『新しい歴史教科書』の不可解な「一発不合格」——教科書検定の不正を告発する

今年3月に結果が公表された、来年度から使用される中学校教科書の検定で不合格となった自由社の『新しい歴史教科書』。2000年度より、過去5回の検定に合格してきた教科書が突如として「一発不合格」となった異例の検定結果は、いかにして生みだされたのか――。検定の経緯について「新しい歴史教科書をつくる会」副会長・藤岡信勝氏に伺いました。

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『新しい歴史教科書』を抹殺した一発不合格制度

〈藤岡〉
私が副会長を務める「新しい歴史教科書をつくる会」(以下、「つくる会」)が設立されたのは19971月。そのきっかけは前年の19966月、文部省(現・文部科学省)による中学教科書の検定結果が発表され、全出版社の歴史教科書に根拠のない「従軍慰安婦」強制連行説を前提とした記述が入ったことにありました。

これに憤った人々が結集し、日本の過去を悪逆非道として描く「自虐史観」に汚染されていない歴史教科書をつくろうとの動きが起こりました。そうして誕生したのが『新しい歴史教科書』です。

『新しい歴史教科書』の初版は2000年度の検定に合格、2002年から学校の授業で使われるようになり、その後も合計5回にわたる検定をパスして現在に至ります。2回までは扶桑社、その後は自由社から発行してきました。

ところが、その『新しい歴史教科書』が2019年度の検定において、6回目にして初めて「不合格処分」となったのです。これまで合格してきた教科書が不合格になるのは初めてのケースです。

検定制度の概要に簡単に触れておくと、最初に通告される検定結果には「留保」と「不合格」の2つがあります。

「留保」とは合格・不合格の判定をこの段階では留保するという意味です。「留保」の場合、文部科学省側から交付される「検定意見書」に基づき、出版社側が教科書の内容を修正。すべての項目がクリアされると「合格」の内定が出され、年度末(3月末)に開催される教科書用図書検定調査審議会総会で決定して公表されます。これが通常の検定プロセスです。

一方の「不合格」の場合は、検定用の申請図書(通称は「白表紙本」)そのものをつくり直し、70日以内に再申請します。その後は通常の検定プロセスを経て、年度内には合格するという流れになります。実際『新しい歴史教科書』も、過去この再申請ルートで合格したことが何度かありました。

そのため、最初は「不合格」と言われても驚かなかったのですが、今回はその先が違いました。担当者が「反論される場合は20日以内に反論書を提出してください」と言うのです。こういう言葉を聞いたのは初めてのことでした。

これはどういうことかというと、実は文部科学省の教科書調査官につけられた検定意見の数が「著しく多い」(申請図書の総ページ数の1.2倍以上)場合、「70日以内再申請」の復活ルートは認められないという新たな制度が2016年度から導入されていたのです。この「一発不合格」とでも呼ぶべき新しい制度が、『新しい歴史教科書』に適用されたわけです。

反論権は一応与えられているものの、それを認めるかどうかは文部科学省側、検定する側の自由裁量に任されています。事実、後に反論書を作成し提出したのですが、教科書調査官はただの1件も私たちの反論を認めませんでした。

「欠陥箇所」の驚くべき内容

続いて事務方から「不合格となるべき理由書」という書類が渡されたのですが、その中で指摘されている「欠陥箇所」は405件にも上っていました。これは驚くべき多さです。確かに、2008年度の検定で500以上の検定意見がついたことはありましたが、それは編集ソフトの不具合によって大量の変換ミスが発生したためであり、「70日以内再申請」の復活ルートで合格しています。

特に今回は、念には念を入れて25回に及ぶ校正を繰り返したこともあり、これほどの「欠陥」を指摘されたのは甚だ心外でした。

これほどの欠陥があるのだから、よほど杜撰な教科書だと思われるかもしれませんが、事実は全く違います。それは、教科書調査官の指摘を見れば明らかでしょう。

例えば、「第一章 古代までの日本」の登場人物として、仁徳天皇を「世界一の古墳に祀られている」と紹介したところ、「祀られている」は「生徒が誤解するおそれのある表現である」という理由で欠陥箇所に入れられ、教科書調査官からは「葬られている」が正しい表現だと指摘されました。しかし、古墳に「葬られている」とした場合、「『被葬者』は果たして仁徳天皇か否か」という別の議論を誘発しますし、実際に天皇陵は単なる墓所ではなく、宮内庁によって祭祀の対象とされ、拝所や鳥居も設けられています。「葬られている」とするほうが遥かに誤解される可能性があるのです。

また、「聖徳太子は、内政でも外交でも、8世紀に完成する日本の古代律令国家建設の方向を示した指導者でした」という記述も、「生徒にとって理解し難い表現である」と指摘されました。

教科書は学習指導要領に基づき編集・執筆され、教科書検定も学習指導要領に基づき行われることになっています。最終的な決め手である学習指導要領には「『律令国家の確立に至るまでの過程』については、聖徳太子の政治、大化の改新から律令国家の確立に至るまでの過程を、小学校での学習内容を活用して大きく捉えさせるようにすること」とはっきり書かれており、『新しい歴史教科書』の記述はまさにその学習指導要領の趣旨を生かしたものになっているわけです。「生徒にとって理解し難い表現」などどこにもありません。

ですから、この指摘はいい加減極まりないものであって、教科書調査官は学習指導要領をきちんと読んでいないと断言できます。

そもそも「理解し難い・誤解するおそれ」という基準は極めて主観的であり、ここには調査官の思い込みや価値観を入り込ませる余地が十分あります。事実『新しい歴史教科書』につけられた405件の欠陥箇所の検定基準別内訳で、最も多いのは「理解し難い・誤解するおそれ」の72.1%なのです。「誤り・不正確」は、全体の14.6%にすぎません。

さらに、前回は合格した記述が今回では欠陥箇所とされているケースや、他社の教科書と同じ記述でも『新しい歴史教科書』にだけ指摘がなされているケースも見られました。極めつけは、新元号「令和」の発表が文部科学省に申請する教科書の印刷時期と重なって間に合わなかったため、新元号が入る予定の箇所を伏字にしておいたのですが、そこまでも欠陥箇所として指摘されていたことです。

そのように見ていくと、無理に無理を重ねてでも欠陥箇所を絞り出し、自由社の『新しい歴史教科書』を狙い撃ちにして、何が何でも不合格にしようとする教科書調査官、文科官僚の悪意が感じられます。今回の不合格問題は教科書検定を恣意的に私物化した不正行為であり、憲法15条「公務員は全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」という規定と国家公務員法に違反した達法行為に他ならないのです。

(本記事は月刊『致知』2020年10月号 連載「意見・判断」から一部を抜粋・編集したものです)

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◇藤岡信勝(ふじおか・のぶかつ)
昭和18年北海道生まれ。北海道大学教育学部卒業、同大学院教育学研究科博士課程単位取得。東京大学教育学部教授、拓殖大学教授などを歴任。平成7年教室からの歴史教育の改革を目指し、「自由主義史観研究会」を組織。9年「新しい歴史教科書をつくる会」の創立に参加。現在、副会長を務める。近刊に『教科書抹殺 文科省は「つくる会」をこうして狙い撃ちした』(飛鳥新社)『検定不合格 新しい歴史教科書』(自由社)など。

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