「矛盾の一番多いスポーツだから楽しい」 平尾誠二が説くラグビーの世界

ラグビーワールドカップの開幕により日本でもラグビー熱が徐々に高まりを見せています。この世紀のイベントの開催を熱望していたのが、〝ミスター・ラグビー〟こと平尾誠二さん。2016年10月、惜しくも53歳の若さでこの世を去りましたが、生前語っていた「強い組織」「強い選手」づくりの考えは、いまなお輝きを放っています。

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ラグビーは矛盾の固まりみたいなスポーツ

最近特に思うんですが、ラグビーのおもしろさというのは、要するに〝矛盾〟なんですね。

ラグビーは、はっきり言ってものすごく野蛮な競技です。非常にきついコンタクトプレーを求められる。しかし一方で、ルールを熟知してそれにキチッと則って臨まなければならない。そこにある種の矛盾があるんです。

それから、ラグビーの試合では戦略と戦術を綿密に立てて臨むんですが、ボールがポーンと思いもよらないところへ跳ね返ることで、せっかく構築した戦略戦術もいっぺんに崩れてしまう。これも矛盾ですね。そういう矛盾の固まりみたいなスポーツなんです。

僕も大して生きていませんけれども、この矛盾は人生そのものですよね。われわれはあらゆる面で矛盾の中で生きていかなければいけないわけですが、ラグビーというのはそういう矛盾の一番多いスポーツではないかと僕は思います。

僕は先ほど、ラグビーは矛盾を抱えたスポーツだと言いましたが、プレーヤーは人間だから愚かなミスも犯してしまう。でも、それを抱え込んで育てていかなきゃいけない。例えば、自分の取り組むものがおもしろければどんどん成長していきますから、そういう成長する機会をつくっていくことでチーム力を上げる努力をするわけです。それもまた、プレーヤーが機械ではなく、人間だからこそできることであり、またそこにこそおもしろさがあるんですね。

人間は愚かさとすごさが交っていて、できればそのすごさのほうばかり出せればいいけれども、どうしても愚かさが出る。要するに、頭では正しいと解っていてもやれないことが多いということです。

名選手が必ずしも名指揮官になれるわけではない

選手から監督になる時には、どのように意識を切り替えて臨まれたのですか?)

僕自身はそんなに大きくチェンジしたつもりはありません。選手と指揮官、それぞれの役割が何であるかということだけはわきまえて臨みました。名選手が必ずしも名指揮官になれないケースが多いのですが、それは、いつまでも自分が主役だと思っているからだと僕は思います。

野球の監督であれば、まだベンチからいろんな指示が出せますが、ラグビーとかサッカーはまったく出せません。ゲームが始まる前までが勝負で、いったん始まればやることがない。極端なことを言えば、寿司屋で寿司を食いながらテレビで観戦していても結果は変わらないんです。

スタンドから「気合いを入れろ!」などと檄を飛ばしているコーチもたくさんいます。それが悪いとは言いませんが、それをやったからといって、何も変わらない。そんなエネルギーがあるなら、グラウンドに出る1分前までに発揮しておいたほうが本当は効率がいいんです。そういうことを、自分もいろいろ体験を積みながら気づいていったのです。

試合中はすべて選手に任せるべきだと?)

実は、そのことで一度失敗がありましてね。試合中にスタンドから僕が言ったことがたまたま当たって、それまで自分たちの判断でゲームを進めていた選手たちが自信を失い、僕の顔ばかり見始めたんですよ。「次はどうしよう」と。それ以来、試合中は何があっても黙っていよう、どんな状況になっても「おまえたちのプレーは間違っていない」という顔をしておこうと決意したのです。

いいチームは一軍の選手から控えの人間まで非常に意識が高い

昔は監督の言ったことをちゃんとやってくれるのがいいプレーヤーでしたが、いまはそういうプレーヤーは頼りない。それよりも、新しいものを自分で創り出せる人が求められます。

日本のチームワークというと、皆と同じことをする、つまり団体行動を意味するんです。同じ釜の飯を食うとか、全員7時起床とか、そんなことがチームワークだとされているんですが、それは全然違うんです。

強いチームというのは、指示された通りに動くだけではなく、各々がイマジネーションというのを膨らませて、それぞれの状況に応じて何をすればいいかを考え出すチームです。これからは特にそういうことが求められてくると思いますね。

ルールづくりも大事ですが、決め事をたくさんつくるチームは、本当はあまりレベルの高いチームではないですね。規律は自分の中でしっかり持ち始めた時にモラールの高い高度なチームができるんです。そのための教育、僕らはそれをコーチングといいますが、グラウンドの内外でいかに行えるか。それが、チームの活力を創る上で非常に重要なポイントなんですね。

僕はチームワークを高めるために、よく逆説的に「自分のためにやれ」と言うんです。結局それが1番チームのためになりますから。ラグビーにはタックルがありますが、これは非常に危険も伴いますから、誰もあまり行きたくはないんです。ところが、「ここで俺がやらねば負ける」といった使命感がそこにある時に、行きたくない気持ちを上回ってそのプレーが出てくるわけです。僕はこれまで何千人というプレーヤーを見てきましたが、タックルを行きたくないやつに、いくら無理やり行かせても絶対に向上しない。それより、「おまえがここでタックルすれば、こういうふうに状況が変わる」と説明してやったほうがよっぽどいいですよ。

最近僕はみんなに、「公私混同は大いにしなさい」とも言うんです。これは、一般的な意味での公私混同ではなく、公のことを自分のことのように真剣に考えるという意味です。個人がチームのことを自分のことのように考えていなければ、チームはよくならない。これからのチーム論としてはそういうことが大事になってくると思うんです。

ラグビーでも、いいチームは一軍の選手から控えの人間まで非常に意識が高いですよ。試合に出ていない人間までが「俺はチームに何ができるか」ということをいつも一所懸命考えている。その原点は何かというと、やはり自発性にあるんですね。これをいかに高めるかということが重要です。

これは自分の中から持ち上がってくる力ですから、命令形では高められない。これをうまく引き出すことが、これからチームの指導者には必要になってきます。

(本記事は『致知』2005年6月号の特集 「活力を創る」より一部抜粋したものです。あなたの人生や経営、仕事の糧になる教え、ヒントが見つかる月刊『致知』の詳細・購読はこちら

◇平尾誠二(ひらお・せいじ)
昭和38年京都府生まれ。中学時代よりラグビーを始める。伏見工業高校、同志社大学を経て61年神戸製鋼所に入社。同社ラグビー部を7年連続日本一に導く。日本代表としてワールドカップ3大会に連続出場。平成9年~12年日本代表監督。平成10年現役引退後、神戸製鋼コベルコスティーラーズ総監督兼ゼネラルマネージャー。平成28年10月京都市内の病院で死去。

 

 

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