トップバレリーナ・吉田都 世界の大舞台で闘い抜くプレッシャーの「活かし方」

日本を代表するバレリーナ・吉田都さん。世界三大バレエ団と称される英国ロイヤル・バレエ団をはじめ、イギリスの伝統あるバレエ団でプリンシパルを務めてきました。吉田都さんはいかにして世界の大舞台で結果を出し続けてきたのでしょうか。その秘訣を語っていただきました。

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うまくいくと信じる

――プリンシパルとして背負われてきた重責は並々ならぬものがあったのではないですか。

〈吉田〉
そうですね。ランクが下の時に主役を踊ると、たいてい褒めてくれるんですけれども、プリンシパルになった途端、完璧に踊れて当たり前という感じで、さらに上のレベルを求められる。周りの見る目が急に変わるんですね。

公演のチケットもプリンシパルの名前で売られるようになりますから、プレッシャーも半端ではありません。

――すべてが自分自身にかかっていると。

〈吉田〉
ある時、先生に「都は昨日もきょうも同じ作品を踊るけど、きょういらしているお客さんの中には初めて見る方もたくさんいる。だから、都も初めての気持ちで舞台に立ってくれ」と言われたことがあります。

同じ作品の舞台であっても毎回新鮮な気持ちで、高いレベルを保って、お客様に感動を与えられるのがプロであり、日々のお稽古や日常生活のすべてが舞台上で曝け出されます。ですから、何をやるにしても常に本番の公演に焦点を当てて、行動するように心掛けていましたね。
 
サドラーズウェルズ・ロイヤルバレエ団のプリンシパルを7年間務めた後、29歳の時に英国ロイヤル・バレエ団にプリンシパルとして移籍したんですけれども、移ってからはもっと大きなプレッシャーにぶち当たりました。

――といいますと?

〈吉田〉
サドラーズウェルズの和気藹々とした雰囲気とは違い、英国ロイヤル・バレエ団はさすが世界三大バレエ団の一つと称されるだけあって、ダンサーたちのプライドの高さと情熱の強さには圧倒されるほどのものがありました。

100名ほどいるダンサーの中からプリンシパルになれるのは僅か6~8名。普通なら私もコール・ド・バレエから競争を勝ち進み、その座を掴まなければならないのに、いきなりプリンシパルのランクで横から入ってきたわけですから、もともといたダンサーたちにしてみれば面白くない存在なのは当然でしょう。当初は私を責めるような冷たい視線を浴び、随分肩身の狭い思いをしました。

――そういう中で15年間、英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパルを務めてきたわけですが、いかにしてプレッシャーと向き合ってこられましたか。

〈吉田〉
ある意味、鈍感力を育んでいくというか、そういう周りの視線や陰口をシャットアウトして、自分のなすべきお稽古やリハーサル、舞台に集中するようにしていました。
 
15年の間には、舞台に立つ自信が持てない時も怪我で苦労した時もあります。プレッシャーが高まると、失敗するかもしれない、舞台に立つのが怖いといったようにネガティブな思考に陥りやすく、不思議なことに心がぶれると体の軸までぶれてくるんです。
 
そういう時は自分のネガティブな気持ちを否定せず、とことん見つめ、向き合い、じっくりと味わい尽くす。そして、今度は笑顔で一杯のカーテンコールの様子など、よいイメージを頭に浮かべ、とにかくできる、うまくいくと信じる。このようにして本番に臨んでいました。

本当に日々闘いという感じで、プリンシパルとしてずっと主役を踊りながらも、自分の中で納得いく表現がなかなか見つけられない時期が長かったですね。自分の信じる踊りでいいんだって思えたのは、英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパルになって10年以上経ってからです。

――絶えず悩みや葛藤を抱えておられたのですね。

〈吉田〉
でも、そうやって何か自分で足りない部分を感じているってことは、明日へのエネルギーになりますよね。もっと自分の理想に近づきたいという気持ちで、自分の欠点を改善していく。よりよく魅せるにはどうしたらいいかってことを考えて努力する。

もしすべて恵まれていて、すぐに自分の理想とする踊りができていたら、ここまで続いていなかったかもしれません。

例えば、海外の人だったらパッと立つだけで美しいラインが出て、手足も長いから舞台映えするという中で、私は人一倍お稽古に打ち込んできましたし、そういうものがあったからこそコツコツと頑張ってこられたのかなと思います。


(本記事は月刊『致知』2017年10月号 特集「自反尽己」から一部抜粋・編集したものです)

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◇吉田 都(よしだ・みやこ)
1965年東京都生まれ。9歳からバレエを始める。83年ローザンヌ国際バレエコンクールでローザンヌ賞を受賞し、英国ロイヤル・バレエスクールに留学。84年サドラーズウェルズ・ロイヤルバレエ団に入団。88年プリンシパルに昇格。95年英国ロイヤル・バレエ団にプリンシパルとして移籍。以後2010年に退団するまで、数多くの舞台で主役を務める。現在はフリーランスのバレリーナとして舞台に立ち続ける傍ら、後進の育成にも力を注ぐ。著書に『バレリーナ 踊り続ける理由』(河出書房新社)。

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