【杉山愛×吉田沙保里】トップアスリートの母が語る超一流の子育て

女子テニスでグランドスラム連続出場のギネス記録を打ち立て、シングルス世界ランキング最高位8位、ダブルス1位のトッププレーヤーの杉山愛選手。女子レスリングでオリンピック3連覇、世界大会16連覇の偉業を成し遂げた吉田沙保里選手。お2人の母親である杉山芙沙子さんと吉田幸代さんが語り合う愛娘への思い、そして超一流の子育てとは?日本が世界に誇るスーパーアスリートを育てた2人の母の対談をお届けします。

母親を捨てた9年間

【吉田】

杉山さんはいつから愛さんのコーチをなさっていたのですか。

【杉山】

2001年の冬でした。愛が大スランプに陥って、藁をも掴む思いで「ママにコーチをお願いしたい」って頼んできたので、二つ返事で引き受けたんです。

もともと頑張っている愛を見るのが好きで、最初は母親として接するのと同じように、無二の愛情を持って向き合えばいいと思っていたんですけど、いざやってみたら全然違う。あれから引退するまでの9年間は、ほとんど母親を捨てていましたね。苦しみ抜きましたけど、本当に中身の濃い9年間でした。それを乗り越えてきたから余計に、母親っていいなって思うんです。

【吉田】

うちは主人がそうでした。いつもいつも「沙保里はどうしたら勝てるんだろう」ということしか頭にありませんでしたから。

【杉山】

ご主人がお亡くなりになった後で迎えたリオオリンピックでは、沙保里さんとどんなふうに向き合われていたのですか。

【吉田】

彼女はもう十分に自立していましたけど、やっぱり掛ける言葉には随分気を使いました。ロンドンの時は最悪なコンディションでしたけど、主人が傍にいたおかげで気持ちを立て直すことができて、それが金メダルに繋がった面も大きかったと思うんです。でもリオでは主人のバックアップがなくなって、1人で全部考えなきゃいけない。やっぱり辛かったと思いますね。

【杉山】

パパロスの上にコーチロスでしょう。相当辛かったと思いますよ。そういう中で戦った沙保里さんはすごいし、それを見ていらした吉田さんの気持ちを考えると、もう胸が張り裂けそうになります。

【吉田】

沙保里はもともと負けず嫌いですし、レスリングを始めたのも金メダルがほしいという思いからでした。その思いが強いほど、余計に自分にプレッシャーもかかるんですね。

【杉山】

本当にそうだと思います。だから頑張るっていうのは他人から言われる筋合いじゃない。自分自身の課した目標に対して頑張るものだと思うんです。リオの時も、沙保里さんのそういう姿を見て皆感動したんですよ。

 

やり切るからこそ学べることがある

【吉田】

リオの結果は銀メダルでしたけど、負ける時は絶対にいつか来るというのは、ずっと考えていました。2008年には、北京オリンピック直前の試合で初めて外国人選手に敗れて、連勝記録が119で途切れました。

監督から「沙保里が泣きやまなくて困っているので、何とかしてください」って電話が掛かってきたので、私はこう言ったんです。

「これまで119人の人があなたに負けて泣いてるんだよ。たった1回負けたくらいで何だっていうの。北京オリンピックで優勝すればいいじゃない」

と。沙保里はそこからまた元気になって金メダルを取ってくれました。

【杉山】

素敵な言葉ですねぇ。

【吉田】

そうしてずっと金メダルを取ってきましたから、リオでもやっぱり金が欲しかった。だから負けた後に銀メダルを見せてもらった時には、沙保里はまだ泣きはらした顔をしていました。でもその銀メダルがすごく綺麗で、「プラチナみたいに綺麗だね。うちにないメダルだからよかった」って言ったら、「お母さんがそう言ってくれてよかった」って笑顔を取り戻してくれたんです。どっちも自然と出てきた言葉なんですけど、頑張る娘をずっと応援してきていたから、そういう言葉が咄嗟に出てきたんだと思うんです。

沙保里はそういう私の言葉をいつも「ありがとう」って素直に受け止めてくれました。

終わったことは仕方がないから、また前に進まなきゃって教えてきましたし、もともといつまでもクヨクヨする子じゃありません。ワーッと泣いて終わり。そういう性格なんです(笑)。

【杉山】

アスリートってトップにのぼるほど努力が報われにくくなるじゃないですか。チャンプは世界にたった1人ですから。でも、結果が出ないから努力しないんじゃなくて、そういう時でも頑張る。そこまでやり切るからこそ学べることがあるんですよね。私も愛が試合に負けた後に話をする時は、「負ける時もあるよ。その負けがまたモチベーションになるんだよね」っていうところにいつも着地していました。

その学びが、引退してからも彼女をいろんな場面で助けていると思います。そして私も、トップアスリートの娘を通じて、すごく貴重な体験を一緒にさせてもらったという思いです。

(本記事は『致知別冊「母」』より一部抜粋したものです。あなたの人生や経営、仕事の糧になる教え、ヒントが見つかる月刊『致知』の詳細・購読はこちら

吉田幸代(よしだ・ゆきよ)
昭和29年三重県生まれ。中学からテニスを始め、50年の三重国体で出会ったレスリングの吉田栄勝氏と結婚。夫とともに自宅に「一志ジュニアレスリング教室」を設けて子どもたちの指導にあたる。平成26年栄勝氏急逝後も子どもたちを見守り続けている。著書に『泣かないで、沙保里』(小学館)。

杉山芙沙子(すぎやま・ふさこ)
昭和24年東京都生まれ。医学博士。聖心女子大学卒業。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修了。順天堂大学大学院医学研究科博士課程修了。テニスコーチとして多くのジュニア選手を育成。また娘の杉山愛選手のコーチ、チームディレクターとして世界ツアーをともに転戦。一般社団法人次世代SMILE代表理事。著書に『一流選手の親はどこが違うのか』(新潮社)など。

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