20代の稲盛和夫氏が人生を「好転」させたある理由

京セラやKDDIを創業し、それぞれ世界的企業に育て上げ、さらにはJALの再建も果たした稲盛和夫氏。名経営者として誉れ高い人物も、大学卒業後の若い頃は「不平不満」も口に出るほどの苦難の道を歩んでいました。それを好転させたのは、「明るく前向きに」という生きる姿勢にあったといいます。

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同期で残ったのは私だけ

大学を卒業したのは昭和30年です。戦争が終わってからまだ10年しかたっていませんでしたので、なかなかいい就職先がございませんでした。なんとかいい会社に入りたいと思って会社訪問をしましたが、地方大学(鹿児島大学)の出身者を採用してくれるところはどこもありませんでした。

困っている私を見かねて、担任の教授が一所懸命走り回って京都にある焼き物の会社を探してきてくれました。そこならば採用してくれるというので、私はその会社に就職することにしました。

この会社は、戦前は非常に業績のいい会社だったらしいのですが、戦後は10年間ずっと赤字続きでした。私が入社した頃は毎年のように労働争議が繰り返されていて、給料日になっても給料が出ないというみじめな状態でした。

少年時代から大変な逆境の中で育ってきて、やっと社会人になって楽に暮らせるかと思えば、入ったところがいまにも潰れそうなみすぼらしい会社だったのです。私はほとほと嫌気が差して、不平不満ばかり鳴らしていました。

一緒に入った大卒者は5名おりましたが(中略)、秋になる頃には、私を除く4人は会社を辞めていました。

泊まり込みで研究開発

独り残された私は途方に暮れました。しかし、逃げていく場所もないのですから、不平不満はこぼしながらも、一方ではなんとかこの会社で頑張って生きていかなければならんと思っていました。

当時、その会社では将来の進路を定めるために新しいファインセラミックスの研究開発を計画していました。そして、その研究開発の役割が大学を出たばかりの若い私に与えられたのです。

ぶつぶつ不平ばかり鳴らし、給料日に給料が出ないと文句を言っていてもしようがないと思った私は、まともな研究設備もない粗末な研究室で、世間の憂さを忘れるように、一心不乱に研究に打ち込み始めました。寮から鍋と釜を持ち込んで、研究室でご飯を炊いて食べながら泊まり込みで研究を始めたのです。

そうするとどうしたことか、だんだん研究がおもしろくなり始めました。おもしろくなると研究はどんどん進んで、学会で発表すると褒められるし、会社でも褒められるようになりました。

それで一層研究に打ち込むようになり、そのうちに、いまだかつて日本では誰も開発したことのない新しいセラミックス材料の開発に成功したのです。

不平不満を口にせず

この時は上司に大変褒められ、私も嬉しくなりました。研究に打ち込んでいるうちに研究がうまくいき、その結果、他人からも褒められるので、やりがいが出てきました。

それまでずっと不平不満ばかり鳴らしていた私が、見違えるように前向きに明るくなり、研究に没頭する人間に生まれ変わっていったのです。それが研究に一層拍車を掛け、さらにいい製品が生まれ、ついには私の研究が潰れかかった会社を背負って立つような事業にまで発展していきました。

数年後、事情があって私は会社を辞めることになりますが、ある方がご支援してくださり、私の研究技術をもとにした会社をつくっていただきました。それが京セラという会社のスタートになりました。

研究に没頭して不平不満を言わなくなって、明るく前向きに仕事に精を出し始めてから、私の人生は明らかに好転し始めたのです。

そういう経験をしましたので、私は27歳で会社をつくっていただいた当初から、人生というのは自分の心に思うように変わっていくのだと考えるようになりました。


◇稲盛和夫(いなもり・かずお)
昭和7年鹿児島県生まれ。鹿児島大学工学部卒業。34年京都セラミック(現・京セラ)を設立。社長、会長を経て、平成9年より名誉会長。昭和59年には第二電電(現・KDDI)を設立、会長に就任、平成13年より最高顧問。22年には日本航空会長に就任し、27年より名誉顧問。昭和59年に稲盛財団を設立し、「京都賞」を創設。毎年、人類社会の進歩発展に功績のあった方々を顕彰している。また、若手経営者のための経営塾「盛和塾」の塾長として、後進の育成に心血を注ぐ。著書に『人生と経営』『「成功」と「失敗」の法則』『成功の要諦』(いずれも致知出版社)など。


◇追悼アーカイブ
稲盛和夫さんが月刊『致知』へ寄せてくださったメッセージ

「致知出版社の前途を祝して」
平成4年(1992)年

 昨今、日本企業の行動が世界に及ぼす影響というものが、従来とちがって格段に大きくなってきました。日本の経営者の責任が、今日では地球大に大きくなっているのです。

 このような環境のなかで正しい判断をしていくには、経営者自身の心を磨き、精神を高めるよう努力する以外に道はありません。人生の成功不成功のみならず、経営の成功不成功を決めるものも人の心です。

 私は、京セラ創業直後から人の心が経営を決めることに気づき、それ以来、心をベースとした経営を実行してきました。経営者の日々の判断が、企業の性格を決定していきますし、経営者の判断が社員の心の動きを方向づけ、社員の心の集合が会社の雰囲気、社風を決めていきます。

 このように過去の経営判断が積み重なって、現在の会社の状態ができあがっていくのです。そして、経営判断の最後のより所になるのは経営者自身の心であることは、経営者なら皆痛切に感じていることです。

 我が国に有力な経営誌は数々ありますが、その中でも、人の心に焦点をあてた編集方針を貫いておられる『致知』は際だっています。日本経済の発展、時代の変化と共に、『致知』の存在はますます重要になるでしょう。創刊満14年を迎えられる貴誌の新生スタートを祝し、今後ますます発展されますよう祈念申し上げます。

――稲盛和夫

〈全文〉稲盛和夫氏と『致知』——貴重なメッセージを振り返る

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