世界一美しい藤棚をつくりあげた樹木医・塚本こなみの仕事術

樹齢150年の大藤や藤棚の美しさに加え、「イルミネーションアワード」で4年連続ランキング1位に輝くなど夜景が素晴らしい「あしかがフラワーパーク」(栃木県足利市)。その人気を不動のものとしたのは、かつて園長を務めた塚本こなみさんの力に負うところが大きいようです。現在、はままつフラワーパーク(静岡県浜松市)の理事長として奮闘する同氏の仕事にかける思いを伺いました。

各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。
1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら※動機詳細は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください

女性初の樹木医として注目集める

主人の会社にいた頃から、「樹齢300年の蘇鉄が弱ってきたから回復させてほしい」「樹齢1000年の木を移植してほしい」といったお仕事の依頼をよく受けていたました。そんな頃(平成3年)、樹木医という試験制度ができたんです。経験年数など条件も合致したものですから、翌年に受験したら幸運にも合格できました。

自分が女性の第一号になるなんて、考えてもいませんでした。けれど、樹木医の世界に女性がいるのが珍しいんでしょうね。驚くくらい多くのテレビや新聞の取材を受けて、仕事の範囲は全国に広がっていったんです。

その一つが栃木県のあしかがフラワーパークのお仕事でした。ある日、電話があって「今度開園するフラワーパークに大きな藤の木を移植してくれる人を4年間探している。塚本さんは移植が得意だと新聞に書かれていたので、藁にもすがる思いで連絡をしました」と。

聞いてみると、幹回り3・6メートル(直径1・2メートル)もある藤なんです。それを園の目玉にしようとしていました。好奇心旺盛な私はその仕事にとても興味があったのですが、社員は猛反対でした。静岡から栃木は遠いということもありましたが、「藤の移植は経験したことがないでしょう」と。

実際、藤は驚くほど腐りやすく幹が柔らかい。樹木というより草に近いんですね。しかも、幹回りは日本一です。大変だとは思いましたが、それまで巨木を100本以上移植して1本も枯らしたことはありませんでした。

それで私、社員には内緒で協力会社の社長と一緒に現地を見に行きました。そして藤の前に立った途端、「あっ、できる」と思ったんです。その社長も「やってみなきゃ分からない」と言うものですから「そうだね。やってみる」とその日に請け負いました(笑)。

「世界一」の藤のガーデンを整備

移植に成功したことで今度は園全体の植栽デザインを依頼されました。そのデザインに沿って園は整備され、平成9年の4月にグランドオープンして藤の花の時期を迎えるわけですね。

ただ、オープンはしたものの、もともとが沼地ですから土壌の問題もあり、私は顧問として浜松から月に数回通うようになりました。それに経営もなかなか軌道に乗らずに、私も設計者としての責任を感じていたところ、取締役の話があって運営全体に口を出すようになったんです。

「入園者数云々でなく、とにかく美しい園にしましょう」と呼び掛けていたら、「塚本さん、園長になってください」と。

限られた予算内で何ができるかというので最初にやったのは販売戦略を立てることでした。「世界一の藤のガーデン。あしかがフラワーパーク」と大々的にPRしよう、そうしたら気になって必ず人が集まってくるはず、と訴えました。

「世界一と断言していいのですか」という声もありましたが、私は日本中の藤の名所を見て回っていましたから「ここには大藤が4本、白藤トンネルが1つ、庭木仕立ての藤が160本もあります。世界一と自信を持ってください」と言ったんです。

世界一とうたったチラシも配りました。それまで年間20万人だったお客様が34万人になり、翌年は47万人、その翌年は55万人というように右肩上がりに増えていったんです。そして数年後には100万人を超え、日本一の入園者を誇るフラワーパークになりました。

