廃業目前の老舗タオル会社を継承——今治の丹後佳代さんが抱く地元愛

今治の老舗タオル会社が後継者難から「廃業」すると聞いて、考え抜いた末に事業継承を決断した一人の女性がいます。愛媛県出身の元教師、丹後佳代さん。地元愛やタオル事業にかける深い思いを伺いました。

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何もかもゼロからのスタート

(タオル事業を始められたいきさつを教えてください)

主人の実家が愛媛県今治市で保険と不動産の会社を経営していたので、25歳で結婚後、3代目だった主人と共に家業を継ぎました。ところが2015年、私が35歳の時に、仕事でお世話になったタオル会社の社長が事業を畳むからと来店されたんです。

そこは90年以上の伝統があり、今治でも5本の指に入る歴史を持つ老舗タオル工場だったんですけど、後を継ぐ方がいらっしゃらなかったんです。保険と不動産という仕事柄、それまでも後継者不足による事業の廃業や空き家問題を目の当たりにしてきましたが、自分たちの大切な故郷今治が衰退していく姿にいつも胸を痛めていました。

そのため、廃業のお手伝いを依頼された後、主人と共に考え抜いた末、頼まれてもいないのに事業継承を申し出たんです。

地元を活性化させたいという強い願いから、ぜひ地場産業であるタオル事業を継がせてほしいと社長に直談判したんです。しかし、社長からは「いま、3代目として地域の中で頑張っている上に、さらにもう一つ背負い込む必要があるのか」と断られました。タオル事業の厳しさを分かった上での愛情だったのだと思います。

でも主人はどうしても諦めきれなかったようです。何度も話し合いを重ね、最終的に社長は承諾してくれました。ただ、実際に始めてみると本当に仕事がなく、恐怖で眠れない日々が続きました。

事業を引き継いだ本当の意味

(転機はありましたか?)

「OLSIA」(自社ブランド)が誕生した時のことは忘れもしません。オーガニック綿糸を可能な限り撚りを甘く仕上げて織ったタオルなんですけど、一度は当社の工場長が匙を投げるほど苦戦しましたが、何とか出来上がりました。

工場の90年間の集大成だと思います。そのフワフワな仕上がりを見て、触れた瞬間、私は心の底から「引き継いでよかった! 私たちはこのタオルを守りたかったんだ!」という熱い思いが込み上げてきたんです。

私たちは90年続くタオル工場を引き継いで生まれた、古くて新しい工場。それは工場だけでなく、職人さんたちの思いまでを受け継いだということなのだと気づかされたと共に、この技術と伝統をこの先へと繋いでいくことも大切な役目として託されたのだと改めて思いました。

経営面は主人が担当し、私は営業活動に奔走。東京の百貨店に飛び込み営業し、出会った方には必ずお礼状を出すなど地道な努力を続けた結果、2年目で黒字化を達成。少しずつ百貨店での催事をさせていただいたり、お店で扱っていただけるようになってきました。

母や娘に支えられる日々

(育児もしていると伺いましたが、どう両立されていますか?)

いま8歳と5歳の娘がいます。子育てをしながら仕事をしていると、やっぱり迷いはなくなりません。催事があると週2回も東京出張なんてこともありますし、子供が熱を出しても仕事を休めない。

私の母は専業主婦で、愛情をいっぱいかけて育ててもらった分、母のようにできない自分に罪悪感を抱いていたんです。そんな中でもありがたかったのは、母や義母が私たちの仕事を理解して支え続けてくれることでした。

そして母は私の娘たちに「お母さん、頑張っているね」といつも肯定的な言葉を掛けてくれるんです。母の支えがなければ、私はこうして仕事に全力投球できなかったと思うので、本当に感謝してもしきれません。

子供たちにとって大きな転機になったと感じているのが、昨年11月に東京で行われた「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2019」の授賞式です。私は「新・事業継承モデル賞」を受賞し、娘たちも授賞式に参加させてもらったんです。

スポットライトを浴びて表彰台に立つ私の姿を見て、「お母さんはみんなのために頑張ってるんだ。お仕事ってこういうことか」と意識がスパッと変わったようなんです。その後からは「おかあさん行かないで」と言われることがなくなり、「おかあさん! 頑張ってきてね」と送り出してくれるようになりました。

(本記事は月刊『致知』2019年9月号の連載「第一線で活躍する女性」の記事から一部抜粋・編集したものです。あなたの人生、経営・仕事の糧になるヒントが見つかる月刊『致知』の詳細・購読はこちら

◇丹後佳代(たんご・かよ)
昭和55年愛媛県生まれ。兵庫教育大学卒業後、小学校教師になる。同郷の夫との結婚を機に故郷に戻り、夫の家業だった不動産・保険代理店の事務に就く。老舗タオル会社を事業継承し、平成27年7月「丹後」(今治市)を設立、取締役。

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