〈稲盛和夫講話録〉「心に描いた通りになる」ための条件

27歳での京セラ起業から第二電電(現KDDI)の創業、JALの再生まで、55年の常勝経営はなぜ可能になったのか? 稲盛和夫氏渾身の講話が収められた『成功の要諦』から、経営のみならず人生を「思い通り」に動かす〝心の条件〟に迫ります。
(本記事は致知出版社の書籍『成功の要諦』の一部を抜粋・編集したものです

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意識が体全体に影響を及ぼしている

〈稲盛〉
心に描いた通りの現象が現れると言いましたが、「こうありたい」と思った程度ではなかなか実現しません。実際には、心に描いたことが現実になったり、ならなかったりするわけです。

そうすると、なった人はそれを信じるが、ならなかった人は、「何を言ってるんだ。心で思った通りになるんだったら、カニも横に歩かんわい」ということで、誰も信用してくれない。

なったり、ならなかったりするのでは、サイエンスとは言えないわけです。だから、これをあまり声高に言いますと、新興宗教のように思われて、「あいつ、まやかしのようなことを言ってるんじゃないか」となってしまうのです。

「こういうふうに思えば、必ずこうなる」というものであれば、その方法を教えてあげればみんなそうなりますから、信じてくれるのでしょう。ですが、どうもそのようにはなっていません。

みなさんも、お腹の調子は悪いが、頭だけは爽快に回っているということはないはずです。また、腰と頭は別のものですが、腰が痛ければ頭もうっとうしくなり、考えがまとまらない。「今日はちょっと針でも行こうか」ということになります。

つまり、体のどこか一部が悪ければ、それは必ず体全体の調子と影響します。悪い部分の細胞だけが痛がり、それが神経細胞に伝わるということではありません。その部分の細胞が意識を持っていて、その意識が体全体に影響を及ぼしているというように考えた方が、いいのではないかと私は思っています。

人間というものは、心に描いた、また意識したことによって、自分の体調も変えてしまうのみならず、さらに植物にまで影響を及ぼすということをおわかりいただけたかと思います。

まさに疑いもなく、一点の曇りもなく思うということです。「こうならないかな。なってくれればもうけものだな」といった程度の思いでは、全然話になりません。

もともと本人が心底信じていないのですから、実現するわけがないのです。どうしてもそのようになるはずだと、信じた状態で思い続けなければなりません。考えてみると、京セラという会社は強烈な思い、持続した思いによってつくられました。

京都の西ノ京原町というところで、資本金300万円で、7人の同志と20人の中学卒業生を入れて始めたときに、その7人の同志と、夜に焼酎を酌み交わしながら、

「今にきっと京都の西ノ京原町一の会社になろう。西ノ京原町一になったら、次は中京区一になろう。次は京都一になろう、日本一になろう、世界一になろう」

と自分たちを鼓舞していました。まだ資本金が300万円で、別の会社の倉庫を間借りして工場をつくったばかりの頃に、すでに世界一になろうと言っていたのです。

それからは、寝言のように西ノ京一、中京区一、京都一、日本一、世界一ということを言い続けている。はたから見れば「バカじゃなかろうかと思われたのでしょうが、本人たちは、真面目な顔をして「そうなろう」と思ってきたのです。

なぜ心に描いた通りにならないのか。心に描いたとおりになるのには、ある条件があるような気がするのです。私自身の過去の経験から言うと、心に描く思いというものが、強烈でなければならないのだろうと思うのです。それは、同時に持続した思いでなければなりません。

強烈で持続した思いであったときにはじめて、現象として現れるのです。催眠にかけ、「この植物は捨ててしまおう」と思わせる実験をしたと言いましたが、心の底からそのように思ったときに、初めて植物が反応する。そのために、被験者に催眠術をかけ、催眠状態にして、心の底から思わせるということをしたのです。

心の底から思わなければならない。心の底から思うということは、「何が何でもこうありたい」と強烈に思うことです。そして、その強烈な思いを持続させる。どうもそのようなものが、思いを成就するもとではないかと思うのです。

才能を私物化してはいけない

人は成功していきますと、つい、うぬぼれてしまいます。俺には才能がある、俺は切れ者だ、だから俺は成功したのだ、と。そして、その才能を私物化するようになります。そして、俺は会社の社長なのだから、一億や二億の給料をもらっても当然ではないかと考えるようになっていく。

ところが、そうではなかったのです。創造主は私に才能を与えてくださった。

それは、それによって社会がうまくいくのだから、私の才能を世のため人のために使いなさいということで与えられたものなのです。それを勘違いして、才能を自分のためにだけ使い、自分だけがエンジョイしたのでは、たまたま才能を与えられなかった人たちはみじめになってしまいます。

才能がある人ない人、そして障害を持った人、いろいろな人が世の中に生まれ出てきて、その人たちが皆、世のため人のために尽くすことによって社会がうまくいくようになっているのです。それなのに、いくら才能があるからといって自分の才能を全部自分のために自由に使ったのでは、世の中は不幸になってしまいます。

才能を私物化してはいけないのです。

おそらく皆さんも、経営の才能があって経営者となられたのでしょう。そうであればこそ、その才能は従業員のために使わなくてはいけません。同時に、皆さんの会社を支えてくれるお客さんのために使わなくてはいけません。そして、それでもまだ才能が余っているのなら、地域社会に貢献をしなさい。そのために、神様はあふれるような能力を皆さんに与えたのです。私はそういうふうに考えました。

それに気づいたのはだんだん会社が立派になって、ともすれば、私も天狗になりそうな時期でした。そのとき私は愕然としました。そして、これは大変なことだ、決して才能を私物化してはならないのだ、と気を引き締めたのです。


(本記事は致知出版社の書籍『成功の要諦』の一部を抜粋・編集したものです

◇稲盛和夫(いなもり・かずお)
昭和7年、鹿児島県生まれ。鹿児島大学工学部卒業。34年、京都セラミック株式会社(現・京セラ)を設立。社長、会長を経て、平成9年より名誉会長。昭和59年には第二電電(現・KDDI)を設立、会長に就任、平成13年より最高顧問。22年には日本航空会長に就任し、代表取締役会長を経て、25年より名誉会長。昭和59年に稲盛財団を設立し、「京都賞」を創設。毎年、人類社会の進歩発展に功績のあった方々を顕彰している。また、若手経営者のための経営塾「盛和塾」の塾長として、後進の育成に心血を注ぐ。主な著書に『「成功」と「失敗」の法則』『人生と経営』『何のために生きるのか』(共著/いずれも弊社刊)『生き方』(サンマーク出版)『従業員をやる気にさせる7つのカギ』(日本経済新聞出版社)『成功への情熱』(PHP研究所)『ど真剣に生きる』(NHK出版)『燃える闘魂』(毎日新聞社)などがある。

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