【WEB限定連載】義功和尚の修行入門——体当たりで掴んだ仏の教え〈第46回〉犬鳴山七宝瀧寺を巡る若き僧侶とのご縁

小林義功和尚は、禅宗である臨済宗の僧堂で8年半、真言宗の護摩の道場で5年間それぞれ修行を積み、その後、平成5年から2年間、日本全国を托鉢行脚されました。今回は、大阪府泉佐野市の霊気に満ちた真言宗の犬鳴山七宝瀧寺と、この寺にまつわる若き僧侶との不思議なご縁を振り返ります。

山間の犬鳴山七宝瀧寺を訪ねる

大阪府泉佐野市から和歌山県紀の川市に至る府県道62号線を南下、紀の川に向って進んだ。まだ、寒くはあるが日差しは暖かい。汗はかかないから行脚するには絶好だ。

ただ、道路はクルマが前から後ろから絶えず走り抜ける。しばらくして「犬鳴山(いぬなきさん)七宝瀧寺(しっぽうりゅうじ)」の看板を見つけた。左に赤い蒲鉾型の鉄橋が見える。そこを渡って進むとそこは俗界と隔絶した別世界。それがある。

山間に滝があり、その滝が川となって流れていく。木立が覆い、水の音、風の音、鳥の囀(さえず)りと。そこに神を祀り仏を祀る。鳥居があり、お堂があり、本堂がありと……。

朱塗りの建造物が目を惹く。この神域というか仏域というか。その中心に青銅の不動明王が立っている。神が宿り仏の霊気が満ちあふれ、山岳信仰と仏教が融合した修験道がここにある。現代人が喪失した、その心を取り戻すには絶妙の聖地である。

全国行脚も終わってからのこと。ひとりの青年がバイクで訪ねてきた。チェックのシャツにジーパン姿。ラフな格好であるが、話すと高野山真言宗の御僧侶だという。

〈なるほどそれで剃髪しているのか〉

それが最初の出逢いであった。その後、私と一緒に托鉢(たくはつ)もした。「真面目だ。どこか修行の場があれば……」と思っていた。

その大江さんという方は、小学校の先生だという。これで結婚したら道を踏み外すことなく、順調な人生を歩んだはずだ。ところが本人がその先生を辞めた。世間の常識なら、「先生、いいじゃないですか。何故、辞めるの?」と疑問符がつく。

しかし、本人となると話は別だ。その理由があるのだろう。ともかく辞めた。理想はあくまでも理想。現実はやはり現実である。性格はすこぶる真面目。要領よく、世間を立ち回る。それは彼には出来ない相談だ。先生は尊敬される、立派な職業である。経済にしても安定する。その確かなコースが突如消えた。衝撃は甚大であるが、悩んでばかりはいられない。

そこで如何したか。ここが面白い。この人生最大の危機に、「お四国を廻ろう」と決意した。そして、八十八ヶ寺を巡拝した。お四国を終えてから、お礼参りにと高野山を参拝した。そして、ユースホステルに宿泊した。

元教師の波乱に満ちた半生と修業

ご縁とは不思議なものだ。そこで一人の御僧侶と出逢って、進路が決まったのだ。お大師さまのお導きか。というのは、このご縁により、高野山専修学院で僧侶になる仏道修行が始ったのだ。

そして、無事成満し真言宗の僧侶になった。この前後だが婿養子の話が来た。真面目な人柄だから、すぐ目をつけられた。しかし、寺の住職にはなれるが本心とは違うと、断った。

それにしても 一人の御僧侶との出逢いが運命を変えた。「ふ~ん」と呻る思いだ。また、役僧のお話があった。これも断った。どうやら、〈住職になれればいい〉とか〈生活が安定する)。それだけではないらしい。師匠の寺は小さいので、そこで生活は出来ない。

実家に戻ると介護の資格を取得した。そうこうするうち、兄弟子の推薦もあって弘明寺(ぐみょうじ、横浜市南区)さんの役僧になった。今度は引き受けた。通夜、葬儀。祈祷、読経。僧侶全般の仕事が出来るからか。その気持ちは分かる。

2年が経過した。

「コンビニエンスストアで働いてくれないか」。弘明寺の常連さんで、コンビニのオーナーから依頼があった。大江さんの誠実な人柄が見込まれたのだ。

「困っているなら」と引き受けた。僧侶の修行ばかりが修行ではないと思ったか。また2年が過ぎた。

そろそろ僧侶という本業に戻らねば……。友人の僧侶に相談したら、「私は七宝瀧寺の後任を探していた。君ならうってつけ、申し分ない」。是非にと推挙された。そこには無論、護摩行がある。僧侶として護摩が焚ける。

有り難いことだ。護摩といえば私の師匠も護摩を焚く。それは信者さんの祈願を実現するためである。が、それだけではない。自分の行でもある。何をするか。修法に入ると、まず、自分を清める。そして、護摩壇の穢れを祓い聖域とする。

次に、仏を勧請(かんじょう)する。自分の想念をフル回転して炉の上に仏を創造する。そして、その仏と自分が入我我入(にゅうががにゅう)し、その仏と一体になる。即身成仏の原理がそこにある。

大江さんはお四国を回り始めた時点で、仏と巡り会いたいとの願望を秘めていたようだ。その思いが一つ一つ実現しているように思えてならない。

「護摩が焚ける」。結構なことだ。また、修験の行場でもある。信者さんとともに修行も出来る。大江さんにとっては願ったり適ったりではなかったか。こうした真面目な僧侶が次々輩出されることを念願する。

つづく

           〈第47回の配信は11/13(水) 12:00の予定です〉

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小林義功
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こばやし・ぎこう――昭和20年神奈川県生まれ。42年中央大学卒業。52年日本獣医畜産大学卒業。55年得度出家。臨済宗祥福僧堂に8年半、真言宗鹿児島最福寺に5年在籍。その間高野山専修学院卒業、伝法灌頂を受く。平成5年より2年間、全国行脚を行う。現在大谷観音堂で行と托鉢を実践。法話会にて仏教のあり方を説く。その活動はNHKテレビ『こころの時代』などで放映される。著書に『人生に活かす禅 この一語に力あり』(致知出版社)がある。

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