〝コロナ以後〟の世界を日本が生き抜くために~安全保障の視点から~ 森本 敏×佐藤正久

世界を席巻し、外交・貿易などあらゆる面で世界情勢を揺り動かしている新型コロナウイルス。この感染拡大は、一国の安全保障問題とも密接に関わっていることを忘れてはなりません。これから日本や世界はどう変わってゆくのか。また、未来をひらくために必要なリーダー像とは――。安全保障の第一人者である、森本敏氏、佐藤正久氏に語りあっていただきました。
※対談の内容は2020年7月のものです。

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自分の国は自分たちで守る

〈森本〉 
日本の安全保障に目を転じたいと思いますが、ここではいくつか気になる点を述べてみることにします。

おそらく年末にはNSC(国家安全保障会議)を中心に安全保障戦略の見直しが行われることになるでしょうが、そこで議論されることの一つは日米のホストネーションサポート(受け入れ国支援)の特別協定の締結です。いわゆる地位協定による米軍駐留経費(思いやり予算)の問題ですね。

日本はこれまで基地の土地の賃料、グアム移転経費などを含めて年間に6千億円ほど拠出していて、マティス国防長官(当時)は来日時に「同盟国のモデルだ」と言って賞賛したわけですけど、今回この額で妥結するとは到底思えません。場合によっては、法外な額を吹っかけてこないとも限らない。ここは十分注意を払って交渉しなくてはいけないところです。

現にアメリカは韓国に対して去年までの5倍に当たる47億ドルの拠出を求めていて、受け入れられない韓国が13%増を提案すると、アメリカは即座にこの案をはねつけています。

〈佐藤〉 
アメリカの同盟国に対する姿勢は強硬になってきましたね。

〈森本〉 
この他にも次期戦闘機の開発構想がどうなるのか、今回計画が白紙になったイージスアショア(ミサイル迎撃システム)に代わる新たなシステムが構築できるのかは気になるところです。

〈佐藤〉 
いまおっしゃったイージスアショアの白紙撤回というのは唐突で、「ではこのようにして国民を守ります」という代替案すら全く示されていません。安全保障をやっている人間からすると異例中の異例です。しかも、白紙撤回の理由が部品であるブースターが落下する危険性があるというわけでしょう? 核弾頭ミサイル攻撃とブースター落下の危険性を同じ天秤にかける。国際社会がこれを見て、果たしてどう思うかということですね。

〈森本〉 
私もイージスアショアの白紙撤回のプロセスには強い違和感を覚えています。一体どういう経緯でそうなってしまったのかぜひ明らかにしたいところですが、これから代替手段を十分に検討し、予算編成までにそれを固めることが重要だろうと思います。

〈佐藤〉 
いまお話にあったような動きがこれから進んでいくと思われますが、いずれにしてもその根底には日米同盟をベースに「自分の国は自分たちで守る」という基軸を打ち立てていくことです。それを精神面だけではなく、実際の現場レベルまで確立していかなくてはいけません。

いまやトランプ大統領の口から「巨額な貿易赤字を抱えるアメリカが、なぜ裕福な日本や韓国を支援しなきゃいけないんだ。大切なアメリカの若者がなぜ血を流さなきゃいけないんだ」という言葉が聞かれるようになり、いざという時はアメリカが何とかしてくれるという、これまでのような考えは通用しなくなりました。日本も自国を守るために汗をかかなければ、アメリカ国民や議会の理解は決して得られないと思います。

これから求められるリーダーの条件

〈佐藤〉 
改めてこれまでの新型コロナウイルスの流れを振り返った時、未知のウイルスに見舞われて何が正解で何が不正解か分からない状況の下、多くの判断をくださなくてはならない日本のリーダーの立場は大変だろうと思います。

一方、その中で既存システムの弊害というものもやはり見えてきました。例えば国と地方との関係です。今回たまたま成功したからよかったものの、もっと毒性の強いウイルスが襲ってきた場合には、今回のように地方任せでいいのか、もっと国に権限を持たせる必要があるのではないか、あるいは指示系統を一本化すべきだったのではないかという疑問は残りますね。

東京都では市区によってウイルス検査の管轄が異なるために、感染者数すら正しく把握できず、それがトップの判断に何かと影響を与えました。ダイヤモンド・プリンセス号に至っては厚生労働省があろうことかわざわざ船の中に現地対策本部をつくるのですから、我われ元自衛官としては想像すらできない。こんなことをしていて正しい指揮ができるはずがありません。

〈森本〉 
その通りですね。あの時は厚労省の役人が感染するという失態までありました。

〈佐藤〉 
自分の部隊をいかに危険なゾーンから離れた場所に置くかは自衛隊活動のイロハであり、そういう基礎動作をきちんと徹底させたからこそ隊員からは感染者を出すことがありませんでした。

今後、新たな感染症X、あるいは第2波、第3波の発生に備えて私が提案したいのは、2つの専門家チームを設けてそれぞれから意見を出していただくことです。2つのチームの意見が合致すればそれでよし、違う場合には政治が最終判断を下す。重大な危機管理に当たっては司令塔的な組織強化がどうしても必要なんです。

[中略]

〈森本〉 
佐藤さんがおっしゃるように、パンデミックは全く予期せぬ状態で起こり、人々の生命や社会の安全に大きな影響を与えています。日本の社会や日本人の考え方、生活様式が大きく変化する中で、いろいろな事態に柔軟に対応できる力がリーダーには求められていると私は考えています。

会社の経営にしても、従来のビジネスのやり方を踏襲するだけでは身動きが取れなくなることもあるわけですから、そこにどういう活路があるかを見出して、路線を柔軟に変化させながら事業を展開し、会社を守っていかなくてはいけません。

組織で働く人も自分の専門分野だけでなく、それ以外の仕事もこなせる力を身につけることが求められます。またそういう人材を育てていくのがこれからの経営管理のあり方だと思います。

一国のリーダーとてそれは同じで、あらゆる分野に精通し、見識を持った判断ができなくてはいけないんです。もちろん、これは言うはやすしで、なかなか難しいところではありますけれども、そういう条件を備えたリーダーでなくては、新しい時代は開けない気がします。

(本記事は『致知』2020年9月号 連載「意見・判断」より一部を抜粋・編集したものです。

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◇森本 敏(もりもと・さとし)
昭和16年東京生まれ。防衛大学校理工学部電気工学科卒業。航空自衛隊を経て54年外務省入省、情報調査局安全保障政策室長など一貫して安全保障の実務を担当。以後、拓殖大学国際学部教授などを歴任し、現在、同大学総長。平成24年に第11代防衛大臣に就任。著書に『徹底討論 どうする!? どうなる!? 北朝鮮問題』『国家の危機管理』(共に共著、海竜社)など多数。

◇佐藤正久(さとう・まさひさ)
昭和35年福島県生まれ。防衛大学校理工学部応用物理学科卒業。防衛省入省後、国連PKOゴラン高原派遣輸送隊初代隊長、イラク先遣隊長、復興業務支援初代隊長、福知山駐屯地司令などを歴任。平成19年参議院議員選挙で初当選。防衛大臣政務官、参議院外交防衛委員長、参議院自民党筆頭副幹事長、外務副大臣などを務める。著書に『イラク自衛隊「戦闘記」』(講談社)など。

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