2020年11月12日
いまなお多くの日本人がその作品に魅了される詩人・坂村真民と書家・相田みつを。共に仏教に学び、参禅によって道を求めた二人が、生前に一度だけ出逢った場所が臨済宗大本山円覚寺(鎌倉)でした。その管長を務め、若い頃からそれぞれの作品に親しんできたという横田南嶺老師と、坂村真民のご息女・西澤真美子さん、相田みつをのご子息・相田一人さんを交え、お二人の作品や知られざる交流の実際について語り合っていただきました。
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剛速球と変化球
〈横田〉
坂村先生と相田さんの共通点は割とすぐに思いつくんですね。
やはり何と言っても仏教、それも根本に坐禅がある。曹洞宗と臨済宗の違いはあっても、参禅して仏教を学んだということが、お二人の作品の根本にあると思います。
だから共通して「本気」「本腰」をテーマに詩を書かれています。
坂村先生は「なにごとも/本腰にならねば/いい仕事はできない/新しい力も/生まれてはこない/本気であれ/本腰であれ」。
一方で相田みつをさんにも「本の字」という詩があって、「本人本当本物/本心本気本音/本番本腰/本質本性/本覚本願/本の字のつくものはいい/本の字でゆこう/いつでもどこでも/何をやるにも」とあります。
〈相田〉
また、父には別に「本気」という詩もあって、
「なんでもいいからさ/本気でやってごらん/本気でやれば/たのしいから/本気でやれば/つかれないから/つかれても/つかれが/さわやかだから」
と。こちらのほうが一般的に知られていますが、割と柔らかな言い方をするのがうちの父の特徴だと思います。
真民先生の詩は野球のピッチャーで言えば変に小細工するのではなく、とにかく直球で剛速球を投げるタイプだと思います。だからこそ「念ずれば花ひらく」の詩碑が、いま全国に700か所でしたか?
〈西澤〉
父が直接書いたものからつくり、入魂したものを真言碑といい、737基あり、それ以後も増え続けています。
〈相田〉
凄い数ですよね。多くの方が詩碑をつくりたいと思うのは、やはり心にズバッと入ってくる言葉だからだと思うんですね。しかも決して軽くない、重い球です。
父の場合は「にんげんだもの」に象徴されるように、人間のいい面も悪い面も全部さらけ出すようなスタイルですので、確かに心に入りやすいのですが、それはカーブやドロップみたいな感じで意外なところからすっと入ってくると。私の勝手な思い込みですが、そういう気がします。
〈横田〉
面白い見方ですね。せっかくですから、共通点の他に、お二人から見て坂村真民にあって相田みつをに無いもの、相田みつをにあって坂村真民に無いものというと、どんなことが挙げられますか。
〈相田〉
そうですね……。父は『詩国』が送られてくると、丹念に読ませていただいていました。それから「今回はここに非常に感動しました」と感想を書いて真民先生に送るのですが、そろそろ届いたかなと思う頃にはもう先生からお返事が来ると。あれには父はいつもびっくりしていました。
どちらかというと父は手紙を推敲(すいこう)して書くタイプなので時間がかかるのですが、真民先生は電光石火の速さでお返事がくる。そのレスポンスの速さに感動していました。
おそらく当時の郵便事情を考えると、届いたその日にお返事を投函されているのではないかとよく言っていました。
〈西澤〉
おそらくそうだと思います。田舎ですから1日に2回しか集めにこなくて、午前中の集荷時間のギリギリまで書いたものを投函し、午後はまたギリギリまで書いたものを投函する。
投函しないと落ち着かないんです。だから住むところはポストが近くないといけないと申しておりました。
(本記事は月刊『致知』2014年4月号 特集「少年老い易く 学成り難し」から一部抜粋・編集したものです) ◎各界一流プロフェッショナルの珠玉の体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。あなたの人間力を高める、学び続ける習慣をお届けします。 たった3分で手続き完了、1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら。 ≪「あなたの人間力を高める人間力メルマガ」の登録はこちら≫
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昭和39年和歌山県生まれ。62年筑波大学卒業。在学中に出家得度し、卒業と同時に京都建仁寺僧堂で修行。平成3年円覚寺僧堂で修行。11年円覚寺僧堂師家。22年臨済宗円覚寺派管長に就任。著書に『いろはにほへと ある日の法話より』(インターブックス)、DVDに『精一杯生きよう』(禅文化研究所)がある。
◇相田一人(あいだ・かずひと)
昭和30年栃木県生まれ。書家・相田みつを氏長男。出版社勤務を経て、平成8年東京に相田みつを美術館を設立、館長に就任。相田みつをの作品集の編集、普及に携わる。著書に『父・相田みつを』(角川文庫)など。
◇西澤真美子(にしざわ・まみこ)
昭和24年愛媛県生まれ。坂村真民氏末娘。大学入学と同時に親元を離れたが、「念ずれば花ひらく」詩碑建立や国内外の旅行などで真民氏と共にした。母親の病を機に愛媛県に戻り、その後、病床の両親を見守った。平成24年の坂村真民記念館設立にも尽力。