長谷川慶太郎が「警察のお世話」になった20代の辛苦

長谷川慶太郎さんが亡くなられました(享年91歳)。国際エコノミストとして常に経済の現場に立ち、その著作は200冊超になったといいます。故人を偲び、『致知』5月号で語った自身の波乱万丈の人生を振り返ります。

食糧の調達に40キロ歩いたことも

(どんな青年期を過ごされたのでしょうか)

旧制高校の1年生の時に戦争が終わったのですが、その年に祖父と父親とを病気で相次いで亡くしましてね。私の下にはきょうだいが5人いましたので、祖母と母親を含めて家族7人の面倒を、突然私1人で見なければいけないことになりました。

だから大変でした。しかも学校だけはやめたくなかったので、勉強を続けながら乗り切る術を考えました。ありがたいことに家には多少の貯えがありましたので、最初はそれを切り崩して株式投資などにも手を出しながら何とか食い繋ぎました。

ただ、当時は食糧不足の時代でしょう。うちは農家ではなかったので、食べ物をよそから調達しなきゃいけない。時には買い出しのために、40キロ近く歩いたこともありました。

おそらくそういった生活が続いたことで、無理が祟ったのでしょう。旧制高校3年生の秋に結核になりましてね。当時は結核になるとほとんどが死にましたから、本当に大変でした。

とても療養なんてことはしていられませんから、大喀血(だいかっけつ)もしましたが、とにかく耐えました。だってそうでしょう。私が寝たきりなんていう贅沢なことをしていたら、家族全員が飢え死にするじゃないですか。耐えました。

騒乱事件で執行猶予5年の判決

もちろん、その期間も収入を得るため働いたんです。(家財は)売れるものは全部売りました。ただ、そんな生活をしていると、自ずと左傾化します。左になる。

生きていく上で、柱になるものが他になかったがゆえに、それを必死に求めているうちに左傾化せざるを得なかったんです。

当時は共産党の暴力革命を謳った事件がいくつもあって、その代表的なものに昭和27年に起こった「吹田・枚方事件」という連続騒擾(そうじょう)事件がありましてね。私はそのうちの枚方事件に連座した罪で裁判にかかったんですよ。

昭和31年には地裁で懲役3年、執行猶予5年の判決が出ましてね。そして控訴審、最高裁までいって判決が確定したのが昭和35年でした。

ですから、就職先がないんです。稼がなければ飢え死にする。しかし、どこに行っても門前払い。ようやく雇ってくれたのが、業界新聞でした。月給は安かったですよ。でも、そんなことを言っているゆとりすらない。私の収入に7人がぶら下がっているわけですから、とにかく働く。それだけでした。

日々の積み重ねの末に掴んだ運

(新聞記者として早い段階から頭角を現したのでしょうか)
いや、そんな急にはいきません。特に当時の業界新聞というのは非常に厳しい世界で、例えば10人採用されたとしたら、5年も経ったら2人しか残りません。とにかく、徹底的に記事を書かされました。

業界新聞に15年いたことで、基本的なこととしてまず書くことが磨かれました。そしてもう一つ、仕事柄よく業界内の工場を見て歩かなければいけなかったので、見る目が磨かれたんです。

独立のきっかけになったのは、ある大企業から頼まれて、特定の素材を調べるために世界中を見て回ったことでした。私は大学時代に冶金(やきん)を専攻していたので、ある意味、得意分野でもあったことから、その内容を1冊にまとめたところ、それが売れましてね。そのおかげで独立できたんです。

これは運ですよ。ただし、運だけじゃない。それまでそれこそ必死になって毎日毎日記事を書き続けてきたわけでしょう。そういった積み重ねがあって、初めて運を掴むことができる。運というものは、偶然掴めるものでは決してないんですよ。

(中略)私の人生を本当の意味で貫いてきたものを敢えて挙げるとすれば、それは「生きていく」ということです。あの飢え死にと隣り合わせだった時代を生き抜くことは、決して容易なことではありませんでした。生きることに対する思いの強さ、それこそがいまもって私自身を支え続けてくれているのです。

(本記事は月刊『致知』2019年5月号の「生涯現役」から一部抜粋・編集したものです。あなたの人生、経営・仕事の糧になる教え、ヒントが見つかる月刊『致知』の詳細・購読はこちら

◇長谷川慶太郎(はせがわ・けいたろう)
昭和2年京都府生まれ。28年大阪大学工学部を卒業。新聞記者、雑誌編集者、証券アナリストを経て独立。現在まで多彩な評論活動を展開している。58年『世界が日本を見倣う日』で第3回石橋湛山賞を受賞。著書多数。9月3日死去。

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