稲盛和夫が維新の英傑・西郷隆盛に学んだ「才能」の使い道

京セラを一代で世界的企業へと育て上げ、不可能と言われた日本航空(JAL)の再建を成し遂げた稲盛和夫さん。その稲盛さんが、経営の過程でことあるごとに紐解いてきたのが、維新の英傑・西郷隆盛が著した『南洲翁遺訓』だったといいます。

【特集「追悼 稲盛和夫」を発刊しました】

2022年8月24日、稲盛和夫・京セラ名誉会長が逝去されました。35年前、1987年の初登場以来、折に触れて様々な方との対談やインタビューにご登場いただくのみならず、たくさんの書籍の刊行、数々のご講演を賜るなど、ご恩は数知れません。
生前のご厚誼を深謝し、月刊『致知』12月号では「追悼 稲盛和夫」と題して特集を組みました。豪華ラインナップは以下特設ページよりご覧ください。

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常に自分を慎み、戒める

〈稲盛〉
私は、『南洲翁遺訓』を自分の机のそばに置き、ことあるごとに紐解いています。その中に、
 
「己れを愛するは善からぬことの第一也。修業の出来ぬも、事の成らぬも、過ちを改むることの出来ぬも、功に伐り驕慢の生ずるも、皆自ら愛するが為なれば、決して己れを愛せぬもの也」
 
という一節があります。
 
これは、

「自分を愛すること、つまり自分さえよければ人はどうでもいいというようなことは、最もよくないことである。修業ができないのも、事業が成功しないのも、間違いを改めることのできないのも、また自分の功績に驕る心を持ってしまうのも、みんな自分を愛することから生じるのであり、決してそういう利己的な思いを持ってはならない」

という意味です。
 
また、『南洲翁遺訓』には、次のような一節もあります。
 
「事業を創起する人其(その)事大抵十に七八迄は能(よ)く成し得れ共、残り二つを終る迄成し得る人の希れなるは、始は能く己れを慎み事をも敬する故、功も立ち名も顕(あらわ)るるなり。

功立ち名顕るるに随(したが)ひ、いつしか自ら愛する心起り、恐懼戒慎(きょうくかいしん)の意弛(ゆる)み、驕矜(きょうきょう)の気漸(ようや)く長じ、其成し得たる事業を負(たの)み、苟(いやしく)も我が事を仕遂げんとてまづき仕事に陥いり、終に敗るるものにて、皆自ら招く也。

故に己れに克ちて、睹(み)ず聞かざる所に戒慎するもの也」
 
つまり、事業を始める人の中で成功し続ける人が少ないのは、自分を愛する心が起こり、驕り高ぶることが多くなり、過信に陥るからであり、真の成功を成し遂げるためには、自分を慎み、自分を戒めることが大切であるというのです。
 
このように、西郷隆盛は、成功するためにも、さらにはその成功を持続するためにも、常に謙虚でなければならないと説いています。

満は損を招き、謙は益を受く

私は、昭和34(1959)年に京セラをつくっていただいて以来、従業員のため、支援してくださる方々のため、さらにはお客様のため、ひたすら仕事に打ち込んできました。
 
その結果、京セラは大発展を遂げ、やがて昭和46(1971)年に上場を果たすことができました。創業後わずか12年という早い上場をとらえて、マスコミや周囲の方々が、私に賞賛の言葉を投げかけてくれました。
 
実はそのころ、私にも、西郷が言うように、成功に驕り高ぶり、傲慢に陥りそうなときがありました。

「自分が中心になってつくった会社、自分の技術をベースにして創業した会社、自分が夜もろくろく寝ないで経営してきた会社ではないか。もっと自分が高く評価され、待遇がよくなってもいいのではないか」――そのような思いが私の頭をよぎったのです。

しかし、そのとき私は、京セラに成功をもたらしたのが、仮に自分の才能であったとしても、その才能は決して自分一人のものではないということに気づくことができたのです。
 
私は、経営者として、京セラという企業を成功に導いたかもしれないが、それは、天がたまたま自分という存在に、「世のため人のために使いなさい」と経営の才を授けてくれたからであり、その才能を自分のためにだけ使うようなことがあってはならない。

もし、自分に才能が与えられているなら、それは従業員のため、お客様のため、そして社会のために使わなくてはならない。そのためには、これまでの成功に驕ることなく、もっと謙虚に、さらに懸命に努力を重ねなければならない。このことに、気がついたのです。
 
私は、京セラが今日まで何とか発展を続けることができているのは、このことに気づき、謙虚さを失わず、社員と一緒に懸命な努力を続けてきたからに他ならないと考えています。


(本記事は稲盛和夫・著 『「成功」と「失敗」の法則』〈致知出版社〉から一部抜粋・編集したものです)

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――京セラ名誉会長・日本航空名誉顧問 稲盛和夫

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