パニックの時に思い出したい、中村天風のシンプルなストレス対策

心を積極的観念で満たし、人生を好転させていく独自の方法を説いた哲人・中村天風。その教えはいまも経営者やアスリートなど、分野を問わず多くの人に影響を与え続けています。上智大学名誉教授の渡部昇一さん(故人)は、ストレスについて探究していく中で、天風氏が呼吸の調整によって心身の健康を保っていたことに気づかれます。
(本記事は月刊『致知』2011年11月号 特集「人生は心一つの置きどころ」から一部抜粋・編集したものです)

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「溺れて死ぬ人は皆肛門が開いている」

〈渡部〉
天風氏は約半世紀前、80歳を越えた頃から精力的に講演活動を展開しました。

その頃、日本に入ってきた医学の学説にカナダ人生理学者のハンス・セリエのストレス学説があります。心の状態が肉体に影響を及ぼすという、いわば当たり前のことを医学的に証明したものですが、だからストレスはすべて避けなくてはならない、というのがセリエの主張でした。

このストレスの問題について、さらに明快な答えを示してくれたのが『人間 この未知なるもの』を著した世界的生理学者アレキシス・カレルです。カレルは現在の医学の学説が病人のデータのみに基づいていることに疑念を呈しました。

例えば、足の悪い人に駆け足をさせれば当然マイナスの効果しか生じません。しかし、正常に機能する人は負荷を与えるほど足の筋力は強化され、走る能力が向上します。

受験勉強でも、そのプレッシャーから神経衰弱になる人もいれば、この試練を成長のバネにする人もいます。健全な人にとってストレスはむしろ必要であるというのがカレルの教訓であり、私もまったく同感です。

興味深いのは、天風氏もまたストレスと向き合い、それを乗り越える方法を説いている点です。

これはクンバハカ法と呼ばれる、いわばヨガの秘伝。具体的には、平常心を失うような衝撃や感覚の刺激を受けた場合、まず第一に肛門を締め、同時に肩の力を抜いて下腹部に力を充実させるというものです。

天風氏は「溺れて死ぬ人は皆肛門が開いている」といった表現で、日々意識して肛門を締めるよう言っていますが、自律神経を調整する上でそれくらいこれは大切なことなのでしょう。

このクンバハカと同じような呼吸法(正心調息法)を独自に開発、体得されたのが医学博士の塩谷信男氏でした。

私も『致知』で対談し、共著も出させていただきましたが、塩谷氏は子供の頃、大変病弱だったようです。しかし、この正心調息法で健康を手にし、105歳の長寿を全うされるのです。

正心調息法とは息を吸い込むと同時に肛門を締め、息をグッと臍下丹田に収める。そしてゆっくりと吐き出すといった複数の呼吸動作を繰り返して行うものであり、それによって酸素を多く取り入れ、血液に送り込むのが特徴です。

塩谷氏は偶然、この呼吸法に気づいたそうですが、肛門を締め、下腹に力を入れるところなどクンバハカととても似ています。門外漢の勝手な解釈ですが、クンバハカと正心調息法はどちらでもやり続けることができたら、人間はより健康になれるようにも思います。


(本記事は月刊『致知』2011年11月号 特集「人生は心一つの置きどころ」から一部抜粋・編集したものです)

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◇渡部昇一(わたなべ・しょういち)
昭和5年山形県生まれ。30年上智大学文学部大学院修士課程修了。ドイツ・ミュンスター大学、イギリス・オックスフォード大学留学。Dr.phil.,Dr.phil.h.c.平成13年から上智大学名誉教授。幅広い評論活動を展開する。平成29年逝去。

◇中村天風(なかむら・てんぷう)
明治9年東京生まれ。カイロでヨガの聖者カリアッパ師に出会い、ヒマラヤ山脈の麓で修行。実業界で活躍するが、大正8年43歳の時に「統一哲医学会(後に天風会と改称)」を結成。政財界の有力者が続々と入会。昭和43年逝去。享年92歳。

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