日露戦争を勝利に導いた英雄・乃木希典の真実

司馬遼太郎の小説『坂の上の雲』の中で「愚将」「無能」と烙印を押され、特に戦後の日本では否定的に評価されてきた乃木希典。しかし、長年、日本の歴史・人物に向き合ってきた日本政策研究センター主任研究員の岡田幹彦さんは、乃木希典こそ日露戦争を勝利に導いた陸の英雄であったと語ります。

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乃木希典=愚将・無能は誤り

〈岡田〉
日露戦争を勝利に導いた海の英雄が東郷平八郎なら、陸の英雄が乃木希典です。乃木は東郷以上に戦後は過小評価されるどころか、否定すらされました。その原因は司馬遼太郎の小説『坂の上の雲』の中で徹底的に「愚将」「無能」の烙印を押されたからでしょう。 

戦いというのは誤算の連続です。当初、主戦場はあくまでも満洲の東清鉄道の支線に位置する遼陽や沙河、黒溝台、奉天といった地で、旅順要塞は二の次と見られていました。ただ、旅順要塞を落としておかないと日本軍は南北から挟み撃ちを食らうということで、乃木に白羽の矢が立ったわけです。 

要塞攻撃の原則は「攻者3倍の兵力」といわれます。

つまり攻める側は守る側の3倍の兵力が要る。参謀本部は敵兵力を1万5千人、大砲数2百門と想定し、乃木軍に3個師団(約5万人)、大砲三百数十門を与えました。ところが、ここで最大の誤算をしました。実際には敵兵力は4万8千人、大砲約640門。3分の1に見誤ったのです。

本来ならばこちらは15万人、大砲も6百門以上ないと勝ち目はありません。5万人では惨敗以外にあり得ないということです。さらに追い打ちをかけるように、最初の1週間で肝腎の砲弾が底をつき、第1回総攻撃も第2回総攻撃も失敗します。にも拘(かかわ)らず、第3回総攻撃で遂に旅順要塞を落としたのです。 

「千番に一番の勝利」という言葉がありますが、旅順戦は「万番に一番」とも言うべき奇蹟の勝利に他なりません。 難攻不落の旅順要塞を乃木軍が制圧したことで、ロシア軍総司令官クロパトキンは真っ青になり、「これは人間業じゃない」と乃木軍を恐れます。

最後の陸戦となった奉天会戦でも、乃木軍は敵の退路を断つような凄まじい攻撃を繰り出し、ロシア軍は総退却。明治38年3月10日、日本軍は奉天を占領しました。 

日露陸戦の二大会戦は旅順戦と奉天会戦ですが、その勝利に最も貢献したのが乃木率いる第3軍なのです。ただ、旅順戦は死者約1万5千人、負傷者約6万人と膨大な犠牲を払いました。乃木は第3回総攻撃で次男を亡くしています。 

それが「愚将」「無能」と言われる理由なのでしょうが、もともと落とせる要塞でない上に兵力が圧倒的に少なかったわけですから、これは不可抗力です。私に言わせれば、その責任は乃木ではなく、参謀本部にあります。 

しかし、乃木は「参謀本部が兵力をよこさなかったから」などとは一切口にせず、すべてを自分の責任と受け止め、

「私の指揮統率が至らないばかりに、陛下の赤子を旅順で多く死なせてしまいました。申し訳ございません」

と涙ながらに明治天皇に奏上したのです。 

不可抗力ですから、普通はそんなことを言う必要はありません。ただ、乃木の責任感がそれを許さないわけです。そして最後に何と言ったか。

「責任を取らせてくださいませ。私に割腹自決することをお許しくださいませ」。

これに対して明治天皇は「おまえの気持ちはよく分かるが、おまえが死ぬのはわしの後にせよ」となだめます。乃木はその後、学習院長を務め、明治天皇が崩御されると静子夫人と共に殉死しました。 

この乃木夫妻の殉死に日本中が感泣し、国民葬と言われるほど数多くの人たちが乃木夫妻の葬儀に参列したのです。


 (本記事は『致知』2020年2月号 特集「心に残る言葉」から一部抜粋・編集したものです)

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 ◇岡田幹彦(おかだ・みきひこ)
昭和21年北海道深川生まれ。國學院大學中退。学生時より日本の歴史・人物の研究を続け、月刊『明日への選択』に数多くの人物伝を連載すると共に、全国各地で歴史講座や歴史講演会を行う。平成21ー22年『産経新聞』に「元気のでる歴史人物講座」を連載(103回)。著書に『親日はかくして生まれた』(日本政策研究センター)『日本の誇り103人』『日本の偉人物語1ー4』など多数、著書に『日本の母と妻たち』(いずれも光明思想社)。

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