日本が中国の脅威に立ち向かうために何が必要か——第二の祖国に鳴らす警鐘(ペマ・ギャルポ)

「このままだと日本は中国の属国になってしまう」。祖国・チベットを中国に奪われ、インドを経て日本へと亡命してきたペマ・ギャルポ氏は、そう警鐘を鳴らします。私たち日本人が、日本人として誇りを持ち続けるために、いまどのような国家ビジョンを描かなくてはいけないのか――ギャルポ氏のお話にそのヒントを探ります。

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問題の本質は日本にあり

〈ギャルポ〉
日本では、いま中国の脅威が盛んに取り沙汰されています。尖閣諸島に多数の中国船が押し寄せたり、南シナ海に人工島を建設して軍事拠点化したり、確かに中国の行動は独善的で目に余るものがあります。しかし、ここでは私はあえて「問題の本質は中国ではなく日本にある」と警鐘を鳴らしたいと思います。目前の危機にただ手を拱くしかない日本の現実が、問題をより深刻化させているからです。

「国家百年の計」というテーマに絡めれば、いまの日本や日本人には百年後を見据えたビジョンどころか、独立した国家としての概念も、国民としての意識も気概もありません。明確なビジョンを持たないまま、目の前に起きてくる出来事への対応にただ翻弄されているような悲しいあり様なのです。

建国100周年に当たる2049年にはアメリカを追い抜いて世界の覇権を握ると公言している中国と、近視眼的な方針しか描けない日本の、どちらが厳しい国際社会で生き残っていけるのか、結果は明らかでしょう。

中国の目的は軍事的にも経済的にもアメリカを凌駕し、世界の覇権を握ることです。その実現のためには手段を選びません。ある時は柔らかく、ある時には高圧的に出て、相手の出方を窺いながらジワリジワリと獲物に近づこうとします。それが中国のお決まりの行動パターンです。日本は一刻も早くその策略に目覚めなくてはいけません。

私がそのことを必死に力説するのは、このままいけば日本がいずれ中国にのみ込まれ、属国になってしまう姿がありありと目に映るからです。

59年前、中国に侵略されたチベットから脱出した私は、中国に侵略されたチベットやモンゴル、ウイグルの実態、国を奪われた民族の悲惨な運命を誰よりも知っています。私の第二の故郷である日本には、チベットと同じ轍を絶対に踏んでもらいたくないのです。

祈るだけでは国の平和は実現しない

一国のリーダーに必要なことの一つは、国民に夢を与えて、それを共有することです。習氏が2049年に世界第一の国になると公言したのは恐ろしい話ですが、これはこれで中国にとっての〝夢〟であることは確かでしょう。

戦後、日本は経済的な豊かさを求めて走り続けました。国民はマイカーやマイホームを手にするという夢を共有しましたが、それはいわば掛け声のようなもので、国としてのビジョンではありません。漂流を続ける日本は、国民全体と共有できる国家ビジョンをこの辺りでそろそろ打ち立てるべきだと私は考えます。

ブータンは、人口僅か70万人足らずの小国ながら国民総幸福量(GNH)の向上というビジョンを掲げました。軍隊も持てず経済力も乏しいブータンが自分たちの価値観を打ち出し、国民総生産(GNP)や国内総生産(GDP)とは違う、心の豊かさを示す尺度が世界で注目されているのは、よく知られています。自国のアイデンティティーを明確にしたことが、国防や外交面でも有利に働いているのです。

私の日本への提言は、積極的に国連改革を進めながら、平和の大切さを世界に伝える国になるというビジョンを描くことです。国連の存在意義は大きく国際平和の構築と人類の発展の2つです。私は世界で唯一の被爆国で、経済力がある日本こそが、その推進役に相応しいと考えます。「日本国憲法」と「国連憲章」は、その根底に流れる思想が共通していることもその理由として挙げられます。

地域や人口のバランス、世界への貢献度という点で常任理事国は現在の5か国のままでいいのかという問題も含めて、日本はこれからさらに国連の運営に関して積極的に発言を強め、ぜひ常任理事国入りを果たすべきです。

しかし、いまの日本にそれができるかといえば、残念という他ありません。国連改革を進める上で後ろ盾となるのが、その国の軍事力、経済力です。特に日本の場合は軍事力において致命的な欠点を抱えています。いまの自衛隊は、檻に入れられた番犬同然です。いざ戦争となった場合、法の縛りによって軍隊本来の役割を果たすことができません。中国船が日本の領海内に立ち入って何時間も平然としていられるのは、日本からは決して攻撃を仕掛けることがないと、はっきり知っているからです。

軍事力を強化すれば戦争が起きる、憲法九条は絶対に変えてはいけない、という根強い意見があります。私はそういう人たちによく考えてほしいのです。恒久平和を念願するということなら、侵略される前のチベットにも朝から晩まで平和を祈り続ける27万人もの僧侶たちがいました。しかし、中国はそんな罪なき人々を無慈悲にも投獄、虐殺し国土を奪ったのです。

「九条を守れ」と主張する人の中には、侵略軍に占領されて非武装のまま抵抗することを主張する人や、軍事的に抵抗することはかえって国民の犠牲を増やす、と訴える人もいます。しかし、侵略され植民地化された国の実態や人々の悲しみを知る私には、いずれも到底受け入れることのできない発言です。現実を知らない人間の単なる戯言のようにしか響きません。法整備をして自国を守る体制をしっかり整えることが、現段階では平和を保つ唯一の道なのです。

(本記事は『致知』2019年1月号 特集「国家百年の計」より一部を抜粋・再編集したものです)

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◇ペマ・ギャルポ
1953年チベット生まれ。59年中国軍の侵攻により家族とともにインドに脱出し、65年日本に移住。76年亜細亜大学法学部卒業。80年にはダライ・ラマ法王アジア・太平洋地区担当初代代表を務める。2005年日本に帰化。現在、拓殖大学客員教授のほか、桐蔭横浜大学客員教授、岐阜女子大学名誉教授、チベット文化研究所所長、アジア自由民主連帯協議会会長。著書に『祖国を中国に奪われたチベット人が語る侵略に気づいていない日本人』(ハート出版)など多数。

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