。かくも安価に電波を使用しながら、限られた免許事業者の立場をよいことに、国民の声を全く反映せず一方的に政権批判を展開している。
テレビというのは、極めて洗脳性の強い媒体である。ゆえに、書籍やネットなど、他の媒体をあまり利用することのない人々、特に高齢者層などは、テレビで報道されることを信じ込まされやすい。論理性のない印象操作によって、ネガティブな感情を視聴者の間に喚起する恐ろしさを、テレビは持っているのである。
〔中略〕
こういう状況下で、いかにすれば国民の知る権利を守っていけるだろうか。一つ有力な糸口となるのが、彼らの行っていることが単なる偏向報道でなく、違法報道であると広く知らしめることである。
日本には言論の自由があるが、放送メディアは電波を独占し、また影響力が大きいため、放送法の規制下にあり、その四条では次のような準則を事業者に義務づけている。
一、公安及び善良な風俗を害しないこと
二、政治的に公平であること
三、報道は事実を曲げないですること
四、意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること
冒頭から記してきたテレビの報道姿勢が、この内容から逸脱したものであることは明らかである。
ところが、この放送法四条には大きな欠陥がある。違反した業者をどう処分するかという細目が定められていないのだ。そのため法的な解釈上ではこの条文は努力義務に過ぎず、結果として放送メディアの放置状態が続いている。放送メディアに一切の法規制がないのは、先進国の中でも日本くらいのものである。
マスコミの真の役割は主権者である国民が正しい政治判断をできるよう、事実を多面的に、深く、より正確に伝えることであって、政治プロパガンダで国民を洗脳することではない。もういい加減、事実報道の原点に戻ってほしい。
(本記事は『致知』2017年12月号 連載「意見・判断」より一部抜粋・編集したものです)
◉小川榮太郎さんは『致知』2021年2月号にもご登場。日本企業の多くが取り組んでいる「働き方改革」の問題について、鋭く切り込んでいただきました。
◇小川榮太郎(おがわ・えいたろう) ◎各界一流プロフェッショナルの珠玉の体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。あなたの人間力を高める、学び続ける習慣をお届けします。 たった3分で手続き完了、1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら。 ≪「あなたの人間力を高める人間力メルマガ」の登録はこちら≫
昭和42年千葉県生まれ。大阪大学文学部卒業、埼玉大学大学院修士課程修了。著書に『小林秀雄の後の二十一章』(幻冬舎)『天皇の平和 九条の平和』(産経新聞社)『徹底検証「森友・加計事件」――朝日新聞による戦後最大級の報道犯罪』(飛鳥新社)など。共著に『テレビ局はなぜ「放送法」を守らないのか――民主主義の意味を問う』(ベストセラーズ)など。
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