すべてはミツバチが知っている——ハニーファーム代表理事・船橋康貴さんに聞く

すべてをミツバチから教わったと語る養蜂家の船橋康貴さん。船橋さんの活動は、養蜂に止まることなく、環境問題に関する積極的な情報発信や講演活動、主に子供たちを対象にした「ハチ育」など多方面にわたる。いま私たちはミツバチから何を学ぶべきなのか、お話しいただきました。

美味しいハチミツをつくる秘訣

(――なぜ船橋さんのハチミツはそこまでおいしいのですか?)

(船橋) 

それは巣箱を置いた周辺に咲く花に恵まれていたからだと思います。それにミツバチには感謝を込めて、いつも声を掛けながら育てているんですよ。

(――それが世界一と称されるハチミツをつくる秘訣であると……。) 

(船橋) 

腑に落ちないのは分かります。実際、いまのように説明しても、納得されない方もいらっしゃるので、その場合には開き直って、「僕がつくっているからです」と答えているんです(笑)。それしか僕も説明のしようがない。 

一つ言えることとして、僕のつくるハチミツは糖度が80を超えます。この数値はどんな熟練の養蜂家でも滅多に出すことができませんが、僕がつくると全部同じレベルのものができる。 

これって、例えば木村秋則さんがつくる「奇跡のリンゴ」と同じで、他の人がいくらやり方を真似しても、木村さんと同じレベルのものはつくれないのと一緒だと思うんです。つくり方などは全部オープンにしていますけど、誰も同じレベルのものはつくれません。 

僕としては、きっと天か何かが応援してくれていると勝手に思っているんです。

心の中に自然が宿る

(――天に応援されていると。)

(船橋) 

ええ。それに僕はミツバチから教えてもらったことがたくさんあって、それを伝えていくことも大事な役目だと思っています。

例えば、ミツバチは1日に3000か所を回って少しずつ花のミツをいただく代わりに、受粉を手伝うことで何千もの果実を実らせています。これは相手から少しだけいただく代わりに、役立つことをたくさんすることの大切さを教えてくれていると思うんです。

それにミツバチって1つの巣箱に約2万匹が一緒に生活をしているのですが、そこには「自分が、自分が」という我の世界が一切なく、絶対調和の集合体として存在しているんです。まるで1つの意識で動いているかのように、常に平和が保たれて、私的幸福の追求ではなく公的幸福の追求こそが最も幸せであることを示してくれていると、僕は感じています。

(――ミツバチが生き方を教えてくれていると。)

(船橋) 

僕はこうしたことを「ハチ育」として、子供たちに伝えてきましたが、例えば何事にも消極的で、親も半ば諦めかけていた子がいましてね。その子が「ハチ育」を受けた後に自ら学級委員に立候補したばかりか、「自分のためではなく、クラス全体の幸せだけを考えて学級委員をやります」とスピーチをして当選までしてしまった。両親や先生がいくら言っても暖簾に腕押しだった子供が、ミツバチに教えられたことで行動が変わったんですよ。

それから出張授業では、ミツバチを入れた観察ケースを持って行って、子供たちにミツバチの羽音を聞いてもらうんです。そうすると、一瞬にして子供たちの顔がパッと綺麗になる。

(――顔が綺麗になる?)

(船橋) 

何か憑きものが取れたようにパッと明るくなって、「うん」って頷くんです。そして、ほとんどの子が「ミツバチからメッセージをもらった」って言うんですよ。

結局、これは何を意味しているのかと言うと、人間の心の中は自然生態系と同じだということなんです。ふかふかの土からいろいろな芽が吹き出し、愛や希望、友情、夢といった花が1つ、また1つと開いていく。そして、その花をミツバチが受粉することによって、実を結びます。ところが、子供の頃から自然との触れ合いが欠乏すると、心の中がざわざわとして落ち着かなくなってしまうんです。ミツバチの羽音にはそうした心を一瞬にして穏やかにさせてしまう力があるんですよ

僕がいまの子供たちを見ていて危ないなと思うのは、自然の延長線上にある心が枯渇していることです。いくら記憶の貯蔵庫いっぱいに知識を詰め込んでも、葉が生い茂るだけで、肝心の根っこの部分は育ちません。それでは本当の花を咲かせることはできないばかりか、ちょっと強い風が吹くと折れたり倒れたりするんですよ。

(――自然との触れ合いなくして、人間の花は咲かないと。)

(船橋) 

そのとおりです。特に日本は四季が巡り、素晴らしい自然環境に恵まれたことでこれまで多くの人材が育ってきました。

こういった見方は海外でも根強く、パリ中央養蜂委員会の会長は、「尊敬する日本人に友人ができて嬉しい」って泣きながら僕に言ってくれたことがありました。なぜかと言えば、日本人はすべてのものに神を見出し、なおかつ感謝しながら丁寧に生きている国民だというのが彼らの認識だからです。

(本記事は月刊『致知』2018年7月号「人間の花」から一部抜粋・編集したものです。各界一流の方々のご体験談や珠玉の名言を多数紹介。あなたの人生、経営・仕事の糧になる教え、ヒントが見つかる月刊『致知』の詳細・購読はこちら

船橋康貴(ふなはし・やすき)

昭和35年愛知県生まれ。中京大学卒業後、信販会社に就職。平成13年環境シンクタンクを設立。名古屋工業大学大学院で産業戦略工学専攻。51歳で養蜂家の道に入る。24年一般社団法人ハニーファームを設立、代表理事を務める。

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