児童虐待にストップを——年間70人もの子供の命が絶たれる社会にメス

連日のように報じられる子供への虐待のニュース。1年間に全国の児童相談所が児童虐待として対応した件数は13万件にも上ります。虐待による死亡事例も多い年は70件を超えており、1週間に1人の子供が命を落としている悲惨な状況です。児童虐待防止全国ネットワーク理事長の吉田恒雄氏に防止策を伺いました。

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女性が相談しやすい環境づくり

まず大事なのが児童虐待の予防施策の充実です。例えば、計画しなかった妊娠、若年妊娠では、誰にも相談できずに公園のトイレなどで出産し、そのまま児童虐待に繋がっていく事例があります。

これを防ぐためには、これらの女性が相談しやすい環境を、地域や周囲の人が意識的につくる、母子保健をより充実させていくなどの取り組みが必要になります。

「ワンオペ育児」に関しても、いかに孤立した育児にさせないか、もっと社会全体で考えていかなければなりません。

核家族化が進行し、女性だけでなく祖父母まで当たり前に働くようになった現代では、企業も労働時間の調整や在宅ワークなどを通じて、誰もが安心して子育てできる環境をつくっていくことが求められます。

家族や民間で対応できない部分は、自治体が子育てサークルをつくったり、保育サービスや産前・産後のケアを手厚くするなどの取り組みが不可欠です。

貧困家庭支援と体罰防止も課題

貧困家庭の支援も大事です。特に一人親の場合には、生活費を得るために子供を家に残して働きに出ることもあり、「ネグレクト」などの児童虐待に繋がりやすいのです。貧困家庭の児童虐待を防ぐためにも、親が子供を預けやすい制度、経済的な援助をより手厚くしていくことが求められます。

あとは、メンタルに不調を抱えた親のサポートです。一時的に親の判断能力が低下して、子供の首を絞めてしまったという事件も起こっています。メンタルというのは精神疾患だけではなく、産後鬱、人格障害や知的障害などの障害も含みますが、ハンディを抱えている親の子育てを、地域全体で見守っていく必要があります。

そして、これは文化に関わることでもありますが、日本では昔から家庭教育でもスポーツ教育でも、子供は叩いて育てるという考えが根強くあります。しかし、いまでは、子供を過度に叩くなどすれば「身体的虐待」になってしまいますし、科学的にも体罰は子供に有害であることが明らかになってきています。

子供の自立まで考えた対策を

実際に児童虐待の疑いがある、事態が発生した場合の取り組みを考えてみます。現在の日本の仕組みでは、児童虐待の通告があると、児童相談所や市町村が、子供の保護や親の支援のためにその家庭に介入していきます。

具体的には、子供を保育所に入れる、親の就労や育児支援のヘルパーさんを派遣するなどの生活支援、在宅支援を行います。保育所に入るだけでも、周囲が子供の状態や送り迎えの時に親の様子を確認できるので、児童虐待を防止する効果があるのです。

それでも児童虐待が続き、子供を守れないとなった場合には、子供を親から引き離して里親や施設に預ける「親子分離」が行われます。

しかし、児童虐待の対応はそれだけでは終わりません。「親子分離」が長引いたり、元の親子関係に戻れないまま、子供の年齢が施設で過ごせる18歳を過ぎた後の自立支援にもしっかり取り組まなければなりません。

虐待の精神的なケアや施設退所後の自立がうまくできなければ、虐待を受けた子供が、自分の子供にも虐待を繰り返してしまう世代間連鎖も起こりかねません。

最近では、20歳を過ぎても施設に留まることができるようになってきましたが、小・中・高・大学進学などの教育、その後の就職支援や住居探しまでを含めた、息の長い虐待対策をより充実させていくことが求められます。

(本記事は月刊『致知』2019年2月号の連載「意見・判断」から一部抜粋・編集したものです。あなたの人生、経営・仕事の糧になる教え、ヒントが見つかる月刊『致知』の詳細・購読はこちら

吉田恒雄(よしだ・つねお)]
昭和24年東京都生まれ。47年早稲田大学第一法学部卒業。同大学大学院法学研究科民事法学専攻修士課程修了。55年同大学大学院法学研究科民事法学専攻博士後期課程単位取得退学。駿河台大学法学部教授などを経て、平成27年駿河台大学学長。平成20年認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク理事長。児童虐待防止法制度に関する研究、児童虐待防止のソーシャルアクション、広報・啓発活動(オレンジリボン運動)に取り組んでいる。

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