2022年03月09日
“国民教育の師父”といわれた森信三先生の代表的著作『修身教授録』の発刊から30年――。これまでに48刷、発行部数は15万部を突破し、いまもなお読み継がれる本書を、座右の書とする経営リーダーも少なくない。42歳で本書に出逢い、以来25年間、森信三師の教えを人生や経営の資としてきたSBIホールディングス社長の北尾吉孝さんもその一人。実業界のカリスマは、本書から何を学んできたのだろうか。
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魂が強烈に共感して寝られなかった
最初に『修身教授録』を手にした時は魂の根幹が強烈に共感を覚えて、実はその日の晩は寝られなかったんですよ。何よりも自分の浅学非才(せんがくひさい)であることが悔しかった。
これはまさに「憤」ですよね。『論語』の「尭舜(ぎょうしゅん)何者ぞ」という顔回の気持ちです。同時に、この人は深いなと。そしてこの森先生の話を当時の天王寺師範の学生たちはどう受け止めたんだろうと思いました。
だって師範学校の学生といったらまだ15、6歳ですよ。
僕はこの本の内容を深く理解するには、ある意味で相当なベースが必要だと思う。そんな生易しい本じゃないから。
他のことは大概例外があるけれども、「人生二度なし」、これだけは例外はない。人生は二度ないから、どうするのか、いかに生くべきか。
そういうことがこの本の中にはいろいろな形で書かれています。
当時修身の授業は50分間、文部省の教科書は使わず、内容を自分で決めて自分で話す。
戦局が激しくなりつつある時代でしたから、何を話したかを記録に残さないと校長に迷惑がかかるので、全員に講義を書き取らせたそうですね。
それも一番筆記の遅い人の手を見ながら速度を変えたというのだから、すごいですよね。
しかしいまにして思えば、初めてこの本を読んだ時、確かに僕は強烈なショックを受けたけれども、まだ理解できていない部分もあったんじゃないかと思います(略)。
人生のあらゆる問題に対する答えがある
だから天王寺師範の学生も十分に理解していない部分もあったと思います。しかし、森先生は『修身教授録』の中で、伝記は3度読めと言っているところがあるでしょう。
1度目は12、3歳~17、8歳の立志の時期。2度目はまさしく40歳前後。そして最後に60歳くらいでもう一度と。
『論語』もそうですが、伝記と同じように『修身教授録』も、まっさらな心で読んでも感動する。そして経験、体験、知識が揃って初めて分かる味わいもある。だから繰り返し読みたくなるのです。
僕も最初に買ったやつがぼろぼろになってしまったので、いま手元にあるのは2冊目なんです。
それでまた、この本は目次がいいんですね。最近は全部を通しで読むよりも、何かの折に目次を開いて、あっと思った章を読んでいます。
その都度読んで重要だと思ったところに印をしていますが、こうして見ると分かるように赤い線、黒のボールペンの線、黄色い丸とか上にチェックとか、上に折り目をつけたり下につけたり、その時の自分の受け止め方で重要と思う部分が変わってきているんですね。
次に読む時は前に印をつけたところを重視して読みますけど、また新たな発見がある。それが楽しいですね。読書の仕方とか親友とはいかなる者かとか、それに性欲の話まで書いてある。人生のあらゆる問題に対する答えがこの本には書いてあります。
誰が読んでも、いくつになって読んでも素晴らしいものであり続ける、不思議な本ですよ。
(本記事は月刊『致知』2018年4月号 特集「本気 本腰 本物」より一部を抜粋・編集したものです)
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昭和26年兵庫県生まれ。49年慶應義塾大学経済学部卒業。同年野村證券入社。53年英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。野村企業情報取締役、野村證券事業法人三部長など歴任。平成7年孫正義氏の招聘によりソフトバンク入社、常務取締役に就任。現在SBIホールディングス代表取締役執行役員社長。著書に『何のために働くのか』『修身のすすめ』(ともに致知出版社)など多数。
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