詩は私のいのちそのもの——脳性麻痺の詩人・堀江菜穂子さんはなぜ詩をつくるのか

脳性麻痺のため話すことも体を動かすことも思うようにできない堀江菜穂子さん。しかし、堀江さんはベッドに寝たきりの生活を送りながら、これまで筆談により数多くの詩を紡いできました。堀江さんはなぜ詩をつくり続けるのでしょうか。

各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。
1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら※動機詳細は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください

詩をつくるのは魂の解放のため

(堀江)

詩を書き始めるようになったのは、私と同じような障碍がありながら詩を書いている人がいることを知っていた自主スクールの先生の薦めによるものでした。私はパソコンの画面に一文字ずつ打ち込み、心の声のままに詩をつくりました。自分で驚いたのは、いくら文章で書いても分かってもらえなかったことが、詩にした途端、たちまち人に伝わるようになったことです。

「きたからのこえ」はその頃につくった詩の一篇です。

きたからのこえ

きたのそらからきこえている こえにむかって/わたしは さけぶ/すてきなくには どこにありますか/しっていたら おしえてください/つみぶかいめをした なきむしのすめるくには/どこにありますか/しっていたら おしえてください/くしんしているけど/このからだでは さがすことができません/きっといいくにが/どこかにあるとおもうのですが/きぼうのくには みつかりません/いいくには どこにありますか/きたのほうからきこえるこえに/わたしはたずねる/いつまでも

私は自分が言いたくても口にできないことを詩にしています。言いたいことはいつも心の中に残ったまま、岩のように固まって私の心を重くしています。その岩を砕いて言葉にしたものが詩です。詩を書くと、心に少しだけ隙間ができて、その隙間に首を突っ込んで必死に息をしている感じです。詩を書くと心が少しだけ柔らかくなって軽くなるのです。

私はテレビを見ながら「面白い」と感想を言おうとしても、それを話すことができません。朝起きて寒いと感じても、それを伝えることができません。「言いたくても言えないこと」とは、例えばそのようなことです。だから、詩は私にとって意思そのものなのです。自分の詩を誰かに読んでもらおうというようなことは全く考えていません。

思いはすべて自分の心の中のこと。私が詩に何か思いを込めているとするなら、それは私の魂の解放、苦しい自分から逃れることです。

たびだちのとき

たくさんのじぶんとたたかってきた/だいすきなじぶん/だいっきらいなじぶん/こどもみたいなじぶん/どれもじぶんであって じぶんではなかった/わたしというにんげんは/いったい どれがほんものなのだろう/じもんじとうのまいにちだった/いまわたしには こたえらしきものがみえてきた/それはじかんがおしえてくれた/いまこのときにおもうのは/けっきょく すべてはじぶんだったのだと/じぶんでじぶんをみとめてやったら/ボロボロとおとをたててくずれていった/じぶんがつくりあげていただけの じぶんじしん/ひとりぼっちになったわたしの/これが たびだちのとき

自分の意思を人に伝えることができない時、あまりの苦しさに私の心は音を立てて割れました。バラバラになった心は自分のものなのに、思春期の私にとってそれを認めるのはとても難しいことでした。時間が経って、その一つひとつを認められるようになった時、すべては自分だと気づいたのです。

(本記事は『致知』2020年1月号「自律自助」から一部抜粋・編集したものです。あなたの人生や仕事の糧になるヒントが見つかる月刊『致知』の詳細・購読はこちら

各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。

◇堀江菜穂子(ほりえ・なおこ)

平成6年茨城県生まれ。出産時のトラブルで重度の脳性麻痺を患う。東京都立特別支援学校中学部の頃に詩作を始める。詩集に『いきていてこそ』(サンマーク出版)。

1年間(全12冊)

定価14,400円

11,500

(税込/送料無料)

1冊あたり
約958円

(税込/送料無料)

人間力・仕事力を高める
記事をメルマガで受け取る

その他のメルマガご案内はこちら

『致知』には毎号、あなたの人間力を高める記事が掲載されています。
まだお読みでない方は、こちらからお申し込みください。

※お気軽に1年購読 11,500円(1冊あたり958円/税・送料込み)
※おトクな3年購読 31,000円(1冊あたり861円/税・送料込み)

人間学の月刊誌 致知とは

人気ランキング

  1. 【WEB chichi限定記事】

    【取材手記】ふるさと納税受入額で5度の日本一! 宮崎県都城市市長・池田宜永が語った「組織を発展させる秘訣」

  2. 人生

    大谷翔平、菊池雄星を育てた花巻東高校・佐々木洋監督が語った「何をやってもツイてる人、空回りする人の4つの差」

  3. 【WEB chichi限定記事】

    【編集長取材手記】不思議と運命が好転する「一流の人が実践しているちょっとした心の習慣」——増田明美×浅見帆帆子

  4. 【WEB chichi限定記事】

    【取材手記】持って生まれた運命を変えるには!? 稀代の観相家・水野南北が説く〝陰徳〟のすすめ

  5. 子育て・教育

    赤ちゃんは母親を選んで生まれてくる ——「胎内記憶」が私たちに示すもの

  6. 仕事

    リアル“下町ロケット”! 植松電機社長・植松 努の宇宙への挑戦

  7. 注目の一冊

    なぜ若者たちは笑顔で飛び立っていったのか——ある特攻隊員の最期の言葉

  8. 人生

    卵を投げつけられた王貞治が放った驚きのひと言——福岡ソフトバンクホークス監督・小久保裕紀が振り返る

  9. 【WEB chichi限定記事】

    【取材手記】勝利の秘訣は日常にあり——世界チャンピオンが苦節を経て掴んだ勝負哲学〈登坂絵莉〉

  10. 仕事

    「勝負の神は細部に宿る」日本サッカー界を牽引してきた岡田武史監督の勝負哲学

人間力・仕事力を高める
記事をメルマガで受け取る

その他のメルマガご案内はこちら

閉じる