2020年02月20日
国内で積極的な講演活動を展開し、紛争地域の現状を伝え続けることで、発展途上国の地雷除去支援や元・子ども兵の自立支援などに尽力してきた「テラ・ルネッサンス」創設者の鬼丸昌也さん。鬼丸さんはどのような思いと覚悟をもって支援活動に邁進してこられたのでしょうか。同じくミャンマーの紛争解決などの支援に奔走してきた井本勝幸さんとの対談でその原点について語っていただきました。
☆人間力を高める記事や言葉を毎日配信!公式メルマガ「人間力メルマガ」のご登録はこちら
偉人の伝記に感動する
(井本)
鬼丸さんにとって原動力になっていることはなんですか。
(鬼丸)
いくつかありまして、一つは小学生の頃でした。僕は福岡県北九州市の生まれですが、小学1年生の時に父が事業に失敗したため田舎に引っ越したんです。そこには全校生徒100名くらいの小さな小学校があったのですが、都会から来たせいか全くと言っていいほど馴染むことができなかったんです。その時に僕の避難場所になったのが学校の図書館でした。
それ以来、いろいろ本を手にする中で、世界の偉人伝シリーズの一つで、アジア、アフリカの独立運動を指導した人物を集めた伝記に出合いました。そこにはインドネシアのスカルノ、フィリピンのマグサイサイ、インドのネルー、そしてガーナのクワメ・エンクルマといったマニアックな人物まで載っていたのですが、僕はそれを読んで妙に感動したんです。
(井本)
小学生低学年でそういった偉人たちに興味を持った。
(鬼丸)
きっと自分と彼らの置かれた境遇とを重ね合わせていたと思うんですよ。彼らが自分たちの力を信じて立ち上がっていくプロセスを辿りながら、人間っていうのは誰もが自分の中に社会を変えられるだけの力があるのではないかと思うようになりました。
活動を支える言葉
(鬼丸)
もう一つは、ある団体のスタディーツアーに高校3年生で参加して、スリランカを訪れた時のことです。当時、スリランカでは「サルボダヤ運動」っていう農村開発運動が盛んで、僕らはその運動の創始者であるアリヤラトネ博士に直接お目にかかれたんです。
あれは忘れもしないツアー最終日のことでした。突然、「おまえ、世界を変えたいか?」って博士が言うんですよ。僕は面食らいながらも「はい」と答えたら、「分かった。では、次のことだけは覚えておきなさい」と言ってこう続けました。
「常に物事は変化する。相手も自分もすべて変わっていく。だからあなたを含めたすべての人には、変化を起こす力がある。自分にもその力があることを信じなさい。そうすれば自ずと社会は変わる」
(井本)
その言葉が鬼丸さんにとっての原点というわけですね。
(鬼丸)
ええ、日本に帰ってからもずっとその言葉が引っかかっていました。その後、阪神・淡路大震災の時に被災地でたまたま出会ったボランティアグループの人たちが、カンボジアで地雷除去支援をしていたんです。
そのご縁で僕も現地に連れていってもらったのですが、そこには生活音の一切ない世界が広がっていました。聞こえてくるのは地雷除去要員の微かな息遣いと、地雷探知機の無機質な音だけ。まるで死の世界でした。
地雷の被害に遭った方々にもたくさん会う中で、いろいろな感情が一遍に僕の胸に押し寄せてきたんです。でも、自分には才能もない、お金もない、英語だって喋れない……と、そんなことばかり考えていた矢先に思い出したのが、アリヤラトネ博士の言葉でした。
(井本)
自分にも社会を変えられる力があると。
(鬼丸)
そうです、そうだ、こんな自分にも変化を起こす力が絶対にあるはずだって。そしてその時に僕が考えたのが、現地で見てきたことを一人でも多くの人たちに伝えて、この問題に気づいてもらおうということでした。
ささやかなことではありましたけど、とにかく自分ができることにだけフォーカスして第一歩を踏み出したんです。「テラ・ルネッサンス」というNPOを創設したのも、大学在学中だった2001年のことでした。
(井本)
そのスタイルを鬼丸さんは今日に至るまで貫いているわけですね。
(鬼丸)
特に最初の3年間は京都を活動拠点に据えて、地雷問題だけに絞って講演活動を展開しました。すると、いつしか「地雷と言えば鬼丸」って呼ばれるようになりまして、実はこれが後に大きな成果を生み出すんです。
というのも、例えば日本で1番高い山はどこですかと聞かれれば、誰でも答えられると思うのですが、2番目となると首を傾げる。それと同じで、僕は地雷問題で1番になったことで社会的な認知度が一気に上がったんです。
そのおかげで当初は400万円だった寄付金や会費が3年後には1500万円に膨らみました。ちなみに今年度の予算は3億円ですが、そのうちの約7割が寄付金や会費、講演料によるものなんです。
(本記事は『致知』2018年9月号「内発力」から一部抜粋・編集したものです。あなたの人生、経営・仕事の糧になるヒントが見つかる月刊『致知』の詳細・購読はこちら )
◇鬼丸昌也(おにまる・まさや)
昭和54年福岡県生まれ。立命館大学法学部卒。平成13年初めてカンボジアを訪れ、地雷被害の現状を知り、「すべての活動はまず『伝える』ことから」と講演活動を始める。同年10月大学在学中に「テラ・ルネッサンス」設立。翌年日本青年会議所人間力大賞受賞。地雷、子ども兵や平和問題を伝える講演活動は、学校、企業、行政などで年間約120回行っている。
◇井本勝幸(いもと・かつゆき)
昭和39年福岡県生まれ。東京農業大学卒業後、日本国際ボランティアセンターでソマリア、タイ・カンボジア国境の難民支援に関わる。28歳で出家。福岡県朝倉市の四恩山・報恩寺副住職としてアジアの仏教徒20か国を網羅する助け合いのネットワークを構築。平成23年より単身で反政府ビルマ少数民族地域へ。UNFC(統一民族連邦評議会)コンサルタントを経て、現在、日本ミャンマー未来会議代表を務める。