2020年10月02日
20世紀初頭、イギリス統治下にあったインドを、非暴力主義の立場から独立へと導いたガンジー。植民地政府による塩の専売に対し、力を用いず抗議の意を示すため「塩の行進」を先導した人物です。しかし伝記や教科書でもお馴染みのガンジーは、もともと「偉人」らしからぬ性格の持ち主だったようです。長らく小学校教師を務めた社会教育家・平光雄さんのお話に、〝インド独立の父〟の原点、大事を成し遂げる人物の共通点を学びます。
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富や名声はあくまで結果である
〈平〉偉人伝というのは、具体的に何を「伝える」ことができるのでしょうか。例えば子供たちに「将来何になりたいか」と聞くと、最近はテレビの影響もあってか、冗談半分に「お金持ちになりたい」とか「有名人になりたい」という答えが返ってきます。
私が偉人伝をとおして伝えたいことの一つに、
「自分のためだけに生きて、偉大なことを成し遂げた人は一人もいない」
ということがあります。
お金持ちになったり、有名になったりするのはあくまで結果であって、最初から自分のことだけをやって偉人になった人は一人もいません。これには一切の例外がないだけに、子供たちの安易な考えに歯止めをかけることができると私は考えています。
また、物事がうまく進まない時に、自分以外に原因を求め、あれこれ理由をつけて「できない」という子供には、自分とは比べものにならないくらい条件が整わない中、苦労を乗り越えた偉人の話をします。そうすることで、後ろ向きの姿勢がいかによくないかということを伝えてきました。
自分が大変だと思っていたことよりも、もっともっと大変なことに直面し、それを乗り越えた人たちがいる。人間というのはこんなに強いのかといった感動は、子供たちを確実に変えていくのです。それが、自分の性分に合った偉人の話であれば、効果は絶大です。
私は「心の中に偉人を」というキーワードをよく使うのですが、心の中に偉人たちを住まわせれば、子供たちはそこから大きな力を活用することができるのです。
「大きな力」を引き出すには
〈平〉
ガンジーというと、おそらく多くの人にとっては、意志が強く、どんな困難にも挫けることなく、一国の独立を勝ち取ったというイメージがあるのではないでしょうか。
ところが、彼の偉人伝を読み進めていても、若い頃だけではなく、中年になるまでは偉人としての片鱗すら感じられません。例えば、弁護士として初めて法廷に立った時には、あまりの緊張から話すことを全部忘れてしまい、そのまま退室してしまっています。
また、何人かで集まって一緒に話をするのが苦手で、外出する時にはできるだけ人を避けていたというのですから、弁護士としても決して有能と言える人物ではなかったことが窺えます。
ではそんなガンジーを一体何が変えたのでしょうか。それは彼が仕事で南アフリカを旅していた時の出来事と関係があります。
当時、南アフリカでは白人による黒人への人種差別が行われていました。そのため彼が列車に乗って移動しようにも、車掌から「貨物列車のほうに移れ」と迫られ、「ちゃんと切符を持っている」と抗議をしても、荷物ごと放り出されてしまったのです。
また、駅馬車に乗っていると、突然引きずりおろされて平手打ちを喰らわされたり、白人専用の道に足を踏み入れたら警官に蹴り倒されたりしてしまう、という経験までしています。
確かにインドでもイギリス人による人種差別が行われていましたが、異国においてこれほどまで酷い仕打ちを受けたことで、ガンジーの中に差別をなくしたいという強い気持ちが湧き起こるのです。実際、彼は当時のことを回想して、
「南アフリカで経験したことは、生涯を通じて最も『創造的な体験』だった」
と振り返っています。
つまりこの時、差別に対する私憤を公憤に変えたことで、
「皆のために粉骨努力しよう」
という、それまでになかった考えが彼の中に生まれたのです。
非常に屈辱的な経験をしたことで、おどおどしていた一人の人間が強い意志を持った人物に大きく変わる。
その後の国内における白人支配との闘いからも分かるとおり、自分のためではなく、人のために働くことで信じられないような大きな力が出るということを、ガンジーの生き方が教えてくれているのです。
(本記事は『致知』2015年12月号 特集「人間という奇跡を生きる」より記事の一部を抜粋・再編集したものです) ◉《期間限定の特典付きキャンペーン開催中》お申し込みくださった方に、『小さな幸福論』プレゼント!各界一流の方々の珠玉の体験談を多数掲載。総合月刊誌『致知』はあなたの人間力を高める、学び続ける習慣をお届けします。 ▼詳しくはバナーから!
◇平 光雄(たいら・みつお)
昭和32年愛知県生まれ。58年青山学院大学文学部教育学科(心理学コース)卒業後、愛知県で小学校教諭となる。平成10年より話力総合研究所(東京本郷)に通い、永崎一則氏のもとで話力を学ぶ。27年に退職後は、社会教育家として講演や執筆活動を行う。著書に『子どもたちが身を乗り出して聞く道徳の話』『悩んでいた母親が一瞬にして救われた子育ての話』『子どもたちが目を輝かせて聞く偉人の話』(いずれも致知出版社)などがある。28年逝去。