2021年05月17日
大手旅行会社JTB相談役の佐々木隆さんは、入社後に配属された営業部門を経て、30歳の時に経理部門に異動。「こんなことやってられるか!」と腐らず勉学に励み、そして「きょう一日に集中する」姿勢を貫くことで道が開けてきたと振り返ります。
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現場で学んだ仕事の厳しさ
〈佐々木〉
私は学生時代、東京大学理学部で地理学を専攻していた。大学院に進んで研究者になる道も考えていたが、世の中に出てみたいとの思いが高まり、就職活動をスタート。
たまたま同じ学科の1年先輩が日本交通公社(現・JTB)に入社し、その先輩から勧誘されたこともあって、お世話になることに決めた。1967年、23歳のことである。
入社後、配属されたのは団体旅行大阪支店。まず朝は先輩が来る30分前に出社し、雑巾がけをする。朝礼が終わると、すぐに外回り。私は修学旅行の担当だったため、学校に飛び込み営業をするのだ。職員室に入っていくと嫌な顔をされ、全く相手にしてもらえない。
右も左も分からない新入社員が営業の現場でずっと揉まれていると、やはり心は荒んでいく。そんな時、私自身を救ってくれたのが読書だった。
イギリスの小説家コリン・ウィルソンが人間の意識の拡大をテーマに著した『賢者の石』にはとりわけ惹かれた。400頁を超える大作だが、読破した回数は25回にも及ぶ。必死だったからこそ為せる業であろう。
一点を極め尽くすことが自信になる
転機が訪れたのは30歳の時、経理部へ異動になったことである。非常に地味な裏方仕事、若い男がこんなところで何をしているんだ、英語ができないから飛ばされたくらいにしか見られていない。
私自身は、もともと理系で数字が好きだったため、経理の仕事は苦痛ではなかった。「こんなことやってられるか!」と腐ってしまう人もいるだろう。
しかし、私はそんなことを気にも留めず、集計結果に対してどうしてこんな数字が出てくるんだろう、この数字は何を意味しているんだろうと、簿記や会計の知識を求めてとことん勉学に励んだ。
バブル崩壊後、経営の危機に立たされた時、「営業のできる人間はたくさんいるけれども、数字を分かっている人間は彼しかいない」との理由で、私が社長に選出されたと後で聞いたこともある。
実際、経営トップとして難しい決断を迫られるたびに、財務の知識が私を助けてくれたし、その1点が揺らぐことのない確信となっていたから、修羅場に直面しても落ち着いて切り抜けることができた。
きょう一日を活かし切った人が成功する
その経験を踏まえて、いま私が若い人たちに伝えたいのは、「腑に落ちた知識は、絶対に自分を裏切らない」ということである。
20代というのは、会社や組織の中で様々な雑用や下積みをやらされるものだ。その時、自分にとって何が本当に必要なのか分からなくて迷ったり、自分の将来に関係あるのだろうかと疑問を感じて中途半端になる人が非常に多い。私自身がかつてそうだった。
では、いかにすればよいのか。ごく些細なことでいいから、1つのことを徹底的に何か月も考えを巡らせる訓練が必要なのだと思う。
もう1つ、大事なことを付記しておく。それは、「現在に生きろ」ということだ。まだ来ない明日のことを考えて不安になったり、過ぎ去った昨日のことを考えて後悔するのではなく、きょう1日に集中する。
きょう一日に集中し切った人、つまりいま目の前にある仕事、環境、知識を最大限生かした人が必ず成功者になるのだ。
(本記事は月刊『致知』2016年4月号 連載「二十代をどう生きるか」から抜粋・編集したものです)◇佐々木 隆(ささき・たかし)
昭和18年東京都生まれ。42年東京大学理学部卒業後、日本交通公社(現・JTB)に入社。経営企画室主査、常務取締役などを経て、平成14年社長。20年会長。26年より現職。
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