国家プロジェクト「はやぶさ」のミッションを成功に導いたもの——川口淳一郎

探査機『はやぶさ2』が小惑星リュウグウへ着陸するなど、大きな話題を集めています。日本の頭脳、科学の粋を集めた「はやぶさプロジェクト」はなぜ成功できたのか。「はやぶさ」でプロジェクトマネジャを務め、「はやぶさ2」のプロジェクトにも関わる川口淳一郎さんに伺いました。対談のお相手は筑波大学名誉教授の村上和雄さんです。

日本は創造の国に変われるか

〈村上〉
その点、川口さんは、先代や先々代がつくられたよい場を生かして、「はやぶさ」のプロジェクトを見事成功に導かれましたね。ご自身ではプロジェクトを成功させる秘訣をどうお考えですか。

〈川口〉
難しい質問ですね。私はもともと研究者で、組織運営型の人間ではありませんから(笑)。

ただ、これまでにいろいろなプロジェクトを立ち上げてきて分かったのは、プロジェクトリーダーというのは映画で言えば、魅力的なシナリオをまとめるプロデューサーだと思うのです。

〈村上〉 
なるほど、プロデューサーですか。

〈川口〉 
プロジェクトの参加者はそれぞれにやりたいことをいっぱい持っているわけですよ。それらを実現できる範囲と手段を見極めて、いかに上手くブレンドして何もない無のところに一つの作品をつくり上げるか。そのシナリオが一人ひとりの夢を託せるものであり、誰が見ても意義があると思えるものであれば、もうそこからは自然に走り出していくでしょうね。

しかし実際は物凄く大変です。それをどうやって実現するのかといったら、やっぱり熱意ですよね。なんとかこのプロジェクトを実現したいという強い思いが次第に形になり、一つのものができあがっていくプロセス。ここが一番創造的で面白いと思うんですね。

〈村上〉 
おっしゃるとおりだと思います。

大学で研究費を獲得するためには、まずアイデアとその方法論がしっかりしていなければなりませんが、やはりなんと言っても、携わる人たちがその研究にどれくらい懸けているかが重要ですね。特にリーダーがその仕事に懸ける熱意。これがなければなかなかお金も取れないし、逆に身銭を切ってでもやろうという決意で取り組んでいると、お金はついてくるんですね。やっぱりこちらが熱意を持って取り組んでいることは周りに理解されるんです。

〈川口〉 
物事を成し遂げていく原動力はやっぱり熱意ですね。

〈村上〉 
稲の全遺伝子暗号を解読した時もそうでした。あの時はアメリカが国家戦略として情報を握ろうとしていたんです。稲が分かれば大麦も小麦も全部推定がつきますからね。けれども稲は我われ日本人の主食です。なんとしても日本が解読すべきだと考えて僕は挑戦することにしたんです。

随分苦労したけれども、熱意が通じて予算も付き、多くの方々の協力も得られて、明らかに劣勢だった日本がアメリカを逆転して解読に成功したんです。やはり熱意は天に通じるんですね。そして熱意は、そのプロジェクトに真にやりがいを感じるところから湧いてくるのです。

このことは、今後日本の将来を切り開いていく上でもとても重要だと思います。

〈川口〉 
おっしゃるとおりです。

日本の将来ということでは、製造の国から創造の国に変わっていくことも非常に重要な課題だと私は思うんです。

製造というのは前例があって、皆がそれに沿ってものをつくりますから価格競争になる道です。そうすると人件費の安いところに進出して安くものをつくろうということになるんですが、それだけでは勝負に勝てない。イノベーション、新しいものをつくる創造の道を進むことが重要です。

〈村上〉 
川口さんは、ナンバーワンよりオンリーワンとおっしゃっていますね。

〈川口〉 
はい。イノベーティブということは、存在していないものをつくるということで、そういう力が発揮できるような人材育成をしなければなりません。教育を変えるのは大変なことだと思いますが、やはりもっと既成の枠にとらわれない新しいものを目指すような、天の邪鬼な人間が増えてくれないと日本の将来は心もとないですね。

(本記事は月刊『致知』2013年10月号 特集「一言よく人を生かす」から一部抜粋・編集したものです。いまの時代に求められるのは「人間力」――人生や仕事、人材育成のヒントが見つかる!月刊『致知』の詳細・ご購読はこちら

川口淳一郎(かわぐち・じゅんいちろう)
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昭和30年青森県生まれ。53年京都大学工学部機械工学科卒業。58年東京大学大学院工学系研究科航空学専攻博士課程修了。同年旧文部省宇宙科学研究所システム研究系助手に着任し、平成12年教授に。「さきがけ」「すいせい」などの科学衛星ミッションに携わり、「はやぶさ」ではプロジェクトマネージャを務めた。著書多数。ノーベル医学・生理学賞受賞者の山中伸弥氏との共著に『夢を実現する発想法』(致知出版社)がある。

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