厳しいことも言う自称「鬼の理事長」

私は(スタッフたちに)「あなたがやる仕事を見て、お客様は喜ぶの?」と常に自分に問い掛けるよう呼びかけています。(理事長を務める)はままつフラワーパークでいえば、私自身は、世界一美しい桜とチューリップの庭園をつくるための旗手です。

そのために、デザインの計画段階から「これを植えて、その次はこれを」と細かい戦略まですべて社員に伝えて、その実施状況を細かくチェックしています。厳しいことも言いますから、鬼の理事長と恐れられているかもしれませんが(笑)、収益はよくなっていますし、目標も明確です。社員の表情は明らかに輝き出していますね。

私は現在、弱ったり花の咲かない大藤の治療などの仕事を請け負っています。他の樹木医が匙を投げたような困難な仕事もありますが、それでも結果は必ず出します。仕事とは結果を出すこと。私のポリシーは追い求めることなんです。その信念はずっと貫いていきます。

周囲から「そんなに働いて大丈夫?」と言われることも多いのですが、私の根底には「お客様の笑顔が見たい」という思いがあって、それが原動力になっていることに最近、気づきました。おいしい料理に作り手の真心が込められているように、自分が携わる仕事もそうありたいと願っているんです。


(本記事は月刊『致知』2014年9月号の特集「万事入精」の一部を抜粋・編集したものです) 

各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。

◇塚本こなみ(つかもと・こなみ)
昭和24年静岡県生まれ。造園家であるご主人の仕事を手伝った後、グリーンメンテナンス、環境緑化研究所の2社を設立。樹木医として全国の大藤などの治療、造園指導などを続ける傍ら、平成11年から「あしかがフラワーパーク」園長として同園の立て直しに尽力(27年6月退任)。25年「はままつフラワーパーク」理事長に就任。

1年間(全12冊)

定価14,400円

11,500

(税込/送料無料)

1冊あたり
約958円

(税込/送料無料)

人間力・仕事力を高める
記事をメルマガで受け取る

その他のメルマガご案内はこちら

『致知』には毎号、あなたの人間力を高める記事が掲載されています。
まだお読みでない方は、こちらからお申し込みください。

※お気軽に1年購読 11,500円(1冊あたり958円/税・送料込み)
※おトクな3年購読 31,000円(1冊あたり861円/税・送料込み)

人間学の月刊誌 致知とは

人気ランキング

  1. 【WEB chichi限定記事】

    【取材手記】ふるさと納税受入額で5度の日本一! 宮崎県都城市市長・池田宜永が語った「組織を発展させる秘訣」

  2. 人生

    大谷翔平、菊池雄星を育てた花巻東高校・佐々木洋監督が語った「何をやってもツイてる人、空回りする人の4つの差」

  3. 【WEB chichi限定記事】

    【編集長取材手記】不思議と運命が好転する「一流の人が実践しているちょっとした心の習慣」——増田明美×浅見帆帆子

  4. 【WEB chichi限定記事】

    【取材手記】持って生まれた運命を変えるには!? 稀代の観相家・水野南北が説く〝陰徳〟のすすめ

  5. 子育て・教育

    赤ちゃんは母親を選んで生まれてくる ——「胎内記憶」が私たちに示すもの

  6. 仕事

    リアル“下町ロケット”! 植松電機社長・植松 努の宇宙への挑戦

  7. 注目の一冊

    なぜ若者たちは笑顔で飛び立っていったのか——ある特攻隊員の最期の言葉

  8. 人生

    卵を投げつけられた王貞治が放った驚きのひと言——福岡ソフトバンクホークス監督・小久保裕紀が振り返る

  9. 【WEB chichi限定記事】

    【取材手記】勝利の秘訣は日常にあり——世界チャンピオンが苦節を経て掴んだ勝負哲学〈登坂絵莉〉

  10. 仕事

    「勝負の神は細部に宿る」日本サッカー界を牽引してきた岡田武史監督の勝負哲学

人間力・仕事力を高める
記事をメルマガで受け取る

その他のメルマガご案内はこちら

閉じる