ちょっとした心がけが人生を変える。幸運を呼ぶ「宇宙方程式」とは?(神渡良平×小林正観)

この宇宙には、幸運を呼び込む「方程式」があるといいます。作家として、日本人の和の精神の尊さ、安岡正篤師の教えなどを書き続けてきた神渡良平さん。心学研究家として多くの人々の運を高め、人生を好転させてきた小林正観さん。人間の生き方や運命について研究を重ねてきたお二人のお話によれば、それは決して難しいものではなく、日常のちょっとした心がけで実践でき、その取り組み方次第で大きな効果が得られるようです。

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投げかけたものが返ってくる

〈神渡〉
私は脳梗塞だけでなく、その後の様々な方との出会いも大きなバネになりました。

例えばイエローハットの鍵山秀三郎さんです。平成5年10月に、イエローハットで行われていたトイレ研修に参加させていただいたんですが、功なり名を遂げた立派な経営者が、汚れた便器を素手で磨く姿にすっかり感動しました。トイレ掃除で感動するなんて、それまで体験したこともありませんでした。

鍵山社長(現・相談役)は、会社を創業して間もない頃、厳しい経営環境の中で社員の心を少しでも穏やかにしてあげたいという願いから、たった一人で会社のトイレ掃除を始められたそうです。

10年間黙々と1人でやり続けたら、ひと言も命じたわけではないのに、1人、2人と社員が手伝うようになり、トイレ掃除について教えを請う人が次々会社を訪れるようになり、いまでは世界中にこの運動が広がっています。掃除に取り組む人が穏やかになり、会社や地域がよくなったという話は枚挙にいとまがありません。

〈小林〉
素晴らしいですね。

〈神渡〉
鍵山社長がトイレ掃除をされる姿に感動した私は、それを機に心を入れ替えて掃除をしようと決心しました。当時住んでいたマンションのゴミ置き場には、いつも汚れた大きなポリバケツが置かれていました。家に帰って早速そのポリバケツを洗ったんです。

そうしたら、いままで誰からも顧みられずに汚れたままだったそのポリバケツの悲しみが伝わってくるような気がして、ポロポロ泣きながら洗いました。

以来15年間、いまも毎朝1時間半くらいポリ袋を持ってゴミを拾って歩いています。今日まで続いているのは、鍵山社長の中に、人に継続させるだけの精神的な高さがあったので、それに強く動機づけられたのだと思います。

〈小林〉
きっと神渡さんの精神性が高いから、そういうよいものをキャッチできたのだと思います。

私もトイレ掃除の話はよくするんですが、私の話はいまの神渡さんのお話とは違って、もっとずっと下のレベルなんです。ひと言で言うと損得勘定の世界です。人間性の問題ではないんです。

私の研究では、トイレ掃除の実践を続けると、金銭や人脈として返ってきます。私がずっとトイレ掃除をやっているのは、やらないと損だからなんです。2年ぐらい前までは、トイレが汚れていると、トイレットペーパーで落として流していたんですけど、最近は全部素手でやっています。

〈神渡〉
素手ではなかなかできないですね。

〈小林〉
素手で掃除するほうが、返ってくるものもさらに大きいことが分かったんです。ホテルやスーパーのトイレは、ぬめりがある場合がありますが、それは素手でやらないと落ちないんですね。キュッキュッという感じが出てくるところまでやると、すごく心地いいんです。

〈神渡〉
キュッキュッという感触はやった人でなければ分からないですね。

〈小林〉
損得勘定だからできるのかも。そういう損得勘定でやっている人のほうがかえって信用できるかな、と思うんです。なぜかというと続くからです。

人間の修行だと思ってやっている人は、かえって続かないかもしれません。ある時点で、自分はもう十分高まったからこれでいいや、とストップすることもできますから。でも、本当に高まったかどうかなんて分かりません。

これに対して損得勘定でやっている人はやめにくい。もったいなくて。私は損得勘定でトイレ掃除をやっています。

この考え方をもっと広げて言うならば、投げかけたものが返ってくるということ。これも私が掌握した宇宙方程式の一つです。

〈神渡〉
正観さんが捉えた宇宙の幸福の方程式っておもしろいなあと、感心しながらご著書を拝読しています。

〈小林〉
善し悪しに関係なく、投げかけると返ってきます。だから少しでも楽しいことを多く投げかけるほうがいい。私の研究では、同じ時間を費やして最も密度濃く投げかけられるのが掃除、笑い、そして感謝なんです。それぞれの頭文字を取って「そ・わ・か」が、密度の濃いベストスリーです。

〈神渡〉
なるほど、「そ・わ・か」の実践がもっとも効果が高いと。分かりやすいですね。

〈小林〉
だから私はトイレ掃除をやめないし、笑ったり笑われたりということもやめないし、ありがとうと感謝することもやめないと思います。究極の欲深な人はずっと続けるんじゃないでしょうか。私は自分の中で損得勘定が徹底しているので、やめないと思います。

もちろん立派な人になるためにやるのも素晴らしいことですが、普通の人は損得勘定の塊になってやったほうが、続くんじゃないだろうかと思うんです。


(本記事は月刊『致知』2008年8月号 特集「人生を潤す言葉」から一部抜粋・編集したものです)

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◇神渡良平(かみわたり・りょうへい)
昭和23年鹿児島県生まれ。九州大学医学部中退後、様々な職業を経て、38歳の時、脳梗塞で倒れ右半身不随に陥り、闘病生活の中で「人生は一度しかない」ことを骨の髄まで知らされる。懸命なリハビリで社会復帰するが、その時の問題意識が、作家となった現在、重低音のように全作品に流れている。著書に『宇宙の響き―中村天風の世界』『下坐に生きる』『佐藤一斎「言志四録」を読む』『人間この輝かしきもの』『天翔ける日本武尊』(上・下)『西郷隆盛人間学』(いずれも致知出版社)など多数。

◇小林正観(こばやし・せいかん)
昭和23年東京都生まれ。中央大学法学部卒業。学生時代より人間の潜在意識やESP現象、超常現象に興味を持ち、旅行作家のかたわら研究を続け、今日に至る。現在、主に心学研究家として活躍する他、コンセプター(基本概念提案者)として「ものづくり」「人づくり」「宿づくり」「町づくり」などにも関わっている。心理学博士。社会学博士。教育学博士。著書に『宇宙を味方にする方程式』『宇宙を貫く幸せの方程式』『宇宙が応援する生き方』(いずれも致知出版社)など多数。

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