忘れ難い緒方貞子さんの言葉(聖心会シスター・鈴木秀子)

日本人初の国連難民高等弁務官としてご活躍された緒方貞子さん。2019年に逝去された後も、惜しむ声は絶えません。恵まれない環境にある人々の救済のために生涯を尽くされた緒方さんを偲び、文学博士の鈴木秀子さんの『致知』連載記事から、そのお人柄が伝わってくる言葉、エピソードをご紹介させていただきます。

各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。
1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら※動機詳細は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください

緒方貞子さんの言葉

〈鈴木〉
私も若い日にある人のひと言でハッとさせられた経験があります。

学生時代にエッセイの大きなコンテストがあり、私の大学からも私を含めて数名が選ばれました。その全体のテーマは「これから日本は東洋の国々にどのように貢献できるか」といったものでした。 

いまだに戦時中の軍国主義的な思想を引き継いでいた私は、その思いを軸にして「日本は強い東洋のリーダーにならなくてはいけない」という内容の文章をしたためました。すると、先輩である緒方貞子さんが、このエッセイを読み、私に次のようにおっしゃったのです。 

「それは思い上がった考え方だと私は思います。これからの東洋は日本一国が強いリーダーでありさえすればいいというのではなく、すべての国々が皆一つになって、自分たちができることをお互いに提供しながら、支え合って生きていくべきです。日本はそのために貢献できる国にならないといけません」 

このひと言を聞いた時、私は自分の傲慢さに気づかされると同時に、戦争中から引きずってきた様々な知識や複雑な感情が一気に吹き払われていく感覚を持ちました。いまでも、その瞬間はよく覚えています。 

外交官の娘として幼い頃から海外生活を体験し頭脳明晰、しかも卓越した英語力で国際感覚豊かな緒方さんは、私たち学生の羨望の的でした。 

その緒方さんを、当時のマザー・ブリット学長は後に、「私が教えた生き方の神髄を徹底して実践してくれた人」と、とても称えられていました。 

ブリット学長は常日頃、学生に向かって「私たちが住む社会は様々な矛盾に満ちています。しかし、その矛盾を超えて、どのような人でも神様から大切にされていることを自覚し、人々のために尽くせる人になりなさい」とおっしゃっていました。 

国連人権委員会の日本代表、国連難民高等弁務官などの要職を歴任し、いまなお国際平和のために尽力されている緒方さんの歩みは、まさにブリット学長の言葉を体現したものでした。 

緒方さんの言葉が若き私の心に強く響いたのは、その真剣な生き方が言葉の強さとして表れていたからに他なりません。 

随分、昔の出来事ですが、私の人生の一つの転機となった忘れ難い思い出です。 


(本記事は月刊『致知』2019年9月号 特集「恩を知り 恩に報いる」から一部抜粋・編集したものです)

各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。

◇鈴木秀子(すずき・ひでこ)
東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。聖心女子大学教授を経て、現在国際文学療法学会会長、聖心会会員。日本で初めてエニアグラムを紹介し、各地でワークショップなどを行う。著書に『自分の花を精いっぱい咲かせる生き方』(致知出版社)などがある。『致知』にて「人生を照らす言葉」を連載中。

1年間(全12冊)

定価14,400円

11,500

(税込/送料無料)

1冊あたり
約958円

(税込/送料無料)

人間力・仕事力を高める
記事をメルマガで受け取る

その他のメルマガご案内はこちら

『致知』には毎号、あなたの人間力を高める記事が掲載されています。
まだお読みでない方は、こちらからお申し込みください。

※お気軽に1年購読 11,500円(1冊あたり958円/税・送料込み)
※おトクな3年購読 31,000円(1冊あたり861円/税・送料込み)

人間学の月刊誌 致知とは

人気ランキング

  1. 【WEB chichi限定記事】

    【取材手記】ふるさと納税受入額で5度の日本一! 宮崎県都城市市長・池田宜永が語った「組織を発展させる秘訣」

  2. 人生

    大谷翔平、菊池雄星を育てた花巻東高校・佐々木洋監督が語った「何をやってもツイてる人、空回りする人の4つの差」

  3. 【WEB chichi限定記事】

    【編集長取材手記】不思議と運命が好転する「一流の人が実践しているちょっとした心の習慣」——増田明美×浅見帆帆子

  4. 【WEB chichi限定記事】

    【取材手記】持って生まれた運命を変えるには!? 稀代の観相家・水野南北が説く〝陰徳〟のすすめ

  5. 子育て・教育

    赤ちゃんは母親を選んで生まれてくる ——「胎内記憶」が私たちに示すもの

  6. 仕事

    リアル“下町ロケット”! 植松電機社長・植松 努の宇宙への挑戦

  7. 注目の一冊

    なぜ若者たちは笑顔で飛び立っていったのか——ある特攻隊員の最期の言葉

  8. 人生

    卵を投げつけられた王貞治が放った驚きのひと言——福岡ソフトバンクホークス監督・小久保裕紀が振り返る

  9. 【WEB chichi限定記事】

    【取材手記】勝利の秘訣は日常にあり——世界チャンピオンが苦節を経て掴んだ勝負哲学〈登坂絵莉〉

  10. 仕事

    「勝負の神は細部に宿る」日本サッカー界を牽引してきた岡田武史監督の勝負哲学

人間力・仕事力を高める
記事をメルマガで受け取る

その他のメルマガご案内はこちら

閉じる