【WEB限定連載】義功和尚の修行入門——体当たりで掴んだ仏の教え〈第49回〉高野山で思い出した修行時代

小林義功和尚は、禅宗である臨済宗の僧堂で8年半、真言宗の護摩の道場で5年間それぞれ修行を積み、その後、平成5年から2年間、日本全国を托鉢行脚されました。和歌山県の紀の川沿いの道中、九度山から学文路へと進み、ふと高野山での修行時代を思い出します。

学文路にある天満宮

九度山(くどやま)から学文路(かむろ)に出た。そこには最福寺の兄弟子、宮坂先生の奥さんの実家がある。

「そこに行ったらいいよ」。行脚に出る前にその住所を教えてくれた。坂を少し上がって南向き。日差しをいっぱいに浴びた建物である。高台であるから景色もいい。

玄関に立って「最福寺の小林です」と名乗ると、「どうぞ、どうぞ」とご夫婦で歓待してくれた。

「昨日だったら、留守だったんですよ」。実際、私は電話ひとつしていない。初対面である。先方は連絡を受けていただろうが、さてさて6か月も前のこと、すっかり忘れていたのではないか。

昨日だったら通過していた。間違いない。御縁もなかった。「ラッキー」といってしまえばそれまで……。だが、それで済まされない何かがある。やはりお大師さまの御導きか。

それにしても、この学文路であるが難字である。御話を聞くと南海電鉄の駅がすぐこの下にある。その駅名が「学文路」で受験シーズンになると、この入場券を買いに学生が殺到する。お守りにするのだという。

学文路の間に「の」の一文字を入れれば「学文の路」となる。なるほど考えたな。縁起ものでは北海道帯広市に幸福駅もあったが、ここには古い歴史がある。

この近くに学文路天満宮という神社がある。そこには菅原道真公がお祭りされている。つまり、学問の神さまで、抜群に有名なのだ。如何やら、その人気にあやかって駅名がついたと。

錫杖の修理に弘法大師の見守り

行脚する時、常に携帯しているのが錫杖(しゃくじょう)である。180センチはある。その錫杖をトン、トンと突くと「シャリン、シャリン」と音がする。杖の役目もあるが、本来はその音で山野の獣を撃退する。また足元の虫を追いたて無用の殺生を避ける。そうした法具である。

その錫杖の上端は金属で15センチ。下端は円筒の木部で160センチ。その金属と木部(もくぶ)のつなぎ目がどうやら損傷した。グラグラしている。そこで、修理にかかった。御主人も気さくな方で道具を用意し手伝ってくれた。

木部の上端を5センチほどを切断して円錐に削った。それを金属に差し込むとピタリと嵌(はま)る。まずは成功。しかし、次が難題である。金属の下部に小さな穴がある。そこに釘を打ち込み先に差し込んだ木部を貫通して反対側の穴から抜くのだ。穴が小さいだけに至難の技だ。

ペンチで釘を挟んで穴から釘を軽く打ち込み、下の穴に狙いを定めた。そして、慎重に「とん、とん、とん」と金槌で打ち込むと出た。下の穴に命中したのだ。その瞬間、ご主人と思わず顔を見合わせた。

偶然かもしれない。しかし、狙って通すにしては出来すぎだ。やはりお大師さまが通してくれたか。お大師さまが私を守っていると……。理屈ではない。本気でそう思った。その日は仲の良いご夫婦に歓待して頂いた。

断食断水のほろ苦い失敗談

高野山に上る道はいくつかある。一番近いのが学文路からだという。翌朝、その道を登って大門に出た。そこから托鉢を始め、進んでいくと、宝寿院の前に出た。この寺は高野山真言宗。その僧侶を輩出する専修学院である。

つまり、修行道場だ。だから、外部との接触は厳禁である。私もここで修行させて頂いた。この辺りは修行時代に壇上参拝で歩いた。その道だ。当時、衣に袈裟、数珠をもってカラコロ、カラコロ下駄履きだった。懐かしい。

まず山王院。この高野山の土地の神さま。その前で、修行者80名が整列して参拝した。それから根本大塔、金堂。そして、弘法大師のお姿が安置されている御影堂(みえどう)。簡素であるが不思議な趣がある。

御経を上げながら丁寧に巡拝した。さらに、准胝堂(じゅんていどう)。孔雀堂。その後だったと思う。やはり、整列して勤行をしていた時のことだ。頭の血がスーと下っていく。それが分かった。

「危ない!」と、咄嗟の判断で座り込んだ。その後は分からない。抱えられて小さな小屋だろうか運ばれて、しばらく寝かされた。そして回復した。実は貧血で倒れた。その理由がある。裏話ではあるが……。

当時、私の頭にあったのは「悟り」であった。大学の頃に断食はした。一週間、10日。そして、日数を増やしたらと21日間断行した。しかし、その効験(げん)はなかった。

そうだ、断食だけでなく断水も一緒だ。これなら一週間が限度。これ以上続けたら命取りだ。面白い。何処まで出来るか、やってみよう。そして、寮監さんに申し出た。「修行中であるが断食をしたい」と許可を頂いた。

断水のことは無論秘密である。最初は順調であった。運動量も宝寿院の中だけだから知れている。しかし、5日目だったか。この壇上参拝で外出。そして失敗したのだ。ご迷惑をお掛けした。

つづく

           〈第50回の配信は12/25(水) 12:00の予定です〉

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小林義功
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こばやし・ぎこう――昭和20年神奈川県生まれ。42年中央大学卒業。52年日本獣医畜産大学卒業。55年得度出家。臨済宗祥福僧堂に8年半、真言宗鹿児島最福寺に5年在籍。その間高野山専修学院卒業、伝法灌頂を受く。平成5年より2年間、全国行脚を行う。現在大谷観音堂で行と托鉢を実践。法話会にて仏教のあり方を説く。その活動はNHKテレビ『こころの時代』などで放映される。著書に『人生に活かす禅 この一語に力あり』(致知出版社)がある。

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