内なる悲しみとどう向き合うか——高木慶子×岩朝しのぶ

 

死にゆく人々をサポートするターミナルケアや愛する人と死別した人々を支えるグリーフケアに長年取り組んできた髙木慶子さん。全国4万5000人に上る児童虐待を憂いて、家庭環境に恵まれない子供たちの支援に奔走している日本こども支援協会代表理事の岩朝しのぶさん。人は誰しも悲しみを抱えて生きています。お二人が語り合う、悲しみとの向き合い方とは――。

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神様に喜ばれる自分でありたい

(岩朝) 

人の悲しみに向き合うのはとても大変なことだと思いますけど、シスターがそういうご活動に取り組まれるのはなぜですか。

(髙木) 

私の曽祖父は江戸末期から明治時代にかけて長崎の浦上で伝道活動をしていた高木仙右衛門というんですけど、その人の血が自分の中に流れていることが大きいと思います。それがどんな血かって言ったら、厳しい弾圧にも屈することなく信仰を貫いた殉教の血。自分がどうしたいというより、神様が喜んでくださる自分でありたいというのが私の一番の望みなんです。それがいまの活動に結びついているんでしょうね。

他人様からはよく、「髙木さんはどうしてそんなに明るくて元気なんですか?」って言われるんですけど、自分でそうしようという意識はないんです。私の心にあるのはただ神様。神様に喜ばれる感情でありたいというだけなんです。

ちょっと神がかってますね(笑)。

(岩朝) 

いえ、そんなことはありません。

(髙木) 

私は34年前に「生と死を考える会」を立ち上げて、いまは全国協議会の会長をしていますし、14年前にスピリチュアルケア学会、12年前には上智大学のグリーフケア研究所を立ち上げて、自分でも不思議なくらいにいろんな会をつくってきました。そうしてお話を伺う方に、こうしていきましょうね、ああしていきましょうねっていろんな決断を促してきたんですけど、どうか神様のお望みに沿うようにお導きください、という祈りを根底に持ち続けてきました。

ただ、そうは言っても人間誰しもイラつく時ってあるでしょう。その時グッと我慢する。それは大変なエネルギーですよ。でも、こんな荒んだ思いを抱いてごめんなさいとパッと神に向かう。それが現代における殉教だと思うんです。

(岩朝) 

その心の整え方は素晴らしいですね。

(髙木)

こんなお話をすると、「髙木先生もイラつくんですか?」って驚かれるんですけど、私も人間よ(笑)。いつもニコニコしているものだから、周りの人にはきっと苦しみがないように見えるんでしょうね。

でも、人間誰しも心の内に悲しみ、苦しみを抱えているものなんですよ。それをカムフラージュしながら生きているだけでね。

それを遠慮しないで出せるのが家庭なんです。そういう場を持っていない方は、イライラが高じて暴力に発展したり、とんでもないことになります。だから幼い時に遠慮しないで自分のわがままを出せる家庭というのは、とっても大事な場なんですね。

無条件で受け止めてくれる存在が必要

(岩朝) 

シスターがおっしゃるように、子供に一番必要なのは、自分が愛され、受け入れられているという安心感だと思います。それが育みの栄養になり、人間性をつくっていくと思うんです。

受けた愛情というのは絶対に誰かに返そうと思うもので、愛情を注げば注ぐほど、それを受けた子はいつかそれをアウトプットしようとする。だから幼児期に愛情を十分インプットしてあげなければいけないし、誰かがその子をものすごく愛してあげたら、その子は間違いなく人格者になると思うんです。

ところが、虐待を受けている子は残念ながらそれが望めないから、誰も信用できないんですね。人に助けを求めることもできなくて、孤独な人生を歩むことになります。だから里親でも誰でもいい。その子を無条件に愛してくれる存在が必要なんです。愛情を受けた子はたとえ経済的に貧しくても強く生きることができるんです。

ただ、愛情を注ぐ人は日替わりではダメです。特定の誰かでないと信頼関係はつくれませんから。

(髙木) 

東日本大震災でご両親と妹さんを亡くした中学一年生の男の子がいましてね。自分を引き取ってくれた伯父様や叔母様のもとではどうしても遠慮があるんです。

たまたまご縁をいただいてその子と交流を続けてきましたが、私が無条件に彼を受け止めるものですから、私に対してはメチャクチャにわがままを言うんです(笑)。伯父様にも叔母様にも言えないことをね。

(岩朝) 

その子にとっては、シスターが唯一わがままを言える存在なんですね。

(髙木) 

もう大学生になっているんですけど、その子を今年の春休みに私のいる神戸に呼んだら、「俺、神戸に就職しようかな」って言うんですよ。「先生の面倒を見ないといけないから」って。もう嬉しくて嬉しくて、涙が出ました。

ですから岩朝さんがおっしゃるように、無条件にわがままを言える存在というのは本当に大事。そういう存在が一人でもあったらいいと思うんです。

(本記事は月刊『致知』特集2019年11月号「語らざれば愁なきに似たり」から一部抜粋・編集したものです。あなたの人生、経営・仕事の糧になるヒントが見つかる月刊『致知』の詳細・購読はこちら

◇髙木慶子(たかき・よしこ)

熊本県生まれ。聖心女子大学文学部心理学科卒業。上智大学神学部修士課程修了。博士(宗教文化)。終末期にある人々のスピリチュアルケア、及び悲嘆にある人々のグリーフケアに取り組む。現在、上智大学グリーフケア研究所特任所長、生と死を考える会全国協議会会長、日本スピリチュアルケア学会理事長などを務める。著書に『それでもひとは生かされている』(PHP研究所)『「ありがとう」といって死のう』(幻冬舎)など。

◇岩朝しのぶ(いわさ・しのぶ)

宮城県生まれ。企業経営を経て、平成22年日本こども支援協会設立。自身も里親として女児を養育する傍ら、児童養育施設や里親の支援をしながら社会養護の現状や里親制度の啓発に取り組む。その他、虐待防止活動、母子家庭支援、父子家庭支援、育児相談、震災孤児・遺児支援活動にも尽力している。

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