日本の食卓を変えた塩糀——その〝立役者〟浅利妙峰さんの気概

いまや家庭の定番調味料となった塩糀。日本古来の食材である「糀」は、長らく需要低迷が続いていましたが、糀を塩の代わりに使える調味料としたのがヒットの要因。その立役者は大分県佐伯市で320年続く「糀屋本店」に生まれ浅利妙峰さん。伝統を守り続ける気概を伺いました。

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貧乏もゲームの一つ

(後を継ぐことはどのくらいから意識されていたことですか。)

私は二人姉妹ですが、妹とは11歳離れています。小学校5年生までは一人っ子でしたから、ずっと「あなたはこの家を継ぐのよ」と言われました。よく葛藤はなかったかと聞かれますが、そういうものなんだなと思ってました。

思春期の頃に少しだけ、みんなは自由に将来の夢を開けるのに、自分は細い細い一本道を行く道しか与えられていないと感じたことがありました。退路を断たれて無理やり継ぐことになったわけではないです。短大は東京に出してもらって、以後は家業に従事してきました。

昭和40年代頃から糀業は次第に苦しくなっていきました。結婚して5人の子供に恵まれましたが塾に行かせる余裕もないので、公文式の教室を開いて子供を教え、17年続けましたかね。

糀は忙しくなくても商売は一所懸命やっていましたので「貧乏のどん底」というわけではなかったですが、カレーの中にお肉ではなく、こんにゃくを入れた時期もありました(笑)。

私は小学校5年生の頃からガールスカウトに入って、そこで「人生はゲームである」と教わりました。ゲームは楽しむもの、だから貧乏もゲームの一つ。子供たちには「終わった後で〝もっとしたかった〟と言っても戻れないから、いま貧乏ごっこをしっかり楽しもうよ」って言って笑って通り抜けました。

食文化を支えているプライド

(需要が減っていく中でも、糀を続けてこられたのはなぜでしょうか。)

私のご先祖様には日本を支えた素晴らしい方たちがいます。浅利のルーツを辿ると、義経の叔父で、『平家物語』に登場する浅利与一に行き着きます。また、400年前には秀吉の招聘を受け、水軍の船頭として四国から大友宗麟の援軍のために大分へ入ったんです。そういう一族の流れを汲んで常に平和を支えたいと思うプライドは、口に出さずとも伝わっています。

日本の食文化を支える根幹に糀があり、糀屋はそれを守る仕事です。味噌も醤油もお酒も、みんな糀(麹)からできていることを考えると、糀屋は誰でも彼でも始められる商売ではないことが分かります。全国の糀屋さんの歴史をお聞きしても、やはりある程度の立場の方々が始められたようです。

私が糀屋本店の長女に生まれ、後継ぎの男の子が生まれなかった。それは、この私に糀屋を守れとご先祖様から白羽の矢が立った。それを避けて通るのは正々堂々ではない。受けて立つことが自分の生に対する素直な生き方だと感じました。

「こうして私が受けて立っているからには、花咲かせるように盛り立ててくれないと、違うんじゃないの?」って、いつもご先祖様に発破をかけながら続けてきました(笑)。

糀屋の娘に生まれて感謝

(塩糀に至るターニングポイントとなった出来事はなんでしょうか。)

(お得意先の)料理長さんから注文をいただいた時、すぐに対応できるよう、『日本料理技術選集』を買いました。その本の所々に『本朝食鑑』という江戸時代の文献の名前が出てくるので、勉強してみようと思い、読み込んでいった中に「塩糀」という言葉があったんです。

材料は米糀と塩と水。実際自分でやってみたら、これが実に簡単につくれるのです。「漬物だけでなく料理に使えるんじゃないか」と閃きました。

もともと手抜き料理が得意でしたから(笑)、自分自身で塩糀を使って料理すると、和洋中からイタリアンまで何でも使える。

私は「温故知新」という言葉が好きなのですが、真理というものは何千年も何万年も前から変わらず未来永劫に存在している。それをどう磨き出すかは現代に生きる私たちに委ねられています。

食は人間が生きるために欠かせないものですし、おいしいものを食べるとみんな笑顔になります。糀で世界中の人を元気にし、幸せにする。夢を抱ける仕事ができる糀屋の娘に生まれて本当によかったと感謝しています。

(本記事は月刊『致知』2013年6月号の特集「一灯照隅」の記事から一部抜粋・編集したものです。あなたの人生、経営・仕事の糧になるヒントが見つかる月刊『致知』の詳細・購読はこちら

◇浅利妙峰(あさり・みょうほう)
昭和27年大分県生まれ。元禄2年創業の「糀屋本店」の長女に生まれる。短大卒業後、家業に従事。日本の発酵調味料の基となる糀をもう一度家庭の台所に戻すべく、塩糀を現代に蘇らせる。糀を使った簡単でおいしいレシピを考案し、料理講習会などで糀文化の普及拡大に努めている。著書に『浅利妙峰の母になるとき読む本』(致知出版社)などがある。

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