平野美宇・伊藤美誠らを育てた村上恭和氏が語る「メダルを獲れる人、獲れない人」

2012年のロンドン五輪で女子団体を銀メダルに導き、さらに16年のリオ五輪でも銅メダル獲得を果たした卓球女子日本代表前監督・村上恭和さん。小学生だった平野美宇選手、伊藤美誠選手らを指導し、世界で結果を残す代表選手へと育て上げるなど卓球界のレベル向上に多大な貢献をされました。その確かな手腕で知られる村上さんは、メダルを獲れる選手、獲れない選手には、ある違いが存在するといいます。指導者人生の原点となった体験から振り返っていただきました。

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私を鍛えてくれた人生の師

〈村上〉
大学卒業後は、日本卓球リーグの2部に所属していた和歌山相互銀行に就職しました。4年生の時に全日本学生選手権で第3位の成績を収めたこともあって、「一部に上がりたいのでぜひ来てくれ」とお誘いをいただいたのです。私は卓球を続ける気はあまりなかったのですが、遊び友達だった大学の先輩が勤務していたため、入社することに決めました。

そんないい加減な私を鍛えてくださったのは、和歌山相互銀行の専務兼卓球部の顧問で、和歌山県卓球協会の会長も務めていた西峰利清さんでした。

西峰さんは中卒で銀行に入り、専務まで上り詰めた叩き上げの人です。事あるごとに人としてのあり方、人生の考え方などを教えていただきましたが、それは20代の私にとって最高の教育であり、西峰さんには感謝しても感謝しきれません。

とりわけ印象に残っている教えは「人を大事にする」ということです。当時、私は卓球部の監督によく逆らっていて、ある日、「もうええわ。明日の試合は行かん」と言って、寮に帰ってしまったことがありました。

しばらくすると、電話が掛かってくる。電話の声は西峰さんです。開口一番、何と言われたか。普通なら「バカヤロ!」と怒鳴ってもおかしくないところですが、「村上君、本当に明日の試合行かないの?」「君はそれでいいかもしれんけど、いままで一緒に練習やってきた皆が困るやろ」と。

人を包み込む懐の深さに感激したことをいまでも覚えています。それからというもの、卓球も本気、遊びも本気、何に対しても全力で向かっていくようになりました。平日は午後3時に仕事が終わり、4時から7時まで練習。日曜日も午前中は練習があり、午後は西峰さんに連れられて、船に乗ったり、水上スキーをしたり、キャンプをしたりする。

そういう日々の中で、「一所懸命やれば、たとえ失敗したとしてもその失敗は必ず次に生きてくる。しかし、中途半端にやっていては、何の収穫も得られない」ということを、身を以て学んだのです。

後に西峰さんからこういうことも教わりました。

「人と口論になったり対立したりする時に、とことん追い詰めたら絶対ダメ。追い詰めたら、しっぺ返しがひどいよ。追い詰める一歩手前のラインで止めておく。少しだけ逃げ道をつくる。これが人と対する時に一番大事なことなんや」

心の機微を見事に熟知した西峰さんの教えが、指導者として選手と向き合う上でどれだけ役に立ったかは、言うまでもないでしょう。

入社2年目の時に一部リーグ昇格を果たし、26歳の時には選手兼コーチ兼監督と、一人三役を務めることになりました。

それだけの役割を一人で担うことは確かに重責ではありましたが、私は困難なことに直面する度に、「よし、来たか」「さあ、どうする」と思い、困難を困難と捉えず楽しみながら乗り越えていくように、心を整えていました。これも西峰さんに教えていただいたことです。

メダルを獲る人と獲れない人の差

これまで私は福原愛や石川佳純をはじめ、数多くのトップ選手を見てきました。

選手は皆、オリンピックでメダルを獲りたいと言います。だが、その中で達成できるのは4年に1度、たった3人しかいません。メダルを獲る人と獲れない人の差はどこにあるか――。

最初の分かれ目は、本気で思っているか、口先だけかです。次に、本気で思っている人は行動します。口先だけの人は行動しません。そして最後は、途中で諦めないこと。誰でも目標達成に向かって努力していれば、どこかで「ああ、もう無理かな」と思う時があります。しかし、そこで諦めずにやり続けた人のみがメダルを手にできる。

さらに、支えてくれる人間が多ければ多いほど、達成する可能性は高まります。実力が拮抗している中で、最後に勝敗を決するのは目に見えない思い、周囲の応援がどれだけ多いかなのです。

何の世界でも、実力と運さえあれば、一旦は成功を手にすることができるでしょう。しかし、より長く、より高く成功するためには、自分を支えてくれる仲間、味方がどれだけ多くいるかに尽きると思います。ですから、周囲に対して感謝できない人間は成功し続けることはできません。

このことはスポーツのみならず、あらゆる職業の人に共通する成功の条件ではないでしょうか。


(本記事は月刊『致知』2017年1月号 連載「二十代をどう生きるか」から一部を抜粋・編集したものです)


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◇村上恭和(むらかみ・やすかず)
1957年広島県生まれ。1980年近畿大学卒業後、和歌山相互銀行入社。1990年日本生命女子卓球部監督に就任し、6年後チームを日本一へと導く。1996年日本卓球女子ナショナルチームコーチ、2008年同監督に就任。2012年のロンドン五輪で日本卓球界史上初となる女子団体銀メダル、2016年のリオ五輪でも同種目銅メダルへと導く。著書に『勝利はすべて、ミッションから始まる。』(WAVE出版)。

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