〈小林照子×若宮正子〉年齢と共に輝きを増す人、先細りする人の〝絶対差〟

化粧品大手コーセーで、世界初となるパウダーファンデーションを生み出すなどし、30年以上にわたり同社の第一線を走り続けた美容家・小林照子さん。定年を過ぎて始めたアプリ開発で、Apple社CEO ティム・クック氏をはじめ世界から大きな注目を集めた若宮正子さん。共に昭和10年生まれながら、ますます現役で人生を謳歌するお二人のお話には、輝かしい生き方を手に入れる〝人生のヒント〟が詰まっています。

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「会社」に尽くし終え「社会」のため生きる

〈小林〉
私は自分の原点をいつも思い出すようにしています。

子供の頃に山形に疎開した時、私が一番褒められたのが言葉でした。山形は方言が強く、学芸会で演劇をする時、友達は標準語で書かれた台詞を読めても発音ができない。私が先生になってイントネーションを教えるうちに演劇の虜になっていました。

演劇の世界で生きようと決めた時、実は照明でも舞台装置でも演劇に携われるならなんでもよかったんです。でもそれらは男性的な仕事が多かったので、出演者にメイクを施すメイクアップアーティストになろうと考えました。それから美容業界を一途に60年以上歩いています。

〈若宮〉
小さい頃からの夢を叶え続けていらっしゃるのですね。

〈小林〉
23歳でコーセーに入社してからは、男社会の中で様々な改革を試みました。

40代の頃は、仕事に子育てにとあまりに多忙で美容にかけられる時間が少なかったため、化粧水や乳液を一本にまとめた商品が欲しいと思い、オールインワンの美容液を世界で初めて開発しました。同じ発想でパウダーファンデーションも生み出したところ、忙しい女性の間で大ヒットさせることができました。

そうして1985年、50歳の時にコーセーで初となる女性取締役に就任したんです。コーセーでの33年の経験で、男性社会の大組織の中でいかに円滑に物事を進めるかといったノウハウや、夢を実現しようとすると必ず壁に直面することを学べたのはとてもよかったですね。

30代頃からメイクアップアーティストを育てる学校をつくりたいという夢を抱いていたので、1991年、56歳で独立しました。その時、これまでは会社のために尽くしてきたので、会社という言葉をひっくり返して今度は社会のために生きようと決意しました。

〈若宮〉
素晴らしい志です。

年齢と共に輝きを増す人、先細りする人

〈若宮〉
私は81歳で人生を全うしていたら、おそらく普通のお婆さんで終わっていたと思います。それがたまたま82歳の時につくったiPhoneアプリが世界中に注目され、生活が一転しました(笑)。

〈小林〉
なぜアプリ開発を?

〈若宮〉
これも大きな夢や志があったわけではないんです。

毎年雛祭に行っていた30人程度の集まりで、何かつくろうと思ったのが始まりでした。とにかく、3月の雛祭までにつくることが目標だったので、アプリ制作に関する最低限の知識を入手し、雛壇に男雛や女雛を正しく配置するという非常にシンプルなゲーム「hinadan」をつくりました。

素人感満載の仕上がりでしたが、シニアでも楽しめるよう時間制限や面倒な動作をすべてなくしたことが評価されたのか、CNN(アメリカのニュースチャンネル)に取り上げられ、iPhoneの販売会社Appleの本社にも注目していただけたようです。それで突然Appleの方々が自宅に訪ねてこられて、「CEOがあなたに会いたがっている」と。

私に何の用があるのか全く見当がつかず、私があまりにも変なプログラムコードを書くから、叱られるんじゃないかと思いました(笑)。

〈小林〉
世界トップ企業のCEOが会いたがるほど、82歳がゼロからプログラミングを学びアプリを開発したという事実は衝撃を与えたのでしょうね。

〈若宮〉
2017年6月、Appleが毎年1回主宰する世界開発者会議「WWDC」に招待されました。この会議は世界中から5000人以上の技術者、開発者が集うイベントで、チケットは普通に購入すると17万円もします。そこに招待された上に、CEOのティム・クックさんと私がハグしている写真がネットであっという間に世界中に広まったものですから、その後、急に取材が押し寄せてきたんです。

