「伸びる選手には〝狡賢さ〟がある」 明大ラグビー部監督が語る、伸びるチームと選手の条件

2018年の全国大学選手権で22年ぶりの優勝という快挙を成し遂げ、2019年にも関東大学ラグビーで21年ぶりの単独優勝を果たした明治大学ラグビー部。2017年のヘッドコーチ就任、翌年の監督就任以来、同部を急成長へ導いてきた田中澄憲氏に、その指導理念と伸びる選手の特徴をお話いただきました。

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選手たちの意識はどう変わっていったのか

――選手たちをどのように育てられたのですか?

〈田中〉 
人材は揃っているけれどもガバナンスがない、というのが就任前に明治に対して抱いていた印象でした。そういう、ある意味のハチャメチャさが「明治らしい」という言葉で片づけられていたんです。でも、それって言い訳ですよね。丹羽監督もそれを感じて、寮の掃除や挨拶を習慣づけたりと組織づくりに力を注がれていました。だけど、コーチになって思ったのは選手たちに本気さがない。

─―本気さが?

〈田中〉 
例えば掃除はするけれども、ウエイトルームで筋トレを終えると重りを置いたままにしている。自分で使ったものすら片づけられない。言われたからやる、というチームだったんです。

それで僕が最初のミーティングで話したのは「本気で日本一になるんだったら、心構えを変えなくてはいけない」ということでした。人材は揃っているので、心構えを変えて本気で練習したら必ず日本一になれる、と。

その上で見てもらったのが慶應大学戦の映像でした。ピンチの場面でも明治の選手たちはタラタラと歩いている。「これ、本当に日本一になりたいチームの動きか」と問い掛け、トレーニングを高強度で行うこと、マインドセットを変えていくこと。この2つを学生に課しました。トレーニングを高強度にすると言っても練習時間を長くするわけではなく、意味のある練習を求めたんです。

――意味のある練習をする。

〈田中〉 
はい。昼間は勉強に集中するため、明治の練習は朝6時半に始まり、長くて2時間と決まっています。どこの大学よりも短い。にも拘らず選手は眠たそうな顔をしながらグラウンドに出てきて、練習が始まってから10分間をウオーミングアップに充てている。ただでさえ練習が短いのに、この10分は無駄じゃないですか。そこで最初から100%の力を出し切るよう、やり方を変えていきました。

僕は選手がミスをするのは仕方がないと思っています。だけど100%全力を出さない選手には誰であろうが厳しく指摘しました。

明大ラグビー部とはどういうチームか? 常に全力を出し切る、壁にぶち当たっても逃げないことがスタイルです。タラタラ歩かないとか、タックルしたらすぐに立ち上がって動くとか、たとえ下手でも誰だってできることがある。そのことを徹底して、指導してきました。誰でもできることをやらない。一番よくないのはそこです。

それに、選手の多くは体が小さかったので、最初は技術的なことよりもウエイトトレーニングなど体づくりにかなりの時間を割きました。「何で試合前日にまでウエイトしなくてはいけないんですか」という声も聞きましたが、その基礎的なスキルを使って4月に開かれた東日本の7人制の大会で初めて優勝できたんです。なぜ優勝できたのかと選手に聞くと、「マインドセットです」と。

――自信がついたのですね。

〈田中〉 
意識を変えることでこれだけ早く結果が出せるのなら、もっと成長できるだろうと練習を続けたところ、例年夏合宿で負け続けていた東海大学に勝つことができ、選手たちにとっては、これも大きな自信に繋がったと思います。

伸びる選手には〝狡賢さ〟がある

――伸びる選手に共通点はありますか?

〈田中〉 
能力はもちろん大事ですが、やはり正しい努力ができるか、自分の強み、弱みをしっかり分析できるか、でしょうね。もう一つ挙げると、いい意味での狡賢さが必要かなとも思います。

――狡賢さですか?

〈田中〉 
くそ真面目では駄目ですね。言われたことは一所懸命やるけれども、自分で考えることができない子は成長のスピードが遅い。

僕はサントリー時代、営業の仕事もやってきたんですけど、各人にビール、酎ハイ、ワイン、ウイスキーとそれぞれの売り上げ目標がある。そのすべてを達成しようと頑張る人もいますが、僕はトータルの目標を果たせればそれでいい、と考えてきました。ワインの店にビールの営業をしても置いてもらえるはずはないし、そういう営業には意味がない。

上司に何と言われようとも、「トータルで目標を達成した。責任を果たした」と自分で納得し、それをきちんと上司にも伝えられる。例えば、そういうタイプが試合を勝ちに持って行ける選手です。

――いわば応用力ですね。

〈田中〉 
そうです。ラグビーの試合でも用意したプランが通用しない時、そこでどうゲームを組み立てられるかが問われます。コーチの言うことを「はい」と聞きながらも、でも自分ならこうする、と常に考えられる選手でなくてはいけないんです。

――強いチームや組織をつくるには何が必要だと考えられますか?

〈田中〉 
チームの方針や理念みたいなものは絶対に必要だと思います。会社でいえば社風ということになりますが、それがなかったら組織は強くなりません。社会人トップリーグでもこれまで優勝したのは神戸製鋼、サントリー、パナソニック、東芝と、いずれもラグビースタイルを持っているチームばかりです。そのことは僕のチームづくりの軸になっています。

もう一つ、チームを勝たせるのは何よりも指導者の情熱、本気度でしょうね。それがすべての源ですし、情熱がなくては何事も成し得ません。僕自身、毎朝4時半に起床し、5時半にグラウンドに着くことを自分に課しています。

ラグビーの世界では、能力が高くても情熱のない選手は、いずれ消えていってしまう。能力がある上に努力をし、人間的にも素晴らしい。そんな超一流の選手を育てていきたいと思っています。


(本記事は月刊『致知』2019年10月号 特集「情熱にまさる能力なし」の記事から一部抜粋・編集したものです)

◉この他にも、田中さんには「意識の変化がチームを優勝に導く」「指導者の道を歩んだ理由」「選手たちの意識はどう変わっていったのか」など、これまでの道のりを振り返っていただきながら、仕事や人生の壁を突破するヒントを語っていただいています。小出さんの記事を掲載した月刊『致知』2021年12月号 特集「死中活あり」は【致知電子版 アーカイブプラン】でお読みいただけます。

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◇田中澄憲(たなか・きよのり)
昭和50年兵庫県生まれ。明治大学在学中はラグビー部主将を務め、卒業後、平成10年サントリー入社。23年現役を引退し翌年サントリーのチームディレクター。29年明治大学ラグビー部ヘッドコーチ、30年監督に就任。

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