キリンビール〝高知支店の奇跡〟を起こした田村潤さんが、営業一年目で全国トップになれたわけ

キリンビール元副社長の田村潤さんが、全国に数ある支店の中で営業成績最下位クラスの高知支店に配属されたのは45歳の時。支店長として負けグセのついたメンバーの意識改革に努め、果ては本社の営業本部長としてキリンビールのシェア首位奪回に貢献されました。しかしそんな田村さんの仕事力が培われた背景には、営業マンになる前のある経験が関係しているようです。〝高知支店の奇跡〟の原点とも言える、貴重なお話をご紹介します。

☆おかげさまで月刊『致知』は創刊42周年を迎えました。感謝の気持ちをこめて記念キャンペーンを実施中! 詳しくはこちらをご覧ください

企業のアイデンティティーが崩れつつある

――田村さんはキリンビールをV字回復させた経験を生かし、現在は独立して企業向けの講演や塾を手掛けていると伺っています。

〈田村〉
日本の企業は規模の大小に拘らず、真面目で誠実な人たちが一所懸命に働いているけれども、なかなか成果が出ないことに不安を抱えている。そういうケースが多いように感じます。なぜそうなのかと考えると、かつてのキリンビールもそうだったように、環境変化に振り回され自社のアイデンティティーが分からなくなってしまっているんですね。

では、日本企業のアイデンティティーとは何か。渋沢栄一曰く、それは武士道だと。単なる金儲けのためではなく、利益よりも社会をよくする、人のために尽くすという大義や理念を持っていることです。近年、企業統治改革という名の下で経営が短期志向になり、大義や理念が形骸化され、現場が弱くなってきていると思います。

――企業のアイデンティティーが崩れつつあると。

〈田村〉
目先利益を追求するための組織運営から理念を実現するための組織運営に変革することが必要なんです。やることはそんなに変わらないですよ。でも仕事の意味が変わることにより、取り組む社員の姿勢が全く変わってきます。前者はやらされ感が生まれるだけですが、後者は主体性を持って自分で考えて行動するようになる。

とはいえ、企業はどうしても売り上げ・利益目標からスタートし個人の目標に下ろされます。お客さんのため、地域社会のためという理念は抽象的ですから、それだけだと社員は動けないんですよ。理念を実現するための具体的な目標をつくらないといけません。

――理念を目標に落とし込む。

〈田村〉
ここが一番難しい。理念はいろんな会社で唱和されています。ただ、唱和に留まってしまって、多くの人は理念を実現するために具体的に何をしたらいいかを考えた経験がないんですね。

理念が実現されるとは具体的にどんな状態なのか、そのあるべき姿=ビジョンを決め、それを実現するための戦略や方法を全員で考え、実行していく。これを続けていくとお客さんが喜び、お客さんと社員との共感のやり取りによって業績も個人の能力も劇的に変化するんです。

営業1年目にして全国1位になった理由

――キリンビール時代にそれをいかに実践されてきたかは後ほど詳しく伺いたいと思いますが、まずは入社の経緯を教えてください。

〈田村〉
とりあえず有名な会社から受けていって、ご縁があったのがキリンビールだったというだけで、まあいい加減なものですよ(笑)。私が入社したのは1973年で、当時のキリンビールは全国シェア60%を超え、長らく首位を独走していましたから。

最初の4年間は岡山工場労務課に配属されました。工場内の様々な人事・労務問題を解決し、労働生産性を上げるという仕事です。毎日のように仕事が終わった後、現場の人と飲みに行っていました。その後、本社の労務部門で6年間仕事をしたんですけれども、そこで分かったのは、「現場に本質がある」ということです。

――現場に本質がある。

〈田村〉
美辞麗句や机上論は排し、現場のリアリティを大事にする。同時に、現場の本質をよく見るためには全体観を持っておく必要があるんです。例えば、賃上げを幾らにするかという時も、当然キリンビール全体のことを考えないと適正な金額は出せない。木を見て森を見ずという言葉がありますが、木も森も両方見ることを若い頃に経験できたのは勉強になりました。

32歳の時に営業畑に移り、大阪支店でスーパーマーケットや百貨店といった量販店を担当し、1年目にして量販店担当の中で全国1位になったんです。

――営業一年目で全国一位に?

〈田村〉
これはそれまでの10年間で学んだ「現場に本質がある」、即ち現場起点で考え実践したことが、一番大きな要因でした。

というのも、当時のキリンの営業は本社の意向を大事にしていたんですよ。俺たち営業は上から言われたことさえ忠実にやっていればいいんだと。従って関心はすべて上司、本社なんです。ビールにしてもウイスキーにしても上から言われた通りの本数を問屋さん、酒屋さんに「引き取ってください」と言って強引に押し込む。

その一方、私は現場が大事だと思っていたので、お客さんを見てそこから戦略を組み立てていった。とにかく量販店の人に聞いていましたね。「どういう状態ができればお客さんが買いやすいですか」と。

上から言われたことを相手に押しつける営業と、顧客視点で考えて相手に聞く営業では、どっちが成績を上げるか明らかですよね。

1987年にアサヒビールが「スーパードライ」を発売して大ヒットした時、キリンの全国シェアは63%から一気に50%まで下がってしまいました。この時も私のチームだけはキリンの中で唯一、売り上げ・シェア共に上がっていたんです。

(本記事は『致知』2020年3月号 特集「意志あるところ道はひらく」より一部を抜粋したものです)

★『致知』創刊42周年記念キャンペーンを実施中!詳しくはこちら

◇田村 潤(たむら・じゅん)
昭和25年東京都生まれ。48年成城大学経済学部卒業後、キリンビール入社。平成7年高知支店長に赴任した後、四国地区本部長、東海地区本部長を経て、19年代表取締役副社長兼営業本部長に就任。21年キリンビールの全国シェア首位奪回を実現した。23年100年プランニング設立。著書に『キリンビール高知支店の奇跡』(講談社+α新書)『負けグセ社員たちを「戦う集団」に変えるたった1つの方法』(PHP研究所)『人生に奇跡を起こす営業のやり方』(PHP新書/田口佳史氏との共著)。

人間力・仕事力を高める記事をメルマガで受け取る

その他のメルマガご案内はこちら

『致知』には毎号、あなたの人間力を高める記事が掲載されています。
まだお読みでない方は、こちらからお申し込みください。

※お気軽に1年購読 10,500円(1冊あたり875円/税・送料込み)
※おトクな3年購読 28,500円(1冊あたり792円/税・送料込み)

人間学の月刊誌 致知とは

閉じる