その年の秋には安倍内閣による「人生100年時代構想会議」の最年長有識者メンバーとしてお声掛けいただき、その後国連にも呼ばれるなど依頼が後を絶ちません。

いまではITエバンジェリスト(伝道者)だなんていわれることもありますが、私が世界から注目を集めるようになったのは全くの偶然です。老人クラブの野球大会に譬えれば、よたよたと歩いてバッターボックスに立ったら、なぜかボールのほうがバットに当たり、フライがあがったと思ったら猛烈な追い風が吹いて、フライがホームランになって、それでも風が止まずに場外に行って、アメリカまで飛んで行ってしまった(笑)。

〈小林〉
面白い譬えですね(笑)。でも若宮さんの体験は、多くの人に夢や希望を与える話だと思います。年を取ると「パソコンなんてやらない」「スマホは使いこなせない」など、技術の進歩に対して拒否反応を示す方がいらっしゃいます。

でも、よく考えると、2歳児だってスマホで遊べるのですから、大人だって使えるんです。まずは若宮さんのように好奇心を抱くことが大切ですね。

〈若宮〉
いま私は偶然が重なり合ってこうして活動していますが、この偶然というのは、神様から与えられたミッションではないかと思っています。ですから、精いっぱい務めを果たさなければと日々考えています。

〈小林〉
やっぱり、年を重ねるごとに輝く人と逆に老いて衰えてしまう人がいると思うんです。若宮さんはまさに前者で、どんどんと輝きを増す人ですね。

その差は何かと考えてみると、未来を面白がることができるかどうかだと思うんです。パソコンやAIなど、新しい技術に対して好奇心を持ち、進化し続ける未来を楽しむ。それから、日本人が長く培ってきた伝統的なことに目を向けるのも大切です。

誰かが次の世代に引き継いでいかなければ、伝統は途絶えてしまいますので、技術の進歩を肯定的に受け止めながらも、古くから受け継がれている伝統を次の世代に伝える。この二つの視点を持つことが、年を取ってからの生き方かなと思います。

〈若宮〉
ぴったり同じです! 私も全く同じことを考えていました。

未来が不安だからとうずくまっていると、未来のほうもうずくまってやってきます。ですから、「未来さん、こんにちは! 仲良くしようね」と明るく前向きに生きていると、いい未来がやってくるのではないかと思います。

ですから、まずは肯定的に受け止めるのが何よりも重要。よく新しい技術や提案が出てきた時に、副作用から話し出す人がいますよね。自動運転技術やドローン(無人航空機)を使うとたくさんのメリットがあるのに、危ないだのプライバシーだのと真っ先に問題点を挙げていく。

批判から入ると、発想は先細りになってしまいますよ。肯定というのは些細なことでよくて、例えば奥様に「きょうも綺麗だな」と伝えてから、「だけど、口紅がはみ出しているぞ」と伝えてあげる(笑)。

〈小林〉
それはとても大切なことですね。


(本記事は『致知』2020年4月号 特集「命ある限り歩き続ける」から一部抜粋・編集したものです

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◇若宮正子(わかみや・まさこ)
昭和10年東京生まれ。高校卒業後、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行。平成7年定年目前にパソコンを購入。平成18年「エクセルアート」を発案。29年iPhoneアプリを開発。シニア向けサイト「メロウ倶楽部」副会長。NPO法人ブロードバンドスクール協会理事。著書に『60歳を過ぎると、人生はどんどんおもしろくなります。』(新潮社)『独学のススメ』(中央公論新社)『老いてこそデジタルを。』(1万年堂出版)など多数。

◇小林照子(こばやし・てるこ)
昭和10年東京生まれ。33年小林コーセー(現・コーセー)に入社。美容液、パウダーファンデーションを世界で初めて生み出し、大ヒットさせる。60年コーセー初の女性取締役に就任。平成356歳で独立し、美・ファイン研究所を設立。6年にフロムハンドメイクアップアカデミーを、22年に青山ビューティ学院高等部を開校。著書に『これはしない、あれはする』(サンマーク出版)『人生は、「手」で変わる。』(朝日新聞出版)『いくつになっても「転がる石」で』(講談社)など多数。

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