2020年11月07日
日本における高血圧の患者数は4300万人、うち治療を受けている人は993万人と推計されており、まさに高血圧は「国民病」といっても過言ではありません。食生活の見直しや降圧剤を服用されている方も多いようですが、丸めたタオルを握っては離すという、簡単な血圧改善法があることをご存知でしょうか。この分野に詳しい医師の久代登志男氏に解説していただきました。
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用意するのはフェイスタオル一枚
高血圧の治療法や予防法の一つとして、私は5年ほど前から「タオルグリップ法」と呼ばれる方法を紹介しています。どの家庭にもあるフェイスタオルを丸めて手でぎゅっと握って緩める……。それを何度か繰り返すだけで、高くなってしまった血圧を落ち着かせる効果が期待できるのです。
基本原理は、カナダのマックマスター大学(オンタリオ州)のフィリップ・ミラー博士が開発した「ハンドグリップ法」で、この新メソッドはアメリカの心臓病学会が高血圧の補完療法として、その効果を認めています。ハンドグリップ法がデジタル握力計を使うのに対して、タオルグリップ法はその名が示す通りタオルを使用します。
なぜ効果があるのか、その仕組みについては後ほど説明するとして、まず具体的な方法からご紹介しましょう。用意するのは、手や顔を拭く際に使われるフェイスタオル一枚。一般的には34×85センチ前後の大きさになります。
タオルを用意したら、次のように準備してください。
①タオルを正方形に近い形になるよう、横に2回、縦に1回折り畳みます。
②端からくるくると巻いて、筒状に形を整えてください。やや緩めに巻くのがポイントです。
③握った時に親指が他の指につかない程度の太さに調整します。
1回あたり8分間・週3日がお勧め
準備が終わったら、いよいよ実践です。
①椅子に座ってリラックスしましょう。テレビを見ながらでもOKです。腕の位置は、自分のやりやすい位置で結構です。
②丸めたタオルを片手に持ち、全力の3割程度の力で2分間握り続けてください。2割以下ではあまり効果は出ません。強過ぎても効果が増えることはありません。
③2分間過ぎたら手の力を緩めて、タオルを握ったままの状態で1分間お休みします。呼吸は普通にしてください。
この後、再び②を行ってください。反対側の手にタオルを持ち替えても、同じ手でも構いません。そして、②~③を計3回、タオルを3回握ることになり、所要時間は8分間になります。握る回数を増やしても効果は変わりません。
このタオルグリップ法は毎日行う必要はなく、週3日か1日おきに実行してください。毎日頑張っても効果は変わらないようです。ちょっと空いた時間に気軽に行うことは、長続きにも繋がります。
実際、タオルグリップ法の効果はどの程度見込めるのでしょうか。2014年3月に放送されたNHK総合テレビの生活情報番組「ためしてガッテン」では、日本体育大学の岡本孝信教授の指導のもと、4週間にわたって試した男女7名中、6名の方が平均で13・6㎜Hg(ミリ水銀)下がったという結果でした。
ところで、なぜタオルを握るだけで降圧効果が見込めるのでしょうか。実はタオルグリップ法は、ウォーキングなどと同じ一種の運動療法なのです。筋肉の運動には、関節を動かして行う等張性運動(ダイナミックまたはアイソトニック)と、関節を動かすことなく筋肉に力を入れて行う等尺性運動(アイソメトリック)の2種類に大別されます。
タオルグリップ法は後者に当たりますが、筋トレ(筋肉トレーニング)は力むと血圧の上昇を招きやすく、高血圧の方には向かないとされてきました。しかし、タオルグリップ法は軽く握ることを基本としているため、問題となるほどの血圧の上昇は考えにくく、安全に行うことができるのです。
血管が拡張し血圧が下がる仕組み
血圧が下がるメカニズムについて説明しましょう。タオルグリップ法は、タオルを「握る」「緩める」という動作の繰り返しです。タオルを握っている時には、前腕の筋肉が縮み血管が圧迫されるため血流が低下。2分後に握力を緩めると、今度は血管が拡張し血流が前の状態に戻ります。
その際、血管を拡張させる一酸化窒素(NO)が放出されます。NOは血管を動かす平滑筋を弛緩させる働きがあるので、放出されたNOが全身に循環することで血管が拡張し、持続的に血圧が下がる仕組みと考えられます。特に前腕には多くの動脈があるため、タオルグリップ法を実践することは、効率的な血圧改善効果があるようです。
タオルグリップ法により血圧が下がる仕組みは、通常の降圧薬とは異なるので降圧薬治療中の人にも有効です。ただし、タオルグリップ法を行う際、最大血圧が180㎜Hg以上の重度の高血圧の方は禁忌です。心臓病の人は、主治医に事前に相談することも忘れないでください。
タオルグリップ法は、高血圧症を改善するための「補助的な対策」です。食塩の制限と食生活の改善、適切な体重の維持に向けた散歩などにも取り組んでください。
(本記事は月刊『致知』2020年3月号 連載「大自然と体心」より一部抜粋・編集したものです)
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◇久代登志男(くしろ・としお)
昭和48年日本大学医学部卒業。駿河台日本大学病院の循環器科助手となる。クリニカルフェローとして3年間米国留学。その後、日本大学医学部教授、日本大学医学部総合健診センター所長を経て平成26年より日野原記念クリニック所長。医学博士。『高血圧がスーッと落ち着くタオルグリップ法』(洋泉社)などの著書がある。