【WEB限定連載】義功和尚の修行入門——体当たりで掴んだ仏の教え〈第55回〉京都から西へ、そして九州に至る

小林義功和尚は、禅宗である臨済宗の僧堂で8年半、真言宗の護摩の道場で5年間それぞれ修行を積み、その後、平成5年から2年間、日本全国を托鉢行脚されました。旅路の過程で京都での修業時代を振り返ると共に、西へ西へと歩を進め九州に渡ります。

無文老師の隠侍を務めた日々

私は昭和58(1983)年春から、山田無文老師(京都霊院前住職)のお世話係である隠侍(いんじ)をさせて頂いた。そこに佐野大義和尚(京都の法輪寺前住職)がしばしば相見に来られた。着物姿の美しい奥様を同伴され、微笑ましい限りであった。

法輪寺さんとの御縁はそれ以来である。そうこうするうち昭和63(1988)年12月24日に無文老師は御遷化されたのだが、その前日に河野太通老師(祥福僧堂前師家)が病気見舞いを兼ねて立ち寄り宿泊された。当日、私が当番で無文老師の御傍にいた。正確な記憶はないが、朝4時頃のことだったろうか。

〈変だな〉と思った。静かに寝ておられるが……。動くという、その気配が全くないのだ。〈妙だ〉。合掌して手の平をそっと鼻に近づけた。息を止めて窺った。鼻からの空気の移動がない。〈う~ん〉。一度手を外して、再度確認した。〈間違いない〉。

すぐに侍衣(じえい)さん(現霊雲老師)に報告した。すかさず無文老師の寝室に太通老師、霊雲院老師が近侍し引磐(いんきん)を打って四弘誓願をお唱えした。御臨終である。

この無文老師最後の隠侍が、法輪寺現住職である佐野泰典和尚と私である。ご縁は重なる。その後、私は真言宗に転派した。しかし、大義和尚の態度に変化はない。交誼(こうぎ)は続いた。

崇敬して止まない佐野大義和尚

法輪寺は通称、達磨(だるま)寺である。2月の節分大祭は京都でも殊のほか有名である。そこでは僧侶が祈願太鼓を叩く。私もそこに参加した。

「太鼓は真剣に叩け!油断するな!」。師匠の厳命である。その御蔭で私は最福寺で鍛えられた。だから、法輪寺節分大祭にも、大太鼓に全力で撥(ばち)を叩き込んだ。

禅宗での打ち方とは明らかに違う。しかし、大義和尚は他宗派だからといって差別はしない。人物を見て率直に評価する。しかも、その強固な信念と溢れるばかりの行動力には感服したものである。稀有なる大和尚。傑僧であると崇敬して止まない。その和尚が私に寄せた短歌(うた)がある。

良寛さんもさぞやと思う 恭禅師の祈願太鼓の声 天地を破る

十九節分小閑老拙少室米翁書

恭禅師とは私の禅宗名である。この短歌は、今もお堂(神奈川県海老名市)に飾らせて頂いている。それ以来、2月の節分祭には加担させて頂き、故太義和尚の活気溢れる大声を懐かしく偲びつつ、お手伝いをさせて頂いている。

中国地方を通って九州へ

京都市内から福知山市に向かう。全国托鉢行脚もいつしか終盤である。残りは3か月ほどである。次第に不安になった。行脚を始めた動機は、〈仏とは何か?〉。ここに全てが懸かっている。ところが一向に分からない。このまま行脚が終了すると、収穫はゼロである。行脚も徒労に終わる。すでに51歳。

〈何とかしなければ〉と思うが、焦るばかりである。托鉢僧が歩いているとクルマが止まる。喜捨も頂くが、心は晴れない、沈んだままであった。20歳の頃から追究を始めて、未だに決着しない難題である。

〈如何する〉。天を仰いで一息ついた。その時、私はこう決意した。

〈そうだ。考えるから、駄目なのだ。幾ら考えても同じ繰り返しだ。これを止めよう。弘法大師さまの御宝号、これだ。南無大師遍照金剛。これだけをお唱えして行脚をしよう〉

お寺があれば、その本堂をお借りして、3千回、5千回とお唱えする。それも善しと、最後の行脚に賭けて進んだ。

京都府の福知山市から宮津市、兵庫県の出石町(いずしちょう)、八鹿町(ようかちょう)、城崎町(きのさきちょう)、そして山陰へ向かう。日本海沿岸を西へ西へと進んだ。そして萩市から山口市へ縦断し、宇部市、下関市から関門海峡を抜けた。

北九州の玄関口である門司市から小倉市、中津市、宇佐市。そこで宇佐神宮を参拝。別府市、大分市。そして、8月25日、国道10号線を延岡市に向かって南無大師遍照金剛を繰り返していた。

ふと晴れた空を仰いだ時である。1秒か2秒、わずかな時間が経過した。カラカラ、カラカラと頭が整理されていく。その後、ポッと何かが抜けると同時に、〈次はお堂だ〉と閃いた。

〈お堂だ。次はお堂。次はお堂だ〉と何回も何回も繰り返し繰り返し、腹の底から言葉が湧いてきた。〈お堂だ。そこで托鉢をして、行をする。続けることだ〉。全国行脚の次の目標が鮮明に見えた。しかし、行脚は行脚、全うしなければならない。

つづく

          〈第56回の配信は3/18(水) 12:00の予定です。これが最終回となります〉

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小林義功
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こばやし・ぎこう――昭和20年神奈川県生まれ。42年中央大学卒業。52年日本獣医畜産大学卒業。55年得度出家。臨済宗祥福僧堂に8年半、真言宗鹿児島最福寺に5年在籍。その間高野山専修学院卒業、伝法灌頂を受く。平成5年より2年間、全国行脚を行う。現在大谷観音堂で行と托鉢を実践。法話会にて仏教のあり方を説く。その活動はNHKテレビ『こころの時代』などで放映される。著書に『人生に活かす禅 この一語に力あり』(致知出版社)がある。

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