イチローに学ぶ、夢を実現する「一流の努力」

米大リーグ通算3089安打という偉業を成し遂げたイチロー選手が、現役引退を表明してから2年弱。人々に大きな夢と感動を与え続けてきた、その〝超一流〟プロとしての生き方に学ぶべきこととは? 若き日のイチロー選手の専属打撃投手として、練習に打ち込む姿を間近で見てきたという奥村幸治さんにお聞きしました。

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大事なのは努力の仕方

〈奥村〉
私がイチロー選手から学んだことの一つに、努力の仕方がある。彼はいかなる場合にも、試合で最高のパフォーマンスを発揮できるようにと、自分ができる努力を高い境地で積み重ねてきた。もっとも、常にハードな練習していたのかというとそうではない。

例えばシーズン中に調子が悪くなると、試合後にもバットを振っている選手の姿をよく見かける。ところがイチロー選手の場合、試合前のフリーバッティングと試合中以外にバットを握ることはほとんどなかった。

彼はシーズンが始まってから一番に考えなければいけないことは何かということをよく理解していたのだ。連日の試合で身体が疲れているのに、無理な練習を重ねたらもっと疲労が溜まってしまい、せっかくの技術も発揮できないと考えていた。これは自分の身体のことを分かっているからこそできることだろう。

平成25年8月22日、イチロー選手は日米通算4000本安打という偉業を成し得たが、これとて試合に出続けてきたからこそ生まれた記録といえる。毎年シーズンに入ったら、身体の調子を万全に整えられるよう、自分を律する心を彼は保ち続けてきたからに他ならない。

一方、自主トレーニングの期間や春のキャンプに入ると、イチロー選手はピッチングマシーン相手に3時間でも4時間でも黙々とバットを振り続ける。

もちろんこの時期は打者であれば当然打ち込みに励むわけだが、私は彼ほど長く集中力を保ったままで練習する選手を他に知らない。なぜそれほど長く打ち続けることができるのか。イチロー選手に聞いてみると、こんな答えが返ってきた。

「最初から長い時間打とうとしているわけではありません。ただ自分にはその日にやらなければいけない目標があって、その目標をクリアしようと思って打ち続けていると、3時間でも4時間でも集中できるんですよ」

彼はこうも言っている。「目標がないのに練習することって意味がないでしょう。それならいっそ身体を休めたり、気分転換をするほうがいいと思いませんか」と。
 
ただ漫然と数をこなすのではなく、自分はこれを掴みたい、この目標を達成したいという思いがあるから練習に向かう。そのために一球一球に明確なテーマと目標を持って臨むからこそ、イチロー選手は信じられないような集中力を発揮できた。イチロー選手が一流選手たる所以が、こうした努力の仕方の差になって表れている。

決めたことは絶対に続ける

〈奥村〉
こうした努力の仕方を、イチロー選手はいつ頃から身につけてきたのかは定かではないが、その一端を垣間見ることができるエピソードをご紹介しよう。
 
これは私が打撃投手に区切りをつけ、トレーナーになろうとメンタルトレーニングの勉強をしていた時のことだった。イチロー選手を掴まえて、メンタルトレーニングについてどのように考えているかと尋ねてみた。すると彼はひと言、「メンタルを鍛える、つまり心を鍛えるっていうのは、自分に必要なことを続ける努力をすることじゃないんですか」と答えた。
 
私はその答えに興味を覚え、さらに質問を続けた。「これまでに、これだけは絶対誰にも負けていないと胸を張って言える努力って何?」と。

「高校の時に寮に入っていた3年間、僕は寝る前の10分間素振りをしていました。そしてそれを1年365日、3年間欠かさず続けました。それが僕の誰にも負けないと思える努力です」
 
この話を聞きながら、私は高校時代に自分がどんな努力をしてきただろうかと自らに問い掛けた。「きょうは家に帰ったら300回素振りをしよう」とか「きょうはいつもより多く走ってこよう」といった努力はしてきたが、イチロー選手のようにこれだけは絶対にやらなければという思いで続けてきたことは何もなかったことに気づかされた。
 
この話には後日談がある。つい最近のことだが、私の講演を聞いてくれていたイチロー選手の高校時代の先輩に声を掛けられ、その講演で触れた「10分間の素振り」について話題が及んだ。「やっぱり本当なんですか」と尋ねると、その答えに私は驚いた。

「10分間の素振りね、あれは最低10分だからね。やり続けると1時間でも2時間でもやっていましたよ」。

イチロー選手は既に高校生の頃には一度自分で決めたことを、決してゼロにはしなかった。そうやって心を鍛えてきた事実に私は新たな衝撃を受けた思いだった。

NHKの特集番組でイチロー選手は次のような趣旨のことを語っている。

「心が折れそうになった時、自分が続けてきたことをやめてしまおうと思ったこともあった。しかし、もし仮にやめてしまったら自分が自分ではなくなってしまう」
 
これは彼にとって、いまの自分があるのは、やると決めたことを休むことなく続けてきたからだという認識を強く持っているからに他ならない。彼の弛まぬ努力の仕方そのものが心の支えとなり、いまを生きる力になっているのだと私は思う。

(本記事は『致知』2015年3月号 特集「成功の要諦」から一部抜粋・編集したものです) 


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◇奥村幸治(おくむら・こうじ)
昭和47年兵庫県生まれ。平成5年オリックス・ブルーウェーブ(現・オリックス・バッファローズ)に打撃投手として入団。翌年、イチロー選手の専属打撃投手となる。7年に阪神、8年に西武での打撃投手を経て、パーソナルトレーナーとしてプロ野球選手の指導にあたる。11年中学硬式野球チーム「宝塚ボーイズ」を結成、全国大会の常連チームに育て上げる。著書に『一流の習慣術』『超一流の勝負力』(ともにSB新書)など。

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