子供たちの笑顔をつくりたい——大棟耕介がホスピタル・クラウンを続ける理由

病院を訪ね、闘病中の子供たちを元気づける道化師、ホスピタル・クラウンとして活躍する大棟耕介さん。日本におけるホスピタル・クラウンのパイオニアである大棟さんはどのような思いで病院を訪れ、子供たちと向き合っているのでしょうか。この活動への思いをお話しいただきました。

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子供が主役、道化師は脇役

(――病室を訪れる際に特に心掛けておられることはなんですか。)

(大棟) 

まず病院という社会のルールを守ること。病室は一つのプライベート空間ですから、礼儀を守り、丁寧に時間をかけて子供たちとの距離を詰めていくことです。

サーカスでは綱渡りや動物たちがメインで、道化師は脇役です。その脇役ということを特に病院では意識しなければいけません。子供たちを主役にするために、相手がいまどんな様子か瞬時に把握する状況判断能力と、そこで何をすべきかという引き出し、スキルを常に磨いておかなければなりません。そこで子供たちが大きな声を上げたり、前のめりになってきたら、いいパフォーマンスができてるなって感じるわけです。

(――子供たちの反応で分かると。)

(大棟) 

病院というのはすべて受け身で守られているじゃないですか。喋らなくても生きられるし、食事、点滴、注射、検査、手術とすべて受け身の中で、子供たちのほうから能動的に近づいてくるような、子供たちの社会性、創造性というものが広がっていくようなアプローチを取っていく。だからあえて失敗してみせることで、子供たちを上に立たせてあげるんです。

(――例えばどんなことを?)

(大棟) 

長い棒を横に持って狭い入口を通ろうとして引っ掛かる。それを繰り返していたら、ベッドで殆ど寝たきりだった五歳の女の子が立ち上がって「もっとちゃんと考えなさい!」って。病院で最も立場が弱く、こうしなさい、こうしちゃダメと命令されてばかりいる彼らの立場を逆転させるのです。

悪戯する時のドキドキ感も大事です。だからナースコールを押して逃げる。子供たちは「Kちゃんが押したんだよ」って焦ってる(笑)。物も盗むんです。パフォーマンスの合間にこっそり子供たちの物を盗んでおいて、帰りがけにプレゼントって渡すんです。だから彼らは「Kが来たぞ、気をつけろ!」って言ってる(笑)。

一日中白い壁に囲まれ、刺激が少ない病院に僕らが入っていくことで、笑ったり、焦ったりするのはいい刺激になると思うんです。

目の前の子に集中する

(――重い病に苦しんでいる子も笑顔を取り戻すのでしょうね。)

(大棟) 

奇跡のようなエピソードはいっぱいあります。喋れなくなっていた子が声を出したり、もうダメだっていう子が訪問によって半年間も持ちこたえたり。でも僕はあえてそこにフォーカスしないんです。そこで喜んでも、傍らには亡くなる子だっているわけじゃないですか。

僕らは医療従事者じゃないし、家族、友人でもありません。ここは大切なところで、僕らは道化師なんです。道化師以外の感情を持つことは、僕は越権行為だと思っているんです。

(――あくまでも道化師として。)

(大棟) 

もちろんブレます。嬉しいことも悲しいこともいっぱいあるけれど、大切な軸だけは外してはならないと思っています。

行く度にだんだん弱っていく子、訪問の最中に隣の病室で亡くなる子、先週めちゃめちゃ元気だったのにもういなくなっている子……。本当は一人ひとりに凄く思い入れがあるし、大好きな子が亡くなるのは本当にやりきれない。けれどその思い入れをきっぱり捨てなければ他の子たちに会えないし、その日の辛いことはその日のうちに忘れなければ、僕らに次の日は来ないんです。

大切なことは、ボチボチ、コツコツ、淡々と続けること。喜んだり凹んだりして立ち止まるのではなく、明日も明後日もパフォーマンスを続ける。きょう目の前の子に集中することなんです。

(――きょう目の前の子に集中する。)

(大棟) 

一旦病室に入れば、全神経を研ぎ澄まして一人ひとりに接しますから、目の前の子以外のことは考えられません。ここで何をしなきゃいけないか、いま押すべきか引くべきか、このまま5秒続けるのか3秒でやめるのか。ずっと意識しているので、過去、未来じゃなく、いまこの時なんです。

(――大変なエネルギーを要する活動なのですね。)

(大棟) 

でもお母さんやドクター、ナース、そして子供たちから、楽しかった、救われたといった言葉をいただくと、またスイッチが入りますね。特にお母さんからいただいた時ですかね、あぁそうかって嬉しくなるのは。

お母さんは毎日の病院通いで大変な思いをしているし、我が子が病に苦しんでいることに凄く罪悪感を持っています。だから我が子が笑っているのを見て泣くんですよ。この子が病院に入って初めて笑うのを見たって……。

ですから僕らは、彼女たちが笑えば、子供には会わなくてもいいと思っているくらいです。彼女たちの気持ちが少しでも楽になれば、子供はそれを敏感に感じ取るし、そっちのほうが余韻、余熱を残せると思うんですよ。

ドクターやナースもそうです。大変な仕事をしている彼らの緊張が少しでも和らぐように、彼らの邪魔にならないように、彼らを巻き込んでパフォーマンスをします。僕らが風船の鉢巻きをしても面白いけど、いつも格好いい彼らがやればもっと面白いじゃないですか。 

(本記事は『致知』2013年10月号「一言よく人を生かす」から一部抜粋・編集したものです。あなたの人生、経営・仕事の糧になるヒントが見つかる月刊『致知』の詳細・購読はこちら

◇大棟耕介(おおむね・こうすけ) 

昭和44年愛知県生まれ。平成4年筑波大学卒業。名古屋鉄道入社。10年道化師のプロに転身すべく同社を退職し、翌11年道化師の会社プレジャー企画設立、代表に就任。20年道化師の世界大会WCAで金メダル受賞。遊園地や小中学校、ホテルなどでショーを開く傍ら、病院を訪れ、闘病中の子供たちに笑いと希望をもたらしている。著書に『ホスピタルクラウン』(サンクチュアリ・パブリッシング)『道化師が動いた!』(生産性出版)などがある。

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