稲盛和夫氏が教える人生百年時代の生き方——魂を磨き続けるシンプルな習慣

65歳以上の高齢者は、2040年には全体の3分の1を占める――。総務省が2019年に発表した数字です。平均寿命は男性81.25歳、女性87.32歳という中で、定年後の過ごし方が問われています。稲盛和夫氏はかねてより、いずれ訪れる“新しい旅立ち”に備え、「魂を美しく磨き上げる」ことを説いてきました。これは今後どんなに時代が変わっても、人生を豊かにしてくれる習慣の一つと言えるでしょう。

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新しい旅立ちのための準備

ちょうど60歳になった頃でしたが、私は一つの思いを抱きました。私もやがては死を迎える。その時にどういう準備をすればいいのだろうかと考え始めたのです。

人は、生まれてから20年ぐらいの時間を費やして社会に出る準備をします。そして、40年ぐらいの社会生活を経て、60歳で定年を迎えます。それからあと、最近では寿命が延びましたから80歳まで生きるとすると、20年という時間が残されています。

その20年は何のためにあるのだろうか、と私は考えました。そして、社会に出るための準備期間が20年必要だったのだから、死を迎えるためにも20年が必要なのではないか。つまり、死を迎える準備のために20年という時間が私に残されているのではないか、と思ったのです。

しからば、死を迎える準備はどうすればいいのか。私は、死とは肉体の死ではあっても、魂の死ではないと思っています。私の死というのは、私の魂が新しい旅立ちをしていくめでたい日だと思うのです。死は悲しいことではなくて、魂が新しい旅立ちをしていく嬉しい日なのです。

生まれた時よりも美しい魂にする

魂の新しい旅立ちに際して、私の魂に新しい装いをつけ、そして明るくあの世へ旅立っていく。そういうものにするために魂を美しく磨く必要があるのだと思った瞬間、私は、これこそが人生を生きる意味なのではないかと悟りました。

会社を成功させて有名になったり、お金持ちになったり、そんなことのために人生があるのではない。人生を生きる意味とは、まさに自分の魂を磨くことにある。死ぬ時に、生まれた時に持ってきた魂より少しでも美しい魂にして、新しい魂の旅立ちを迎えるためにある。このことが人生を生きてきた価値なのではないか、また目的ではないのかと気がついたのです。

この美しい魂にするとは、分かりやすく言えば、善き思いを心に抱き、善きことを実行していくことになります。魂を磨くためには、毎日毎日、そうありたいと思って自分が謙虚に反省し、自分自身を変えていく努力をしなければいけません。知識として知っていただけでは、決して魂は磨けません。

美しい思いやりに満ちた素晴らしい魂にしていこうと思えば、毎日毎日、自分にそう言い聞かせながら、「きょうの自分の思い、きょうの自分の行動は、果たしておまえが言う善きことに基づいていたか」と自分自身に問い詰めながら、自分の思いと行動を毎日のように修正をしていかなくてはいけないのではないかと思うのです。

魂が磨かれると人格が変わる

死を迎える前に自分の魂が美しい魂になったかどうかは誰にも分からないのですが、それを検証する方法が一つだけあります。

それは何かというと、魂を美しく磨きたいと常日頃考えて行動していますと、人柄が変わってくるはずなのです。善き思いを常に心に抱き、善き行動をしておれば、性格が変わるのです。

人間というのは、ろくでもない妄想を抱くものです。私だって偉そうなことを言っていますが、妄想だらけの人間です。それを自分で「それはいかん、それはいかん」と戒めながら、正しい方向へ、正しい方向へと自分を向けていく毎日であります。

常にそういう修正をしていくと、自然にそれが魂を磨く、心を磨くという行為になっているのです。その結果として、性格、人柄が変わっていくわけです。つまり、性格に影響を及ぼさないような思いでは意味がないのです。

性格は生まれた時から一生変わらないものではありません。心の中でどういう思いを抱いているかによって、その人の性格は変わっていくものです。

だから、だんだん年を重ねるに従って、「あの人はいい人だね。若い頃とはだいぶ違っていいお人になったな」と言われたとすれば、そのことは実は、少しは美しい魂になっていった証拠なのです。人柄を見れば、魂が美しいものになったかどうかが分かるのです。


(本記事は月刊『致知』2006年6月号「特別講和『人は何のために生きるのか』」から一部を抜粋・編集したものです

【特集「追悼 稲盛和夫」を発刊しました】

2022年8月24日、稲盛和夫・京セラ名誉会長が逝去されました。35年前、1987年の初登場以来、折に触れて様々な方との対談やインタビューにご登場いただくのみならず、たくさんの書籍の刊行、数々のご講演を賜るなど、ご恩は数知れません。
生前のご厚誼を深謝し、月刊『致知』12月号では「追悼 稲盛和夫」と題して特集を組みました。豪華ラインナップは以下特設ページよりご覧ください。

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◇稲盛和夫(いなもり・かずお)
昭和7年鹿児島県生まれ。鹿児島大学工学部卒業。34年京都セラミック(現・京セラ)を設立。社長、会長を経て、平成9年より名誉会長。昭和59年には第二電電(現・KDDI)を設立、会長に就任、平成13年より最高顧問。22年には日本航空会長に就任し、27年より名誉顧問。昭和59年に稲盛財団を設立し、「京都賞」を創設。毎年、人類社会の進歩発展に功績のあった方々を顕彰している。また、若手経営者のための経営塾「盛和塾」の塾長として、後進の育成に心血を注ぐ。著書は人生と経営「成功」と「失敗」の法則成功の要諦致知新書 何のために生きるのか(いずれも致知出版社)など多数。

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