2020年12月06日
本業の経営コンサルタントに加え、数多のテレビ出演だけでなく年間100回を超える講演に全国を飛び回っているという小宮一慶氏。その過密な仕事スケジュールを10年以上にわたって支えてきたのが井出元子さんです。秘書は上司の〝お世話係〟ではない、経営の心構えやものの見方は秘書の仕事にも活かせる――「秘書」という仕事に徹してきた井出さんならではの仕事観・人間観に多く学ばされます。
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秘書は上司のお世話係ではない
――井出さんは経営コンサルタントの小宮一慶さんの秘書を長年勤めていらっしゃるそうですね。
〈井出〉
今年(2019年)で11年目になります。小宮は業種や企業規模を問わず幅広くコンサルティングを行っている他、テレビ出演や年間百回以上の講演で、常に全国各地を飛び回っています。
秘書という仕事に“上司のお世話係”というイメージをお持ちの方もいるかもしれませんが、私は経営者、経営コンサルタント、著者、講演者など小宮のすべての仕事における“補佐役”だと思っています。
ですから、上司だけに尽くしてお客様にはご迷惑が掛かっていたり、社内で上司の意向を他の社員にうまく伝えられなかったりということがないよう、どうしたらお客様と上司、組織全体が「三方よし」の関係になれるのか、常に最適解を模索して仕事をしています。
――上司に意識を向けているだけでは不十分だと。小宮コンサルタンツにはどういう経緯で入られたのですか?
〈井出〉
秘書をしていたわけではなく、小宮のことも恥ずかしながら、“テレビでチラッと見た人”というイメージしかありませんでした。
たまたま転職を考えていた際に、求人広告で小宮が秘書を募集しているのを見ました。長年、企業研修の講師をしていた経験が役に立つのではと考え、慌てて小宮の著書を読んで面接に向かいました。
――縁あって採用されたのですね。
〈井出〉
当時はまだ社員6名の会社でした。小宮は人間的には非常に優しいんですけれども、仕事に対してはとても厳しいので、それからはびっくりするくらい大変な毎日が始まりました(笑)。
とにかく小宮は出張が多いのですが、どんなに時間がない時でも1日1、2回は会社に電話を入れ、必要事項の確認や報告の機会をつくってくれるのです。
入社初日に電話があった時も、最初は前任の秘書が出たのですが、小宮は
「井出さんに出させてください」
と言うのです。引き継ぎを受けている段階でまだ何も分からず、冷や汗をかきました。電話に出ることが私の仕事であり、初日だからとかそんな言い訳がきかない厳しい仕事なのだと伝えたかったのだと思います。
小宮一慶氏に学んだこと
――お話を伺っていると、秘書の仕事は大変奥が深いですね。
〈井出〉
その通りです。
一方で、秘書経験のある方や事務職の方には共感いただけるかもしれませんが、表面的にひと通りの業務を覚えると、これから先もずっと上司のスケジュール調整や新幹線の予約を永遠に続けていくのだろうか……と、雑念が頭をもたげてくることもあるんです。
私も3年くらい経った頃、自分の秘書としての仕事を一段高めるために、何かしなければと痛切に焦っていました。そこで、小宮にお願いして弊社が主催する経営コンサルタント養成講座を1年間受講させてもらったんです。
弊社にコンサルタントとして入社した社員はこの講座に参加するのが恒例でしたが、事務職の女性が受講した例はありませんでした。
――積極的な行動でしたね。
〈井出〉
秘書である私がコンサルタントのための講座を受講することに小宮が反対せず、むしろ歓迎してくれたのは本当にありがたいことでした。職種や立場にこだわらず、前向きにやりたいという気持ちを応援してくれるのです。
講座では経済分析や管理会計、財務諸表の読み方など難しい内容もありましたが、経営の心構えや正しい考え方、ものの見方は、コンサルタントでなくても、自分の仕事に活かせるものでした。
――知識やスキルよりも、心を磨くことのほうを重視されていた。
〈井出〉
参加したことで、事務職としてこれまで私が見ていた世界がいかに狭かったのかがよく分かりました。経営コンサルタントである小宮がどんな志や思いを持って仕事をしているのかも、この講座を通して感じることができました。
また、冒頭でも触れた通り、秘書は上司のお世話係ではなく補佐役だと考え方が変わったのは大きかったですね。とても経営を学んだとは言い難いのですが、その入り口を少しでも齧(かじ)ることができたのは幸いでした。
――その他、小宮さんの傍で学ばれたことはありますか?
〈井出〉
たくさんありますが、特に学んだのが、小さな働きかけの大切さです。以前、小宮が講演で青森を訪れたことがあります。
私が青森県八戸市の出身だと知っていて、「いま八戸市を通過しました」というメールと駅の写真が送られてきました。部下である私にこんな気遣いをする必要は全くないのですが、気にかけてもらっていることが伝わり、ちょっと嬉しい気持ちになりますよね。
多忙な毎日を送りながらも、こんなちょっとした働きかけを周囲の人に惜しまない。我が上司ながら本当に素晴らしいと思います。
また、小宮は小さな約束を守ることも肝に銘じています。手帳に「〇〇さん、本」というメモ書きがよくあります。雑談の中で「その内容については、僕の本に書いてあるので後日送りますよ」と約束したら、忘れないようにメモをしているそうです。
「今度ご飯に行きましょう」
「一緒に撮った写真送ります」
そんな軽い口約束はそのまま忘れられてしまうことが多いものです。世間で一流コンサルタントと呼ばれる小宮が、小さな約束を守るためにメモをしている。それを知った時、とても衝撃を受けました。
(本記事は『致知』2019年8月号 連載「第一線で活躍する女性」より一部を抜粋・編集したものです) ◎各界一流プロフェッショナルの珠玉の体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。あなたの人間力を高める、学び続ける習慣をお届けします。 たった3分で手続き完了、1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら。
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昭和44年青森県生まれ。岩手大学人文社会科学部卒業後、リクルート入社。ITトレーナーとして転職し、人材育成を行う。平成20年小宮コンサルタンツに入社、代表であり経営コンサルタントの小宮一慶の秘書を務める一方、接遇研修、新入社員研修、秘書研修等の講師を務める。著書に『ビジネスパーソンのための「秘書力」養成講座』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。