2020年09月10日
1997年、組織の情報共有ツールを開発・販売する会社として創業したサイボウズ。いまでは国内に900万人以上のユーザーを有し、〝「チームで働く」を、もっと楽しく〟を合言葉にユーザー目線のサービスを提供し続けてきました。26歳で独立し、仲間と共に同社を起業した青野氏に、創業からこれまでの歩みを振り返り、いまの若者へのメッセージを語っていただきました。
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「頑張る」と「真剣になる」の違い
〈青野〉
サイボウズを起業したのが1997年8月で、10月にはスケジュール・行き先案内板・掲示板・施設予約の4つのアプリケーションを搭載したサイボウズOffice1をリリース。その利便性が時代に受け入れられ、早くも12月には黒字に転じることができたので、創業期にお金に苦労したことはありません。創業3年目の2000年にはマザーズ上場、その2年後には当時史上最短となる4年7か月で東証2部へ市場変更と、順調に成長することができました。
2005年、33歳の時に私が社長を引き継いでからも、積極的にM&Aを実施したり、社員数を急激に増やしたりしていました。ところが、その成長スピードに組織体制が追いつかず、徐々に歪みが生じてきます。「ベンチャー企業はがむしゃらに働くのは当たり前」という一方的な考えを社員に押しつけていたため、離職率も高く、最もひどい時で28%、4人に一人以上の社員が辞めていく状況でした。典型的な〝ブラック企業〟だったと思います。その上、買収した会社のいくつかで大きな赤字を計上してしまったのです。
まさに正念場。窮地に追い込まれた時にたまたま目にしたのが、松下幸之助さんの「真剣」というシンプルな言葉でした。それまでも、私は人一倍仕事をしていた自負がありました。しかし、果たして本当に命を懸けて打ち込んでいただろうか……。そう考えた時に、「頑張る」と「真剣になる」は全く別次元の努力で、自分に不足していたのはこの〝命懸けの覚悟〟だったと思い知らされました。
うまくいっていない事業があっても、それまでは「じゃあ他の事業に力を入れよう」と、その問題に真剣に向き合ってこなかった。極端な表現ですが、「この事業がうまくいかなければ死ね」と言われたとしたら、徹底的に打開策を検討するはずです。会議一つとっても、分からないことがあれば担当者を質問攻めにしてでも理解に努めたでしょう。これが命を懸ける感覚です。ここを掴まない限り、「自分は頑張っている」というレベルで留まり、それ以上の成長は見込めません。
また、命懸けで取り組むべき目標が定まると、自分の中に明確な判断基準が出来上がります。儲け話が舞い込んできても、それが目指すべきゴールと無関係ならば目移りしませんし、日常の些細な出来事に一喜一憂せず、自分の務めに邁進できるようになるのです。
私は非常に運に恵まれた人生で、社長に就任するまで大きな挫折を経験してきませんでした。塾に通わず独学で大阪大学に入学できましたし、就職氷河期でも松下電工に入社できた。ベンチャー企業を立ち上げたら3年後に上場することができたため、それまで真剣になるチャンスがなかったのかもしれません。社長就任直後に巨大な壁に直面したことで、経営者としての本当の覚悟を固めることができたと思っています。
覚悟を磨くトレーニング
〈青野〉
そしてこの覚悟は一度固めて終わりではありません。モチベーションが下がってしまう経験は誰もがあると思います。覚悟も同じで、常に磨かない限り、すぐに緩んでしまいます。
私自身、いまでも毎日覚悟を磨くトレーニングをしています。
「〝チームワークあふれる社会を創る〟という企業理念を掲げているけれど、自分は本当に残りの人生をこの仕事に捧げる覚悟はできているか?」
この自問自答を繰り返すのです。たまに「はい」と素直に頷けない日もありますが、何度もトレーニングを重ねながらこの思いを身体に浸み込ませています。完全に「はい」と言えなくなった時が社長を降りる潮時だと考えています。
自分の20代を振り返れば、深く考えず、根拠もないままがむしゃらに突っ走ってきたように思います。その中でも、20代でインターネットに出逢った時に、「これは面白い!」「絶対に世の中変わる」と根拠のない確信を持てたことが幸いでした。仲間との出逢い、時代の後押し、多くの方の支えに恵まれ、運よく今日まで事業を発展させることができました。
サイボウズでは新入社員に「いつでも転職できる人になってください」と入社1日目に伝えています。どういうことかといえば、単にスキルを身につけるだけでなく、自立心を持って主体的に仕事を選択できる人になってほしいということ。自分で決めて自分で選んで自分で責任をとる。いまは大企業でも嵐がくれば一瞬にして吹き飛んでしまう時代になりました。だからこそ、20代の若者たちには、主体的に自分の信じる道を突き進んで、自ら未来を切りひらいていってほしいと願っています。