【WEB限定連載】義功和尚の修行入門——体当たりで掴んだ仏の教え〈第52回〉明恵上人の故郷に入る

小林義功和尚は、禅宗である臨済宗の僧堂で8年半、真言宗の護摩の道場で5年間それぞれ修行を積み、その後、平成5年から2年間、日本全国を托鉢行脚されました。高野山を後に西に歩を進め、明恵上人の故郷に入り「あかあかや……」で有名な短歌について理解を深め、それが月の明るさであることを知ります。

紀の川を西へ向かう

高野山を下り、紀の川の流れに沿って西に向う。海南市から下津に出た。北には和歌山市。西には海が広がる。その海の向こうには四国。その北には淡路島だ。

そこから海岸に沿って南に下る。ここは有田蜜柑の本場である。さらに下ると湯浅町に入る。托鉢(たくはつ)していると、一軒の玄関からおばあさんが出てきて喜捨(きしゃ)を頂いた。

「どうぞ」と庭の椅子に誘われて坐った。簡単な台があって、その上に沢山の三宝柑(さんぽうかん)を出すと、「どんどん食べなさい」と勧める。天気も上々、ぽかぽか暖かい。

お菓子を頂きお茶を飲んでおしゃべりをしていると、ご主人や娘さんがそこに入って来る。会話が弾んだ。こうした家族のおもてなしは嬉しいものだ。私も気分が乗って、ついつい「御経を上げましょうか」と口を滑らせ、お仏壇の前で御経を上げた。

それが終わると、おばあさんが、「御経の最中に、売れた、売れた。沢山売れた」とにこにこしている。「えっ、ここはお店屋さんか?」。初めて気がついた。お蜜柑の販売店らしい。私は裏道から来たから分からなかったのだ。

明恵上人生誕の地で感動

観光案内の看板があった。見ていると明恵上人という文字が飛び込んで来た。ここ(有田川町)が明恵上人(みょうえしょうにん)誕生の地か……。

「ほう、ほう、ほう……」。清僧といえば明恵上人。その第一人者。その人物がここにいたのか。感動した。「どうやら明恵上人の寺があるらしい」。しかし、建造物には関心がない。他の理由があったかもしれないが、通過している。

ただ、その人物には強烈に魅かれていた。海を眺めながら感無量であった。上人が海に手を差し入れた海岸は、どの辺りだろうか。

「この海は、天竺(インド)につながっている。その天竺に行きたい」。その熱い思いが現代にも伝わってくる。本気である。邪心がない。純粋に憧れ。憧れはいつしか渇望へ。そして行動へと昇華する。それほどお釈迦さまを慕っていた。

このエピソードに触れた時には、「ここまで純粋になれるものか……」と、ある感動が胸を突きあげた。これが一つのことである。もうひとつは上人の短歌である。

あかあかや あかあかあかや あかあかや 
あかあかあかや あかあかや月(明恵上人歌集)

夜空に光る月の明るさ

冒頭から〈あか、あか、あかや……〉と続く。私はこの〈あか〉を「赤赤や 赤赤赤や 赤赤や……」と勝手に読み違えていた。そして、最後は月なのに太陽だと解釈していた。

夕焼け空に真っ赤な太陽が沈む。その太陽を詠(うた)ったと。これは通常の和歌ではない。やはり明恵上人という人物が読んだから有名になった。ただ、お上人のファンからしたら、太陽というのも面白い。太陽を見て、「真っ赤だ」。

素直に反応した。その太陽に感動した。だが、その赤い太陽をいかに表現するか。その言葉に行き詰まる。そこで苦し紛れに〈赤〉となった。また考えるのだが、またまた〈赤〉となる。

そして、和歌31文字が〈赤〉ばかりとなった。この赤い太陽。この感動をいかに表現したものか。お上人の性格からすると虚飾を嫌う。その虚飾を削いで削いで切り落とす。すると〈赤〉しか残らない。

真実を表現しようとして格闘するが、やはり〈赤〉。そこに落着いた。真面目なのだ。本気で真面目なのだ。そして、この〈赤〉が並んだ和歌を音読すると不思議なリズムがある。また太陽を見たお上人の感動が直に伝わってくる。これがまた不思議である。私の勘違いの解釈お許し下さい。

では、正確に解釈してみよう。〈あか〉は〈明か〉なのだそうだ。その〈明か〉が続く。そして、最後に〈月〉である。夜空にまん丸な月が白く光っている。

美しいと思った。白くて明るい。その明るい光に感動した。率直に表現したい。が、いかに表現したものか。それが〈明か〉。明るい、明るい。その繰り返しになった。感動がそのまま短歌になった。

私は、「真っ赤な太陽」と解釈すれば印象が強烈であると思った。心が燃える。お釈迦さまへの熱い熱い思慕の念。これとマッチする。

しかし、最後に〈月〉と結んでいる。それを見るとやはり、明恵上人だ。心に赤い炎を燃やして都会を飛び回る人物。それより夜空の月明かりの下、この湯浅の村で静かに思索に没頭する。白い炎。そのお姿のほうがこの高僧には相応しい。

つづく

          〈第53回の配信は2/5(水) 12:00の予定です〉

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小林義功
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こばやし・ぎこう――昭和20年神奈川県生まれ。42年中央大学卒業。52年日本獣医畜産大学卒業。55年得度出家。臨済宗祥福僧堂に8年半、真言宗鹿児島最福寺に5年在籍。その間高野山専修学院卒業、伝法灌頂を受く。平成5年より2年間、全国行脚を行う。現在大谷観音堂で行と托鉢を実践。法話会にて仏教のあり方を説く。その活動はNHKテレビ『こころの時代』などで放映される。著書に『人生に活かす禅 この一語に力あり』(致知出版社)がある。

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