スマホの使い過ぎが脳の発達を止める?? —— 子育てはスマホをオフにして

スマートフォンやタブレットが爆発的に普及したいま、その長時間にわたる使用がもたらす弊害が徐々に明らかにされています。これに警鐘を鳴らしているのが、長年にわたり独自の国語教育を実践してきた土屋秀宇(ひでお)さんと、「脳トレ」で一世を風靡し、読書が脳に与える驚くべき効果を実証してきた川島隆太さん。かつて先生と教え子の立場にあったお二人は、スマホの使い過ぎに代表される悪影響を忌憚なく語り合われています。

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スマホの使い過ぎが脳をだめにする

〈土屋〉
これは僕がやってきた言葉の教育とも深く関係する問題ですが、最近愛着障碍の子がとても増えているんです。

発達障碍と症状がよく似ているのですが、赤ちゃんにとって母子密着が最も必要で母の愛語をたっぷり貰わなければならない時に、仕事などの都合で母子分離という養育環境に置かれ、しっかりした母と子の絆がつくれないところに原因があると言われています。

しかし、そういう子でも言葉の教育をやっていくと、薄紙を剥がすように徐々に徐々によくなっていくんですよ。先ほどからの川島君のお話から察するに、これはやっぱり語彙が増えてくることが大きいのではないかと思うのですが。

〈川島〉
実はいま、読み聞かせのプロジェクトというのをやっていまして、読み聞かせをする際の親子の脳をそれぞれ測ってみたんです。

すると驚いたことに、母親の脳は前頭葉の真ん中の相手を思いやる領域、コミュニケーションを司る領域が一番働いていたんですよ。親にとって読み聞かせというのは、文章を読むというより、子供に高次のコミュニケーションを仕掛けて反応を読み取る脳活動が活発になっていることが分かりました。

ではその時に子供の脳はどうなっているかというと、話を理解する時に働く前頭葉ではなくて、辺縁系という感情を司る部位が活発に働いていたんです。

つまり幼い子への読み聞かせというのは、親が子供に心を寄せ、子供はそれを受けて感情を揺さぶられる、そういう作業だったことが脳科学で見えてきたんです。通常の文章を聴いている時の脳活動とは明らかに違う働きが見られるんですね。

 〔中略〕

スマホやタブレットの利用時間が長い子供たち約200人の脳の発達を、MRI(磁気共鳴画像)を使って3年間調査したことがありましてね。

利用頻度の少ない子はちゃんと3年分発達していたのに、利用頻度の高い子は脳の発達が止まっていました。言葉を司る前頭葉と側頭葉の発達が、右脳も左脳も止まってしまって、白質という情報伝達の役割を果たす部分も大脳全体にわたって発達が止まっていたんです。 

〈土屋〉
それは大変なことですね。 

〈川島〉
もう少し詳しく見ていくと、スマホやタブレットの利用が1日1時間未満、もしくは使わない子は特に影響はないんですが、それが1時間以上になると、利用時間に応じて学力に対するネガティブな影響が大きくなるんです。 

ですからスマホ、タブレットの使い過ぎは、明々白々に脳の発達を阻害しています。学力を含めてすべての能力が上手く発現できない状態に陥ってしまい、いくら勉強しても、睡眠を十分とっても成績が上がらない。先ほどご紹介した読書の効果の逆です。

これは大学生を対象に実験した時も同じでした。スマホやタブレットを手放せない学生は、大脳白質を中心に画像でハッキリ分かるくらい劣化している。その上、鬱的な状態も発現しやすいし、自己抑制能力も大幅に低下することが分かっています。 

あまりにもハッキリとデータに現れるので、スマホを長時間使い続けることで特定の遺伝子に何か起こっているのではないかと考えて、最近はその解析に取り組んでいるところなんです。

育児とスマホ

〈川島〉
さらに僕がいま一番心配しているのが、乳幼児へのスマホの影響です。先ほど先生がおっしゃった愛着障碍も、一番の原因は実はスマホだと思うんです。多くの母親が、授乳時に子供を見ないでスマホを見ているんですよ。

医療現場では、母乳を飲ませることが大切だということは教えられるんですが、授乳がコミュニケーションだという教育は行われていないんですね。ですからお母さんは、赤ちゃんにおっぱいをあげながらスマホをいじっているんです。

最近は知育アプリというのも出てきました。スマホの画面に現れたキャラクターが「いないいないばぁ」をしたりするんですが、親はそれを見せておけば子供が賢くなると思い込んでしまう。結果的に、親子がしっかり向き合わなければならない大切な時期に、スマホとばかりコミュニケーションして育つ子供が山のようにいます。

一時期神経小児科医がサイレント・ベビー症候群と呼んで盛んに警鐘を鳴らしていましたけど、最近はあまり言わなくなりましたね。

〈土屋〉
平成16年頃に「ながら授乳をやめましょう」ということが盛んに言われていました。他人と目を合わさず、言葉の遅れが著しい子がどんどん増えてきているから、テレビやスマホのスイッチをオフにして、ちゃんと我が子の目を見て、言葉掛けをしながらおっぱいをあげてくださいと訴えていました。

〈川島〉
それがいまではすっかり鳴りを潜めてしまって、いま小学校を訪れると、明らかに表情に乏しくて、他人の気持ちを読む能力に欠ける子が大量にいるんですね。

この状況を変えていくには、時間はかかりますけど、これから親になる子供たちに、スマホの使い過ぎは問題があること、子育てで大事なのはコミュニケーションだということを直接教えていくしかないと思うんです。

〈土屋〉
本当におっしゃる通りです。スマホ授乳は、虐待に等しい行為と言わざるを得ません。

僕が昭和40年に教員になった頃、発達障碍の有病率は1万人に1人でした。これが2、3年くらい前の調査では15人に1人にまで激増している。しかし、先ほども言いましたように、その多くは愛着障碍だと僕は解釈しています。

そして、それは言葉の教育や、母と子のコミュニケーションによって愛着の再形成が可能であることを、僕は活動を通じて実感しています。


(本記事は月刊『致知』2019年9月号 特集「読書尚友(どくしょしょうゆう)」から一部抜粋・編集したものです)

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◇川島隆太(かわしま・りゅうた)
昭和34年千葉県生まれ。東北大学医学部卒業。同大学院医学系研究科修了(医学博士)。同大学加齢医学研究所所長。専門は脳機能イメージング学。著書に『読書がたくましい脳をつくる』(くもん出版)『やってはいけない脳の習慣』(青春新書)『スマホが学力を破壊する』(集英社)など多数。共著に『素読のすすめ』(致知出版社)などがある。

◇土屋秀宇(つちや・ひでお)
昭和17年千葉県生まれ。千葉大学教育学部卒業後、県内で中学校英語教師を務める。13年間にわたり小中学校の校長を歴任し、平成15年定年退職。その後、日本漢字教育振興協會理事長、漢字文化振興協会理事、國語問題協議會評議員などを務める。30年一般社団法人「母と子の美しい言葉の教育」推進協会設立。著書に『日本語「ぢ」と「じ」の謎』(光文社)など。

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