トップマーケッター・神田昌典が語る「9万7176人に調査して分かった顧客満足度の真実」

利潤と道徳を調和させることの大切さを説き、『論語と算盤』を記した渋沢栄一。『現代においてそれは「人間学とマーケティング」という言葉に置き換えられる』と国際的なトップマーケッター・神田昌典さんと、その懐刀である池田篤史さんは語ります。IoTの普及、超AI時代の到来……。混迷を極めるこれからの時代を、中小企業はいかに生き抜いていけばよいのか――。その方法と戦略を記したものが、このたび刊行される『人間学×マーケティング』です。本書から、一部をご紹介いたします。

「お客様の変化」をつかめているか?

「あなたは、あなたの顧客を理解できていますか?」

「??? うちは、お客様のことを大切にしているし、会話もしているから、ちゃんと、理解していますよ。」といわれるかもしれない。しかし、それは、本当だろうか?

【 お客様 】についての質問
以下の質問に、お答えください。

1. この1年、あなたの商品を購入したベスト10のお客様名をお答えください。

2. この1年、お客様ベスト3の購入金額をお答えください。

3. あなたのお客様はあなたの商品を購入するまでにどのような努力していますか?

4. この1年、お客様を紹介してくれた方のベスト3は?

5. あなたのお客様は、何がきっかけであなたの商品を知っていますか?

6. あなたのお客様は、なんという言葉であなたの商品を検索していますか?

7. あなたのお客様は、どんな場面で怒鳴りたくなるほど怒りを感じていますか?もしくは、どんなことに、夜も眠れないほどの悩み・不安を感じていますか?

8. あなたのお客様は、どんなことに、自分を抑えきれないほど欲求を持っていますか?

 

理解をしているということであれば、上記の「8つのうち6つ」は、経営者であってもしっかりと回答できるだろう。自社の顧客を理解していなければ、適切な経営判断はできない。

ベスト3の顧客の名前、購入金額、購入プロセス、媒体、ニーズ・ウォンツは知っておく必要はある。この質問を幹部や社員にも聞いてみてもらいたい。社員は、どれだけお客様のことを理解できているか?という自社の現状を、会議の場で訪ねてみるといいだろう。

意外かもしれないが、自社の担当社員が「自分たちのお客様がどういう人か?」を、深く理解できていない会社が意外にも多い。これは、本当に気をつけなければならない。なぜなら、自分たちはお客様を理解しているつもりでも、お客様は日々あらゆる環境にさらされている。変化しているのだ。そのことを見過ごしていないかを、一歩立ち止まって見つめ直してほしいのだ。

ホスピタリティ戦略は割に合わない?

この件に関連した驚くべき真実がデータ上で判明された。「The Effortless Experience」 という書が、翻訳書「おもてなし幻想:デジタル時代の顧客満足と収益の関係」(実業之日本社)で明らかにされた。CEBという会員制の大手顧問企業に所属するマシュー・ディクソン、ニック・トーマン、リック・デリシ氏の共著の書籍だ。

それによると、お客様と長期的にいい関係を築くカスタマーロイヤリティを高めるには、一般的には、感動的なホスピタリティだと思われてきた。しかし、実際は、異なっていたのだ。9万7176人の調査を行なったところ、実は、そこそこのサービスを提供したら、そこから先は、ロイヤリティは変動しないという事実だったのだ。しかも、お客様の声を聞いてお客様サービスの対応をすればするほど、満足度は下がりやすくなる可能性が高いということもわかったというのだ。 

要は、ホスピタリティの戦略は割に合わないということだ。
それよりも大切なことは、「WEBサイトにおいて必要な情報が探し出せない」「コールセンターになかなか電話がつながらない」といった、顧客側に、多大の手間や努力をさせないことだという。

「多大な手間・努力を要した人」:「努力を要さず滑らかにサービスを受けた人」で顧客のロイヤルティをアンケート比較した。結果は、なんと、実に、企業へのロイヤルティが低い&ないと答えた人の割合は、96:9の割合で「多大な手間・努力を要した人」の方が、ロイヤリティが低くなるということが判明したのだ。つまり、お客様の努力を減らすことで、ロイヤルティ低下を緩和することの方が重要になったというのだ。

一体、顧客に、何が起きているのか?
これは、カスタマーサービスの世界が、GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)の台頭・テクノロジーの普及によって、今までのサービスやホスピタリティ概念から、すでに変わりつつあるということを意味している。

なかでも最も注目すべきは、セルフサービスの概念だ。顧客企業との接し方が変化し、今ではもう、顧客は簡単な問題について電話で問い合わせたりしない。現実問題として、顧客は、同業他社はもちろん、あらゆる業種の企業と比較されている。つまり、あなたが提供している顧客体験も、AmazonやGoogleのように、なめらかに購入できてしまうサービスと比べられているのだ。

よく考えてみれば、それもそうだろう。今の時代、Amazonで注文に慣れた人が、他のものを注文するにも、無意識下でAmazonと比較する。すると、当然、電話やfaxで注文するということはなくなっていく。ボタン1回、少なくとも2回押すだけで商品が届いて当たり前、という認識に変わってしまっているのだ。

ところが、あなたのサービスはどうか?
仮に、何回も、何回もボタンを押して、ページ遷移されたあげく、商品がよく分からない。申し込みできているのかどうか、何となく不安。直接電話して聞いてみないと確認できない。というような努力をかけさせているようであれば、それは、もはやロイヤルティを下げさせる要因のなにものでもない。

あなたの会社で、実際に思い当たる節はないだろうか?
具体的には、「サイトを見ても、目星の商品が見つからない」「商品の説明内容が分からない」「疑問が残る」「どこに問い合わせて良いのかが分からない」「電話をしてみたら繋がらない」「やっと繋がったらたらい回しにされた」「ようやく理解できたと思ったら、また疑問点が出てきた……」など。

一体、お客様にどれだけの努力させてしまっているか?どれくらいの努力をお客様側に要しているだろうか?少し想像をしただけでも、目を覆いたくなる、恥ずかしくて身体中が真っ赤になる思いの社長もいるのではないだろうか。これが、「顧客サービスはそこそこにした方が、顧客努力を要される時よりも、4倍も離脱率が低い」というのもデータ上、真実である。

さらに、商品が悪いという経験をした人は、32%程度しか周りに悪評を広めないにも関わらず、顧客対応が悪いという経験した人の65%が、周りに悪い口コミを広めるという。つまり、人的サービスを加えてしまうと、ネガティブの口コミが倍々になっていくということだ。なんとも、恐ろしい事実だろうか。

さらに、である。51歳から上の年齢層は電話での対応がいいという評価だが、50歳以下は電話したくないという結果もすでに出ている。たいていの顧客はセルフサービスで解決できれば、何の不満もない。これは、BtoB、BtoC、業界に関係なく、問題のタイプや、顧客層を超えて、当てはまる事実である。

 

『人間学×マーケティング』(神田昌典、池田篤史・著)

定価=本体1,500円+税

 

◇神田昌典(かんだ・まさのり)————————————————————————————

昭和39年埼玉県生まれ。上智大学外国語学部卒業。大学3年次に外交官試験に合格し、4年次より外務省勤務。その後、ニューヨーク大学経営学修士及びペンシルバニア大学ウォーオンスクール経営学修士(MBA)取得。コンサルティング会社を経て、平成7年米国ワールプール社日本代表に就任。10年経営コンサルタントとして独立。現在アルマクリエイションズ社長。著書に『あなたの会社が最速で変わる7つの戦略』(フォレスト出版)『都合のいい読書術』(PHPビジネス新書)など多数。

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